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とうめいにんげん

作者: 立木十八

 

 ぼくはとうめいにんげんだ。

 うそじゃない。

 ならしょうこをみせろって?

 ざんねんだけど、しょうこはみせられない。

 なにせ、とうめいだからね。

 みえないっていうのが、なによりのしょうこだ。

 わかってもらえたかしら。


 でも、うまれたときからとうめいだったんじゃあない。

 ちょっとしたわけがあって、こうなった。

 そのわけというのが、このけしゴム。

 みたところ、ただのちびたけしゴムだけど、そうじゃない。

 なんとこれは、けしたものをとうめいにしちゃうけしゴム。

 うそだとおもう?

 ならしょうこをみせる。

 きみのみのまわりにあるものを、ひとつとうめいにしてやろう。

 ごしごし、と。

 ほらね。

 といっても、とうめいにしちゃったからみえないか。

 だいじなものじゃなければいいけど、もしひつようになったら、よくさがしてみて。

 とうめいになったからって、なくなったわけじゃない。

 みえないけれど、どこかにあるよ。


 さて、このけしゴムは、いつのまにか、ぼくのふでばこにはいっていてね。

 あるひ、ぼくは、つくえにらくがきをしておこられた。

 きれいにけしなさい、っていわれたから、このけしゴムをつかってけしていたんだ。

 ところが、ごしごしこすったら、らくがきだけじゃなくて、つくえまできえた。

 そのせいでよぶんにおこられた。

 びっくりして、なにがなんだかわからなかった。

 だけど、つくえはみえないだけで、ほんとうはきえてなかった。

 さわればそこにあったし、ものもおけた。

 そのあとも、けしゴムをつかうたびに、どんどんものがきえてった。

 ごしごしけしたら、どんどんきえた。

 ノートも、きょうかしょも、とうめいになったら、もうつかえない。

 とうめいなエンピツは、なんにもかけない。

 そうして、やっとぼくはきづいた。

 これは、もののすがたをけして、とうめいにしちゃうけしゴムなんだって。


 ところで、いまじゃもうみえないけど、ぼくのかおのはなのしたには、でっかいほくろがある。

 このほくろのせいで、つけられるあだなは、いつも、はなくそ。

 ぼくはそのあだながすごくいやでね。

 どうにかして、ほくろをけせないかなって、ずっとおもってた。

 そこで、ぼくはけしゴムをつかって、ほくろだけをけそうとしたんだ。

 かがみをみながら、ゆっくりと、すこしづつ、ほくろだけを、こすって、けしていった。

 でも、はなのしただったから、うっかりけしゴムのかすを、すいこんじゃった。

 はなが、むずむずして、がまんできずに、くしゃみをした。

 てもとがくるった。

 あわてて、かがみをみたら、はながまるきりきえてた。

 わかる? かがみにうつったぼくのかおは、はなのところだけがきえていて、うしろのかべがみえてるんだ。

 どうしようっておもったね。

 はながないなんて。

 これじゃ、みんなに、どんな、あだなをつけられるかわからない。

 はながあるだけ、はなくそのほうがまだましだった。

 どうにかもとにもどせないかと、いろいろためしてみた。

 おかあさんのけしょうどうぐを、ちょっとかりて、はなにぬってみた。

 そしたらはなは、そこにでてきた。

 でも、いろがへんだ。

 それに、けしょうひんのにおいで、はながむずむずする。

 また、くしゃみがでた。

 ほかにも、えのぐ、クレヨン、いろエンピツ、たくさんためしてみたけれど、どれも、いろがへん。

 みんな、はだいろのはずなのに、ぼくのはだいろとは、ちょっとちがった。

 それに、こんなのおふろにはいったら、すぐにおちちゃう。

 プールにでもはいったら、みんなにはすぐにばれちゃう。

 かおもあらえないなんて、きたないし、いやだ。

 ぼくは、かがみのまえでなやんだ。

 うんうんうなっているうちに、ひらめいた。

 はなだけきえてるからおかしいんだ。

 ぜんたいきえてればおかしくない。

 ぼくはごしごしからだをこすった。

 おふろでからだをあらうみたいにね。

 おなかからはじめて、むね、かお、あし、さいごに、てだ。

 からだについた、けしゴムのかすを、さっとはらって。

 そうして、ぼくは、すっかりとうめいにんげんになった。


 ここでもんだい。

 このけしゴムを、とうめいにするにはどうしたらいいでしょうか?

 こたえはかんたん。

 けしゴムをふたつにきって、めいめいけせばいい。


 もひとつもんだい。

 ふたつにきらないで、このけしゴムをけすにはどうしたらいいでしょうか?

 これはもっとかんたんだ。

 だって、けしゴムなんだもん。

 つかいきっちゃえばいい。

 もんだいおわり。


 さて、とうめいになったぼくは、だれにもみえない。

 いたずらしほうだいだ。

 うちでかってる、いぬのジョンをとうめいにした。

 みえないジョンにほえられて、みんなびっくりしてた。

 いりぐちのドアをとうめいにした。

 みんな、きづかずに、かおをぶつけた。

 どうろにとめてある、じゃまなくるまをとうめいにした。

 もちぬしが、きょろきょろさがしまわってた。

 あ、おとうさんのかみのけをけしたのは、ぼくじゃない。

 あれは、もとから、ない。

 でも、いろいろやって、やりすぎた。

 さすがに、みんなにきづかれた。

 それはそうだ。

 ぼくがけしゴムをつかってけしたものは、ほんとうはそこにある。

 ただ、とうめいになっただけなんだから。

 そのうち、だれのいたずらなのか、みんながさがしはじめた。

 ばれたら、まずい。

 ぼくは、どこかにかくれようとおもった。

 でも、どこに。

 かくれんぼはにがてだ。

 どこにかくれても、すぐみつかっちゃう。

 どこか、だれもいないところがいい。

 どこか、だれもこないところ。

 そんなところ、あるだろうか。

 あった。

 それは、よぞらにぽかりとうかんでいた。

 おつきさまだ。

 どうやらこんど、つきにロケットをとばすらしい。

 それにこっそりのせてもらって、つきまでいけば、もうみつからない。

 いいかんがえだとおもわない?

 ぼくは、これから、そうするつもり。

 もうみんなとはあえなくなるけど、どうせみんなはぼくのことがみえないんだし。

 さみしくはないだろう。

 ぼく?

 ぼくは、まあ、すこしはさみしい。

 もう、だれともあえないんだからね。

 でも、だいじょうぶ。

 いぬのジョンもつれていくしね。


 つきにいったら、しょうこをみせろって?

 そういわれても、てがみはだせない。

 でんわだって、きっとつうじない。

 そうだ、ひらめいた。

 もう、このけしゴムは、すっかりちびちび。

 だから、ぜんぶはむりだけどね。

 すこしだけ、つきをけしてみようか。

 きみ、たまにきがむいたら、よぞらをみあげてごらん。

 まあるい、おつきさまが、かけているかもしれないよ。

以前に書いた作品。

全編ひらがななので読みづらかったかと思います。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 楽しく読みました。 悲しさに比重が傾いていないところが好きです。 こんど夜空を見上げて、月が欠けていたら手を振ってみます。振り返されても見えませんが(笑)
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