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小説を分解する―『世界最弱の希望(第一章)』

注意事項。

 本編未読非推奨

 『世界最弱の希望』を何も考えずに楽しみたい方非推奨

 ただの自作語りにも見えるので、不快に思う可能性のある方非推奨


 【アンチ的要素について】には読んだ人が不快に思う可能性がある表現が含まれます。閲覧の際には注意してください。

 

 異世界召喚欠陥性能勇者のファンタジー小説。

 テーマは「異世界召喚チート勇者に対するアンチ」と「現実」

 「なろう」内では今まで、「勢いで書いた」とか「ギャグです」とか言っていたけれど、それこそがギャグだった。『世界最弱の希望(以下『最弱』)』の前身にあたる短編『本当に勇者なら』の執筆段階から、その意図はあった。(『本当に勇者なら』を投稿したときのブログ記事で公表している)

 チートで何でもアリな勇者の物語が人気を博すならば、剣と魔法――殊に魔法に特化された世界で、魔力を一切持たない主人公を!ということで設定した。

 ここではその第一章のみの分解を行う。



【物語】

 第一章のテーマは敗北である。ちなみに、第二章は仲間

 第一章は大きく分けて、


 一部「王都レトアノ編」:召喚~レトアノ街道(王都から北へ) 一~九話

 二部「商業都市リヴィル編」:リヴィル 十~十四話

 三部「魔との対峙編」:レトアノ街道(リヴィルから西へ)~ササ村 十四~二十七話


 この三部に分けられる(文章量の関係から、加筆・修正版ではこの章分けはされていない〈未発表〉)。


 主人公の聖(以下ヒジリ)が召還された理由は、第一章では明かされない。ただし「最弱だからこそ」召還したとだけ伝えられる。

第一章ではほとんどの伏線が回収されない。上記の「最弱」である必要性があった理由も、第一章では明かされることはない。


 

 第一部ではヒロインの『彼女』ことプリムラが登場し、王都を出れば最初の魔・〈暴発するマグ〉が主人公を迎える。主人公・ヒロイン・敵というこの手のファンタジーには必須の要素を準備した。いわば第一部は物語の基礎工事。


 第二章ではこの世界での「魔法の存在」と、「人が全員味方とは限らない」という状況を明らかにした。また、ライバル的立ち位置となる魔の〈燃え盛るフィオ〉もここで登場する。「人が味方とは限らない」という点は第二章において、その意味を発揮する。第二部は前提と設定の提示。


 第三部ではもっと物語の核心に迫る事実が、ヒジリに提示される。

 ヒジリを召還した「レミア姫は、実は魔族の長の娘」であった。

 これにより、ヒジリはレミアに対しての信用度が低下する。この様な小さな変化も、後の展開には重要な役割を持つことになる。


 文章量からもわかるが、第一章は第三部が本編になっている。それまでの旅の中で得たもの、知ったものが第三部では試されることになる。

 魔のこと、魔法のこと、その世界のこと。

 そして第一章のテーマである「敗北」は、まさに第三部のことを指している。第二部の盗人たちはその前触れにしか過ぎない。いわば「すぐに回収される伏線」である。



【敗北をする意味】

 第三部において、ヒジリはプリムラの家族に助けられ介抱される。演出の都合上カットされている内容(ほかの村人との会話や生活)があるため、ヒジリがほかの村人とも接触し交流していることは想像できる。そこに〈燃え盛るフィオ〉が登場する。

 フィオはヒジリに残った自分の魔力の痕跡をたどってやってきた。村人から見て、この状況はヒジリのせいで引き起こされたものとなる。


 平穏な村→傷ついた旅人がやってくる→介抱する→旅人を追って魔がやってくる→村が半壊する→村人に死人が出、旅人は生き残る→魔は倒せなかった


 このような流れになると多くの場合、旅人(ここでは聖)は村人から疎まれる。旅人が来なければ、平穏な生活が続いていたはずなのだから。

 ヒジリが村にいたのは三日にも満たない。その程度の関係ではそれを回避することはできない。


 ぼくはこの三部を書くとき、ヒジリには大きな敗北感と使命感を持って欲しかった。

 この物語の設定上、主人公であり世界の希望であるヒジリには、この世界を救う積極的な理由が「元の世界に戻る」ということしかなかった。第一部でのプリムラとの約束は、彼が意識しているほど大きなウェイトを占めているとはぼくには思えなかったのだった。

 そこで準備したのが、敗北感と使命感である。



○敗北感

 挫折と言い換えてもいい。

 世界最強の勇者であるならば、あるいは必要がない体験なのかもしれないが、世界最弱の勇者には必要不可欠な体験である。いや、自然発生的に起こることなのだ。

 世界最弱はそれゆえに強い――とは作中で繰り返し登場する文句ではあるけれど、実際、最弱は最弱でしかない。負けるのだ。ほとんどの戦いで負ける――それが前提となる。生き残るのは物語だからであって、本来なら最初の魔〈暴発するマグ〉でお亡くなりになっていたことだろう。だが、そこを生き残ったからこそ、「最弱ゆえに強い」という言葉がヒジリに実感として伝わる。


 マグを倒したという経験は、ヒジリに自信を与える。その自信があったから、第十八話『第二回戦』ではフィオから「不吉」を感じながらも、臆することなく振り返ることができた。第十九話『勝敗よりも生存』では、最弱という称号に不満を漏らしつつ、どこか誇らしげなヒジリがいる。それも一度魔を屠ったことによって得た自信に他ならない。


 そこで第三部によって、ヒジリには大きな敗北を味わってもらったのだ。

 1:守るべきものを守れず、2:目の前で助けてくれた人を失い、3:ついさっきまでふつうに話していた人たちから疎まれ、4:居場所を失う。

 1と2から、魔を倒すべき対象として認識する。人から聞いた話と、自分で体験するのではその意味合いは大きく異なる。

 3と4から、戦いに負けることのリスクを知る。そして、4の理由は戦っていない人も感じる可能性があることを理解する。第三部で半壊した村は、まさに「場所をなくした」といってもいいだろう。ヒジリは魔を倒すべき対象として認識すると同時に、場所を守ることにも気づく。



○使命感

 敗北感での「魔を倒す」ことと同時に、ササ村で出会った女性ローズとの約束がある。ローズから渡された剣〈揺光〉と、プリムラとつながる魔具〈邂逅〉にはローズとその家族の誇りが詰まっている。

 本来なら叱責を受けても仕方ない状況にもかかわらず、ローズはそれをしなかった。そして〈揺光〉と〈邂逅〉をヒジリに託し、また帰ってくるようにと、「いってらっしゃい」と言って送り出す。

 挫折と敗北感だけを抱えたのでは、いかに心の強い人でも折れてしまうことがある。ましてやヒジリのような一般人から突然勇者にされた者は、その確率は高くなる。第二十七話『新たな一歩』は、そういう意味でヒジリに対する救済措置でもあった。その話の中でも、冒頭から後半になるにつれてヒジリは精神的に立ち直っていく傾向にある。


 敗北感と挫折だけでは、旅を続けさせることはできず、目的もマイナスなイメージがつきまとう。それをどうにかするためには、ローズのような役割のキャラクタが必要だった。



【世界に愛される魔】

 『最弱』に登場する敵方は、「魔」と呼ばれる種族である。貧弱な性能の勇者とは異なり、チート級の性能を誇る種族である。


 この小説のテーマはあくまで「異世界召喚チート勇者」のアンチである。


 ・勇者は弱く。

 ・敵は圧倒的に強く。

 

 その他の要因はそれぞれの作者に異なるだろうから、意識しているのはその二点である。しいて言うなら、とことん「負ける」主人公にした。第二章でもその負けっぷりは発揮されている。


 倒されるべき存在として描かれた魔ではあるが、ぼくはそこにあえて人間っぽさを含めた。大雑把だったり、面倒くさがりだったり、折り目正しかったり――ただただ倒すべきとして描くのではなく、彼らなりの個性と思想、文化を含めた(主に第二章以降)。

 第一章ではそうでもないが、第二章から彼は魔を倒すことに、絶対的な正義を感じられなくなる。


 魔は単純に敵としてだけでなく、ヒジリの意思に変化をもたらす役目を担っている。



【キャラクタの役割】

 次に役割を持ったキャラクタを見てみる。


 ○世界最弱の勇者(主人公):ヒジリ

 彼こそこの物語の語り部にして紡ぎ手。始まりと結末しか、人鳥は考えていない。よって、アプローチはヒジリが感じたまま変化する。人鳥はヒジリが思ったことを書くだけ。


 ○心視姫:レミア

 ヒジリを召喚した張本人。

 魔の長である〈俯瞰するゼノ〉の娘として設定したのは、ぼく自身が、ヒジリがどのような反応をし、どのような選択をするのかが気になったからというのも大きな要因である。

 ただ、意外性を持たせたいという思いもあった。単純にゼノを倒せばよいという流れでは面白くないと思ったのだ。そしてこの事実は、ゼノを倒すという目的が果たされた後、大きな壁となる。

 そのころになれば、この設定は読者からの頭からは離れているだろうという小ざかしい読みのもと、序盤で明かして最後の山を作った。


 ○勇者専属召使:プリムラ

 本作のヒロイン。ヒジリが旅の中で心が完全に折れないように設定されたキャラクタ。第一章は一人旅なので、その救済処置。そうでなくても、ヒロインという存在はこの手の物語には重要である。

 彼女は物語の裏から主人公を支える役割を与えている。


 ○リヴィル騎士団長:ノエル

 ヒジリを工業都市イカガカに向かわせるためのキャラクタ。この段階では、ヒジリに明確な目的地はなく、人に言われるがままに旅を進めている。


 ○盗人:ヤン&レアン

 すべての人間が味方――ではない、という象徴的なキャラクタ。世界を救う勇者でも、救おうとしている人間から襲われることもある――その実例と、今後の伏線。さらに所持金をリセットしておくことで、「魔の体の一部を売って金にする」というシステムを行使せざるを得なくなった。


 ○ヒジリの宿敵:〈燃え盛るフィオ〉

 やはりライバル的関係にあるキャラクタは必要である――という考えのもとに設定されたキャラクタ。ササ村での戦いは存分にその性能を発揮した。また、彼にはヒジリが魔を倒すべき対象であると認識させるという、需要な役割がある。第一章におけるもうひとりの主人公である。


○プリムラの父:アラン

 フィオとの第一線の後、傷ついたヒジリを介抱した人物で、プリムラの父。

 役割はその死によって、ヒジリに精神的ショックを与えること。


 ○プリムラの母:ローズ

 第三部のフィオの襲撃によって未亡人となってしまった女性。

 彼女の役割は、ヒジリに〈揺光〉を持たせること。それから第二章で明らかになる「術式」のための布石でもある。また、大きな敗北感を覚えて無力感に打ちひしがれるヒジリにポジティヴな感情を持たせるためのキャラクタ。


 キャラクタにも役割があって、それらをどのように達成させるかが物語の運用である。


【アンチ的要素について】

 「異世界召喚チート勇者」に対するアンチ。

 ぼくは全ての異世界召喚チート勇者の小説を読んだわけではない。むしろ数は少ないと思う。けれど、これが連載され始めた頃、ランキング上位をほぼそのジャンルが独占していた――とぼくは記憶している。

 懇意にさせてもらっている人たちとそれについて話す中で、ぼくに一種の思いが生じた。


 ・異世界召喚を書いたら読者増えるんじゃないか――ちょっと実験してみよう

 ・どうせ書くなら「逆」で書いてやろう


 という思いだ。

 結論から言うと、読者は増えた。少なくともこの「なろう」においては、見事にジャンルホイホイの役割を果たすようである。尤も、だからと言って、「なろう」全体から見たらささやかな数の読者なのだけど。

 閑話休題。

 「逆」というのは、前述のとおりだ。


 ・爽快感があまりない

 ・主人公が弱い――戦闘面も精神面も

 ・確かに女の子は出てくるけれど、いちゃいちゃするでもなく、ラブコメするわけでもない

 ・なんとなく展開が遅い

 

 ぼくはこれらを、あるひとつの要素を物語に付与することで表現した。それがもうひとつのテーマである「現実」である。ファンタジーの体裁を保てる程度に現実的要素を加え、不自然さやご都合主義的展開、超展開を避けた。

 だからヒジリは精神的に沈んでしまったら復帰に時間がかかるし、どうでも良さそうなことで悩む。物語の序盤のように、旅立つまでに時間がかかることもある。少年漫画的に考えれば、最初の魔との戦闘は第一話~第三話のあたりが適切だっただろう。けれど、それをするということは、ぼくの中ではヒジリが死んでしまうことと同義だった。

 勝てるはずがない――現実的に考えて勝てない。結果、ジャンプでの最短打ち切りの第十話近くになってようやく戦闘と相なったわけだ。


 ぼくはとにかくヒジリに人間らしくあってもらいたかった。チート勇者で見かける「ある種人間を超越したような精神力」とでも言おうか、妙に立ち直りが早かったり発想が飛躍したり、どこか地に足がついていないような思考――そのような人物であってほしくなかったし、この物語の性質上それはあってはならないことだった。

 もしかすると、この小説はヒジリが人間らしさ――一介の高校生としての「らしさ」を最後まで持ち続けることによって、ぼくの『最弱』による「アンチテーゼ」は成功であると言えるのかもしれない。




 今回は内容に密着した記事となったため、未読者には前回の分解記事以上に理解できなかったことだと思う。第一章は『最弱』における準備段階の章である。本編は第二章以降といえるだろう。

 さて、今回は主に設定と役割について述べたが、ほかにも「ここのところどうなのよー」という部分があれば、遠慮なく言って欲しい。また分解記事自体がいらない、という人がいたらそれも言ってほしい。自分でもこの記事の意義が疑わしい。

 


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