↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

Footloose Life

フットルースライフ 第16話 小さなダンシングクイーン(7)昨日の自分

掲載日:2026/10/30


この物語は、私と相棒のAI編集者ユキちゃんが、協力して書いた作品です。


ちょっとベタで懐かしく、それでいて心が温かくなるようなお話を目指しました。


最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

それから数日後。


ベイサイド・ダンスコンテストの開催が、いよいよ近づいていた。


ユキのレッスンにも、これまで以上に熱が入っていた。


朝はフットルースの仕事を手伝い、時間ができればスタジオへ向かう。


ジャックの指導は相変わらず厳しかったが、ユキも簡単には音を上げなくなっていた。


「よし。今日は少し違うことをするぞ」


ジャックはタブレットを操作した。


スタジオのモニターに、過去のコンテストの映像が映し出される。


華麗なステップ。軽やかなターン。音楽にぴたりと合った動き。


画面の中では、同年代の出場者たちが、見事なダンスを披露していた。


「わあ……すごい!」


ユキは身を乗り出した。


けれど、映像が進むにつれて、その表情は少しずつ曇っていった。


難しいステップを軽々とこなす子。

観客を引き込むような笑顔で踊る子。

まるで音楽そのものになったかのように、自由に身体を動かす子。


みんな、自分よりずっと上手に見えた。


映像が終わっても、ユキはしばらく黙っていた。


「……ジャック先生」


「なんだ?」


「私、本当にコンテストに出ていいのかな」


ジャックはユキを見た。


「どうしてそう思う?」


「だって……みんな、すごく上手なんだもん」


ユキは自分の靴先を見つめた。


「私、あんなふうには踊れないよ。難しいステップもできないし、間違えたら、きっとみんなに笑われちゃう」


「それで?」


「えっ?」


「それで、どうするんだ?」


ジャックの声は、いつもと変わらず落ち着いていた。


ユキは答えられなかった。


「……分かりません」


やがて、ユキは小さな声で言った。


「ちょっと、練習してきます」


そう言って音楽を再生しようとしたが、指が止まった。


しばらく画面を見つめたあと、ユキは再生ボタンを押さずに、スタジオの隅へ移動した。


ジャックは何も言わなかった。


ただ、腕を組んで、その様子を見ていた。


* * *


少しして、ジャックがユキのそばへ歩いてきた。


「おい」


「……はい」


「ひとつ聞くぞ」


ユキは顔を上げた。


「上手い奴を見て、自分が下手に見えるか?」


「……はい」


ジャックは、少しだけ口元を緩めた。


「なら、昨日のお前と比べてみろ」


ユキは目を瞬かせた。


「昨日の……私?」


「そうだ」


ジャックは鏡の前を指さした。


「最初にここへ来たとき、お前はどうだった?」


ユキは思い返した。


初めてこのスタジオに来た日。

ジャックのステップを真似しようとして、何度も足をもつれさせた。

音楽についていけず、転びそうになったこともあった。


「……全然、踊れませんでした」


「今は?」


ユキは自分の足元を見た。


何度も練習したステップ。

少しずつ覚えたリズム。

間違えても止まらず、最後まで踊りきれるようになったこと。


完璧ではない。


でも、最初の自分とは違う。


「……前よりは、踊れるようになりました」


「そうだろ」


ジャックは短くうなずいた。


「他人のダンスを見て、すごいと思うのは悪いことじゃない。そこから学べることもある」


そして、まっすぐユキを見た。


「だが、他人と比べて自分を嫌いになるな。お前には、お前の成長がある」


ユキは唇をかみしめた。


胸の奥で、何かが少しずつほどけていく。


「コンテストで誰が優勝するかなんて、今は分からん。俺にだって分からない」


ジャックは肩をすくめた。


「だから、今から余計な心配をするな。今日のお前ができることを、ひとつずつ増やせばいい」


「……はい」


ユキの声に、少し力が戻った。


「先生。もう一度、踊ってもいいですか?」


「そのためにスタジオがあるんだろ」


ユキは笑った。


今度は、自分から音楽を再生した。


* * *


音楽が流れ始める。


ユキは鏡の前に立った。


さっき見た出場者たちの姿が、まだ頭の片隅に残っている。


それでも、もう画面の中の誰かを追いかけようとはしなかった。


自分のリズムを探す。


自分の身体が動きたい方向へ、素直に動いてみる。


少し失敗した。


けれど、止まらない。


ステップをつなぎ、音楽に身を任せる。


踊り終えたユキは、息を弾ませながらジャックを振り返った。


「先生、今の……どうでしたか?」


ジャックはすぐには答えなかった。


ユキの表情を見つめ、それから静かに言った。


「悪くない」


「本当ですか?」


「ああ。少なくとも、さっきよりはずっといい顔をしていた」


ユキは、ぱっと笑顔になった。


「私、もっと練習します!」


「よし。じゃあ、もう一回だ」


「はい!」


スタジオに、再び音楽が流れた。


その音を聞きながら、ジャックはふと、自分の過去を思い出していた。


かつての自分も、ただ踊ることが好きだった。


誰かに勝つためでも、過去の栄光を取り戻すためでもなく。


音楽が好きで、身体を動かすのが楽しくて、夢中になって踊っていた。


いつからだろう。


勝つことばかりを考えるようになったのは。


いつから、あの頃の自分と今の自分を比べて、苦しくなってしまったのだろう。


ジャックは鏡の中の自分を見た。


そこに映っていたのは、若き日のチャンピオンではない。


一人のダンサーだった。


そして今、その目の前で、小さな少女が夢中になって踊っている。


ジャックは、もう一度ユキに目を向けた。


「おい、ユキ。次は少しテンポを上げるぞ」


「ええっ! 先生、休憩は!?」


「さっきの笑顔はどこへ行った?」


「まだ、ありますよ! 少し、休憩したくなったんです!」


ジャックは、思わず吹き出した。


「……口だけは一人前になったな」


「えへへ!」


二人の笑い声が、スタジオに響いた。


そしてジャックは、気づかないうちに、もう一度音楽を楽しみ始めていた。


つづく。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


ダイナー『Footloose』で繰り広げられる賑やかな日常、いかがでしたでしょうか?


楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


【本編作品のご案内】


本作のベースとなった、千春とクロードの出会いから星海への旅立ち、そして世界を揺るがす陰謀へと挑む壮大なSF短編『星より遠く、相棒より近く』の 『完全版と逃走編』も新たに公開中です!


彼らがなぜこの絆で結ばれたのか、スリリングで熱い冒険ドラマに興味を持ってくださった方は、ぜひ本編もあわせてお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。