しんちゃん先輩
恋が進むとき、
本人よりも先に気づいている人がいる。
そんな先輩の話。
氷が一つ、グラスの中で溶けて、
カラン、と乾いた音を立てた。
バイクの話をするために、朱海と約束している。
俺は親の車をもらうので、バイクはもう卒業だ。
安く譲ってやろうと思う。
俺の先輩がそうしてくれたように。
今日は、バイク乗りの人達が集まっているはずだ。
あいつを連れて行ってやろう、きっと喜ぶ。
氷の音が合図だったみたいに、朱海がやってきた。
「おまたせ、しんちゃん」
先輩がふざけて「しんちゃん」なんて呼ぶから、
いつの間にかあだ名がそうなってしまって、定着してしまった。
でも、女の子達からは好評だ。
ある意味ラッキー。
朱海は軽く手を上げて、向かいに座る。
相変わらず眩しい笑顔だ。
さぞもてるだろう。
「おーっす、一週間ぶり。とりあえず食おうぜ。腹減った。」
「俺も、大盛にしよっかなぁ。」
バイクの話は盛り上がった。
エンジン音の話、形式、癖、夜走ると気持ちいい場所、
俺が朱海に譲る予定のバイクの状態。
いつも無口ってわけじゃないけど、今日の朱海はよくしゃべる。
「で、そのバイクさ」
俺はストローを回しながら言った。
「ほんとに買う?」
「買う。……うん、欲しい」
即答だな。
何かあったか?
俺はうなずいて、話題を変えた。
「学園祭、どうだった?」
「あ…あの時は、ほんとありがとね。助かったよ。
ライブも、漫研もサイコーだった!」
「楽しかったなら良かったよ。チケット、ギリギリに連絡来たから焦ったぜ。」
「うん、どうしようか迷ったんだけど…」
迷った、ねぇ…。
俺はストローを嚙みながら、朱海をチラッと見る。
これは…
からかってやるか。
「なあ、このあとバイク見にに行くんだけど、班長時間ある?」
「え?…時間はあるけど、何ではんちょ…」
「なんで班長?」
「…え、あ、それは、まだ…」
はぁん、そーゆうことね。
こいつ、まだお子ちゃまなのね。
「バイク、見に行こうぜ。多分、今日、いっぱい集まってるから。
んで、久しぶりにタンデムしよーぜ。」
「うん!行きたい!」
「じゃあ、食ったらいくぞー」
レジで会計する時に、俺はとどめの一発をささやいてやった。
真剣な顔で。
「あのな、朱海」
「なに?」
「ここだけの話な、彼女をバイクに乗せたいならな、」
「え?」
「絶対になぁ…」
「うん!」
いい感じになってきたな!
「…任意保険に入れよ!」
朱海は、手に持っていた小銭を全部落とした。
やっぱりこいつは面白い。




