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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
最初の話

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8/10

8、 迷子

学園祭は、にぎやかで、少しだけ浮き足立つ日。

朱海目線の、あの時間。

迷子になったのは、きっと彼女じゃなくて――

走っていた。

肩をすり抜けて、人の流れに逆らって…名前を呼ぶ余裕も無かった。


そうだ、電話を‥

通じない。

無機質なメッセージが流れるだけ。


そうだ、出口かも。

沢山の人を追い越して、ゲートに向かうとそこには、


「しんちゃん!」

「おー、朱海、今帰りか?」


先輩の敬称をつけるの、忘れた。

訳を話すと、しんちゃん先輩はインカムに向かって何かを頼んだ。


「あのね、幼児じゃないから大丈夫だと思うんだけどね。」


俺に場所を指定して、そこから今日辿ったルートを逆に辿るように言われた。


「俺は順にまわるから、お前逆からね」


指定された場所に行くと、スタッフらしい女子学生が2人。


「すみません!しんちゃん先輩に言われて」

「朱海くんかな?しんちゃんから聞いてるよー。

はい、インカム。頑張ってねー」


何を頑張る?

お礼を言って立ち去ると後ろから話し声。


「なんか班長が行方不明の兵隊を探すんだって。」

「しんちゃんイベントの係だっけ?」


班長?イベント?

訳わからないけど、インカムはありがたい。

とりあえず耳につける。

幼児の迷子がいるらしく、インカムからはそのやり取りが聞こえてきた。


バンドの演奏聴いて‥

いない。

星空コーナー行ったよな‥


逆順に回って、息が切れてきた頃に、インカム。


「迷子1名、確保ー、漫研前」


漫研?一番初めのところか!

そのまま方向転換して、階段を駆け上ったら


‥たかこちゃん!

見つけた瞬間

胸の奥が一気に緩んで、その場に立ち尽くしそうになる。


無事だった。

それだけで十分だった。


「ごめんなさい‥」


先に届いたのは、

叱られるのを覚悟したような、小さな声。

言おうとしていた言葉は、

全部いらなくなった。


「大丈夫、見つかって良かった。」


それだけで良かった。


「お、早かったな。インカム役に立っただろー。んじゃ、仕事あるから俺はこれで」


しんちゃんにお礼もそこそこで、ふりかえる。

手を伸ばそうとした、その前で、

彼女が少しだけためらってから、紙袋を差し出す。


「えっと……これ」


漫研の袋。

中から出てきたのは、

並んで描かれたイラストと、

あのツーショットの写真。


「……どっちが、いいですか?」


真面目に聞くものだから、

一瞬返事に困った。


「……選べないな」


そう答えると、彼女の肩から力が抜けたのがわかった。


「じゃあ、両方で」


イラストは丁寧にしまって、

写真は定期入れに入れる。


こんな気持ちになるなんて…。

離さない、って、今度こそ心の中で決めた。


「先輩がさ、安くてうまい店、教えてくれたんだ」


そう言うと、彼女はやっと、ちゃんと笑った。


「…お腹、空きました」


人の波を抜けて、今度は隣を歩く。


「じゃあ、今度は離れ離れにならい様に」


そう言って、彼女が手を差し出した。

一瞬、理解が追いつかない。


「さっき先輩がね、

朱海さんが迷子にならないように、手をつないであげなさいって。」


……ずるい。


何も言えないまま、その手を取った。


人の波の中で、

そのぬくもりだけは、

もう見失わなかった。



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