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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
最初の話

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2/9

2、 朱海さんの初詣

はじまりより、少し前のお話。

まだ何も始まっていない夜。

ただ、迷子を送り届けただけの出来事でした。



大晦日の神社は、正直あまり好きじゃない。

人が多すぎるし、足元は見えないし、声はざわざわして落ち着かない。

それでも来たのは、友だちに誘われたからで、断る理由も特になかったからだ。


少し離れたところで、立ち止まってる子がいた。

人の流れに逆らうみたいに、動けずにいて、きょろきょろしてる。


……あれ?


顔を見て、すぐわかった。

変わってない。

背は伸びたけど、困ったときの目は、あの頃のままだ。


「あれ?たかこちゃん?」


声をかけた瞬間、しまったかな、と思った。

急すぎたかもしれないし、覚えてないかもしれない。


案の定、警戒した顔をされた。

それもそうだ。真夜中だし、人も多い。


「はぐれちゃったの?」


答えは返ってこない。

……まあ、正しい反応だ。


ちょうどその時、後ろから声が飛んできた。


「朱海~、どーしたぁ?妹かぁ?」


「……の、友達。通学班、一緒だった」


そう言いながら、もう一度ちゃんと顔を見る。

記憶は、間違ってなかった。

低学年の頃、毎朝迎えに行った子。

玄関で泣きそうになって、でも手を出すと、ちゃんと握り返してきた小さな手。


「あっちに、それらしい集団がいたよ。

連れて行ってあげるから、大丈夫だよ」


差し出した手を、ためらいなく取られた。


……ああ、やっぱり。


手は少し冷たかった。

夜のせいか、緊張のせいか。

歩く速さを、無意識に合わせる。


途中で、何度か振り返られた。

たぶん、安心していいのか確認してたんだと思う。


「ほら、あの子たちじゃない?」


見つけた瞬間の、ぱっと明るくなる顔。

ああ、よかった。


「じゃぁね」


引き留める理由は、ない。

ここで長く話すほうが、変だ。


「……あり、がと」


ちゃんと聞こえた。

小さかったけど。


人の波に戻っていく背中を見ながら、少しだけ立ち止まる。

迷子は、ちゃんと帰る場所を見つけた。


よかったな。


もしまた迷っても――

その時は、その時だ。


ぼくはそう思って、神社の明かりの中に戻った。


神社の明かりの向こうで、

あの子はもう振り返らなかった。

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