13、 初詣・約束の来年
年が明けて最初の約束は、初詣。
夏祭りの夜とは少し違う、冬の澄んだ空気の中での再会。
人の多い神社の参道で、少しずつ近づいていく二人の距離。
年が明けて間もない夜だった。
空気はキンとしていて、吐く息が白い。
待ち合わせは、同じ鳥居。
人の流れは多いけど、夏祭りの時より少し落ち着いている。
「お待たせしました」
たかこちゃんが、軽く頭を下げる。
「ううん、ちょうどだよ」
そう言ってから、腕時計を見る。
――5分前。
「さすが」
「約束ですから」
笑って、並んで歩き出す。
コートの袖が、時々触れる。
神社の参道は、屋台の灯りで明るかった。
甘酒の匂い、焼きイカの煙。
どこか懐かしい音。
「寒くない?」
「大丈夫です」
そう言いながら、
たかこちゃんは手をポケットに入れたり、出したりしている。
……迷ってる、かな。
「混んでるから」
そう言って、自然な理由をつけて、
人の少ない側へ誘導する。
階段の前で、足元を見ているのが分かった。
「段、気をつけて」
そう言って、手を差し出す。
一瞬、ためらってから、
そっと乗せられる指先。
「……ありがとう」
「うん」
握らない。
でも、離れない。
拝殿の前に並ぶ。
鈴を鳴らして、手を合わせる。
何を願ったかは、聞かない。
自分の願いも、言わない。
「朱海‥さん、今年も……よろしくお願いします?」
たかこちゃんが、少し照れた声で言う。
そこで、
考えるより先に、言葉が出た。
「うん。よろしく、たかこちゃん」
たかこちゃんは、驚いたように目を瞬かせて、
それから、ゆっくり笑った。
「……はい」
それだけ。
でも、十分だった。
帰り道、人混みにもまれて歩く。
「おいで、迷子にならないように」
「はい」
ぼくが出した手を、
今度はためらわずにつないだ。
「ねえ」
「なに?」
「夏祭りの時より、寒いですね」
「そうだね。でも……」
言いかけて、やめる。
代わりに、歩幅を少しだけ近づけた。
「でも、悪くない」
「……ですね」
家が見えてくる。
別れは、近い。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
「また……行こう」
「はい」
今度は、約束というより、前提みたいに。
「風邪、ひかないように」
「朱海さんも」
名前を呼ばれる。
それが、もう自然で。
軽く手を振って、背中を見送る。
――名前を呼ぶようになっただけ。
それだけなのに。
冬の夜は、思ったより温かかった。
夜は少しだけ、
素直になれるような気がする。




