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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
最初の話

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1/9

1、 朱海さん

これは、なにかを信じたふたりの、

すこし甘くて、すこし眩しい航海の記録。

未来へとつながる、わたしたちの碧い航海日誌。

朱海とたかこは、結婚した。

たくさんの「おめでとう」に包まれて、指先まで幸せでいっぱいのまま、ふたりは海へ向かった。


新婚旅行は、世界一周。

船はゆっくりと岸を離れていく。


出航の汽笛が鳴ったとき。

甲板の手すりにもたれながら、たかこは小さく笑った。


「ねえ、碧い航海日誌って、どんなお話か知ってる?」


朱海はやわらかく笑う。


「なに、それ。もう始まってるの?」


そう言って、たかこの指先をそっと握る。


「どんな話?」


たかこは海を見つめたまま、少し照れくさそうに言った。


「あのね、シャイで優しい男の子とね――」


 

――それは、まだ私が中学生だった頃の話。


真夜中の大晦日。


クラスの何人かで、近所の神社に初詣に行こう!

ってことになって、来てみたのは良かったんだけど……


いや、人多すぎでしょ!!


夏祭りの時もなかなかだったけど、これはいかん。

完璧にはぐれてしまった。


はぐれた時の集合場所、決めておくんだった。いまさらか。

携帯は……そうだ、さっき動画撮るの頼んで預けたままだ。


あ~気分急降下。

どーしようかなぁ……


「あれ? たかこちゃん?」


見つかった!


違う。誰だ? このひと? 知らないひと。


「はぐれちゃったの?」


いえいえ、知らない人とお話ししてはいけませんので、答えませんよぉ。


「朱海~、どーしたぁ? 妹かぁ?」


「の、友達。通学班一緒だった」


あ~! 知ってた!!

小学校の通学班の班長さん。

名前は……そうそう、朱海さんね。

フルネームは、思い出せない。


そういえば低学年の時は、散々お世話になったんだった。

学校行きたくなくて、玄関でグズグズしていたら迎えに来てくれて、

「一緒に行くから大丈夫」って、手をつないで教室まで連れて行ってくれた。

毎日、毎日。


あの時の班長さんかぁ。

暗くてよくわからないけど、多分イケメン。

きっといいひと。

知らないひとから、いいひとに格上げしてあげよう。


「あっちにそれらしい集団がいたよ。連れて行ってあげるから、大丈夫だよ」


差し出された手。


私、知ってる、この手。


迷わずつないで、歩き出してしまう。


つないだ手が少し冷たい。


何だか、なんなんだか、なんだろう?


お父さん?

じゃなくて、お兄さん?

ん~と……。


「ほら、あの子たちじゃない?」


あ、発見! 良かった!


「じゃあね」


いつの間にか、つないだ手はほどかれていた。


「あー、あの。あり、がと……」


行ってしまった。

お礼もちゃんと言えないなんて、中学生とは思えない失態だわ。


「おーい! どこ行ってたのぉ?」


「えーとね、迷子っていうの?」


「今の人、朱海班長? 手つないでなかった?」


みんなよく見てらっしゃる。


「うん、ここまで連れてきてくれたの」


「へえぇ」


それ以上は追及されなかった。

まぁそりゃそうだ。

追及されるようなこともない。


うん、とりあえずお参りしようっと。

今年の抱負か、願い事か。


きちんとお礼を言うところから始めようかな。

まずは、神様に。

来年も、迷子になってもいいかなぁ。

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