始まりと蜘蛛の巣
ルイは、キラキラしたものが大好きです。
ママの耳で揺れるイヤリングもお姉ちゃんの洋服を彩るリボンもおばあちゃんの髪をまとめる櫛も、目を輝かせながら見ています。
ルイは、今日も大きな窓の近くで、カラフルなビー玉達を転がして遊んでいます。
おひさまの光を浴びたビー玉達は、縁側の板を彩り、ルイの目を輝かせています。
「おや、ルイちゃん、縁側にいたのかい。」
「あっ、ばぁば。おかえりなさい。」
「ただいま。ママはどうしたんだい?」
「ママ、お隣さんに、かいらんばん、持って行ったよ。」
「そうかい。そうそう。ルイちゃんにおみやげがあるんだよ。」
「本当?何?」
「はい、どうぞ。」
ルイに渡されたのは、白い長方形の箱でした。
「わぁ~キレイっ!あいがとう、ばぁばっ!」
貰った箱は、表面がツルツルしており、横やふたの部分に金色の縁取りがされていました。
ルイは、この箱が気に入ったようです。
「喜んでくれて良かったよ。大切なものを入れなさい。」
「は~いっ!」
それだけ言うと、おばあちゃんは台所の方に行ってしまいました。
「何を入れようかなぁ?ママの箱には、ゆびわ、ネックレスが入ってるし、ネェネの箱には、リボンとお花のピンが入ってたから・・・。」
ルイは、箱に何を入れるか悩みました。
せっかく貰った宝箱です。素敵なものを入れたいですが、人と同じものを入れるのは、嫌だったのです。
叶うなら、ルイだけの宝物を入れたいのです。
「・・・探しに行こうっ!」
ルイは、立ち上がり、遊んでいたビー玉をポケットに入れ玄関へと走り出しました。
昨夜の雨で寝れた道を、ルイは三輪車に乗って走りました。
地面に出来た多様な形の鏡は、ルイに踏まれても割れることなく、流れる雲を映しているのです。
「ん?」
ルイの目に、小さな光が見えました。
道路の鏡ではありません。
住宅のガラスでもありません。
そこは、木々が茂るお寺だったのです。
とても、光るものがあるとは思えません。
しかし、今日は違ったのです。
お寺の木に、大きな蜘蛛が出来ていたのです。
「わぁ~ママのネックレスみたいっ!」
蜘蛛の巣には、昨夜の雨の水滴が未だに落ちずにいました。
おひさまの光を浴びた雫は、キラキラと輝き、ルイの目には、宝石に見えたのでしょう。
「キレイだなぁ・・・よしっ!この巣を入れようっ!」
ルイは、巣に手を伸ばすと、
「あんた、何やってんだいっ?!」
「えっ!?」
大きな声に、思わず手を引っ込めました。
ルイの前に、目を吊り上げた大きな蜘蛛が下りてきたのです。
「さぁ、いいなぁっ!あんた、あたしの巣に何をする気だったんだい?」
「と、とってもキレイだから、ボクの宝箱に入れようと思って・・・。」
蜘蛛が頭の上で睨みを聞かせるので、ルイは正直に言いました。
「はぁ~?キレイって…あたしの巣が?」
蜘蛛には、ルイの言っていることが分かりませんでした。
巣を欲しいなど、言われたこともなかったのです。
「うん。三輪車に乗っていたら、この巣が光っているのが見えたんだ。だから…。」
「だから、取りに来た?」
「うん…。」
ルイは、静かに頷きました。
目線を上に向けると、頭の上では蜘蛛が、ポカーンっと口を開けているように見えます。
「変わった子だねぇ。柿じゃなくて、巣を欲しいなんて…でも…。」
蜘蛛は、昔のことを思い出しながら、己が作った巣を見る。
「坊や。坊やは、この巣がキレイだって言うんだね?」
「はいっ!」
蜘蛛の問いにルイは、大きな返事をした。
「そうかい…だけど…。」
「…あっ!?」
ルイの返事に、蜘蛛は勢いよく巣に降りる。
すると、彩っていた雫達は、一瞬浮き上がったかと思うと、勢いよく地面に落下していきました。
ルイは、慌てて駆け出し、落ちる雫達を掴もうとしますが、それは不可能なこと。
地面に落下した雫は、土に飲まれ、真珠のように転がることはありません。
かろうじて、掴んだ雫は球体の美しさを留めず、ルイの手の中で、小さな水溜まりを作るだけ。
「……。」
ルイは、空を映すことも出来ない水膜を見て、言葉が出ません。
「分かったかい?これは、簡単に落ちるんだ。落ちてしまえば、本来の姿さ。」
「あんなにキレイだったのに…。」
巣は、多少の雫が残っていましたが、
最初に見た時のようなキラキラは、どこにもありませんでした。
「坊や、これは雨がもたらした、ほんの一時の輝きだよ。
あたしが乗らなくても、風が吹けば簡単に消えるんだ。
箱にしまいたい坊やが求めているキラキラは、これでは無いよ。」
再び蜘蛛がルイの前に降りて来て言った。
吊り上がっていた瞳は、今は優しくルイを見ている。
「はい…そうですね…。」
ルイは、心底残念そうでした。
でも、泣いたりしません。ルイの求めるキラキラは、
一瞬で消えるものでは無いのですから。
「あの、蜘蛛さん。キラキラしたものがある場所、知りませんか?」
「キラキラしたものねぇ…。」
蜘蛛は、頭をかくように、足を動かします。
困っているのです。
虫がいそうな場所なら、沢山知っていますが、人のいうキラキラ等、価値観の違う蜘蛛には知りようのないことです。
『知らない』と言えば、済むことですが、この蜘蛛は優しかったのです。
「…西の方に行ってみな。そこには、キレイな桃色の花が咲く池があるよ。」
「キレイなお花?」
沈んでいたルイの瞳に、再び光が灯ります。
「あぁ。坊やと同じ人が『キレイ』って言っていたからね。坊やも気に入るんじゃないかい?」
「行ってみますっ!ありがとうございますっ!蜘蛛さんっ!」
「あぁ、気をつけな…。」
蜘蛛にお礼を言ったルイは、手を振りながら、三輪車を置いた場所まで戻っていきました。
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