オフレンダ
アンタが遺したkillerを眺める。
二人で暮らしたこのアパートで迎える朝は、いまだに"新しい朝"のままだ。
もう何ヶ月も経つのに、カレンダーもあの日のまま止まっている。
「行ってきます」と言おうとしたけれど、返ってくるのは静寂だけだ。
毎日、笑顔で接客して。
毎日、ツレと笑って。
毎日、指の皮がひび割れるまで練習して。
顔は笑っているのに、家に帰ると世界が歪む。
昔、アンタと過ごした休日は好きだった。
山盛りのコーンフレークに牛乳を注いで、盛大にこぼして笑ったり。
俺が起きないと、くすぐって起こしてきたり。
耳元でアンタのリフを聴かされた日もあったな。
アンタのエフェクターの並びや、黙々とチューニングする姿。
ただ眺めているだけで、そこに一つの新しい世界があった。
準備が終わると、傷だらけなのにピカピカに愛されたkillerを、アンタは満足げに弾いていた。
「俺のリフ、上手いだろ?」って顔が、やけに脳裏にこびりついてる。
アンタといた日々は、喜びばっかだった
だけど、アンタが教えてくれなかったことも山ほどあって、それが悔しくて腹が立つ。
もう会えない哀しみは足を止めようとする
だからアンタの好きな音楽を、俺がやってやるさ。
気持ちが矛盾しているようで、そうでもない。
全部ひっくるめて、アンタに捧げる「揺らぎ」になる。
この揺らぎをジャックインして、増幅させよう。
内臓がストレスでうねる、この感覚。
これもディストーションにかけて、ネジ切れるまで鳴らしてやろう。
鼓膜がぶち破れるほどの爆音なら、アンタがどこにいようと聴こえるだろう?
この狭いライブハウスのステージなんかじゃ、到底足りねぇよ。
感じ取れる世界すべてに、音を轟かせるしかねぇだろ。
己が、己の自我が吹き飛ぶほど、頭を空っぽにしてやるしかねぇだろう?
「ステージに立てば対等にやる」って言ってたな。
テメェのkillerに、また傷が増えるだろうよ。
テメェがコイツで演ってやるよ。
全部くだらねえと思えるほど、自我ごと吹き飛ばしてやるよ。
……全部終わったら、アンタの愛したオルメカをショットで。
この短篇は私が作詞した楽曲Ofrendaの歌詞を元に再編された物です、ぜひ小説を読んだ後に主人公の熱量を音楽を通して感じて下さい
https://suno.com/song/75b057e5-344c-496b-89dc-3d0e1ce15b77