第6章 揺らぐ王妃の影
【処刑6日前】
夜、王宮の奥深く。
私はレオンに伴われ、人気のない廊下を歩いていた。
「これから行く場所を、誰にも知られてはならん」
低い声が闇に溶ける。
私は小さく頷いた。
辿り着いたのは、王妃の私室の裏にある小部屋だった。
普段は誰も出入りしないはずのその扉が、わずかに開いている。
「……誰かいる」
私とレオンは影に身を潜めた。
隙間から覗くと、そこにいたのは──王妃陛下ご自身。
月明かりに照らされた横顔は穏やかだ。
だが、手にしているのは見覚えのある小瓶。
毒の痕跡が検出された、あの薬瓶と同じ装飾。
(どうして……王妃様が?)
思わず息を呑んだ。
王妃は机の引き出しに瓶を仕舞い、周囲を見回す。
その目が、こちらに向いた気がして心臓が凍る。
レオンが私の口を押さえ、耳元で囁いた。
「声を出すな」
息遣いが重なる。
近すぎる距離に、別の意味で胸が高鳴る。
王妃はやがて小部屋を去っていった。
残された静寂の中で、レオンが低く呟く。
「……どういうことだ」
私も答えられない。
信じていた王妃まで疑わざるを得ないなんて。
「お前はどう思う」
「……わかりません。ただ、王妃様が黒幕だとは思いたくない」
レオンの瞳が私を捉える。
その視線は鋭いが、どこか私の言葉を試しているようだった。
「感情で判断するな。だが……俺も同感だ」
短い沈黙のあと、彼はふっと息を吐いた。
「証拠を掴むまでは、誰も信じるな。俺のこともだ」
その言葉は冷たいようで、奇妙な安心感を伴って胸に落ちた。
(この人は……裏切らない。少なくとも、私を陥れるためにここにいるわけじゃない)
わずかに芽生えた信頼を胸に、私は決意を新たにした。
──真実は必ず暴く。
たとえ相手が、王妃陛下であったとしても。
第6章をお読みいただきありがとうございます。
今回、ついに王妃自身の不可解な行動が明らかになりました。
彼女は果たして黒幕なのか、それとも別の事情を抱えているのか──真相はまだ闇の中です。
そしてレオンの「誰も信じるな」という言葉は、彼の冷徹さであり同時に誠実さの表れでもあります。
物語はいよいよ核心へ。
次回は、処刑の未来を変えるための大きな一手が動き始めます。
「味方か、敵か」を決定づける瞬間が迫っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。
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