第2章 1回目のやり直し
前回の第1章では、処刑寸前から一週間前に戻ったミレイが、運命を変えるために動き出すところまでを描きました。
第2章では、最初の“やり直し”が始まります。
果たしてミレイは、冤罪の証拠を覆す手がかりを掴めるのでしょうか。
ですが、初めてのループは甘くありません──。
【処刑7日前】
私は洗濯籠を抱えたまま、王妃の居室前に立っていた。
重厚な扉の前に立つ衛兵が、ちらりとこちらを見たが、特に怪しむ様子はない。
この光景を、私は確かに一度経験している。
(あのとき、この部屋から王妃様は出てこなかった……)
記憶を探る。
確か、この日の午後に「王妃が倒れた」という騒ぎがあった。
その混乱の中、私の持っていた水差しに毒が仕込まれていたと告発された──。
(あれは……完全に罠だった)
「ミレイ、何してるの? 入って」
カレン侍女長の声に現実へ引き戻される。
中に入ると、王妃様はソファで手紙を読んでいた。
上品で穏やかな方だが、その瞳の奥には常に緊張感がある。
私を見ると、微笑みだけを浮かべて視線を戻した。
(この人が黒幕とは思えない……でも、味方だとも限らない)
掃除をしながら、私は室内を観察する。
窓の外、庭園を歩く人物──金の髪。エリオット王子だ。
彼は何かを受け取り、懐にしまった。その手渡した相手の顔は見えない。
(あれ……この場面、前は見ていない)
鼓動が早まる。
今まで知らなかった情報だ。
しかし近づこうとした瞬間、カレン侍女長が声をかけた。
「ミレイ、王妃様のお薬を薬庫から取ってきて」
薬庫──。そこは私が“毒を混入した”とされる現場。
ここで断れば怪しまれる。結局、私は薬庫へ向かった。
部屋に入ったとたん、背後で扉が閉まり、金属音が響く。
気付けば棚の上から瓶が落ち、床に砕け散った。
辺りに広がる匂い──これは毒だ。
「やはりお前だったのか!」
声と共に、数人の衛兵がなだれ込んできた。
私は必死に否定するが、現場にいたのは私だけ。
そして再び、暗い牢獄。
(……まだ情報が足りない。次は、もっと動かないと)
処刑台の階段を上る足が重い。
視界が再び白く染まり、私は──また、7日前の廊下に立っていた。
(やり直せる……! 今度こそ、犯人を突き止める)
第2章、お読みいただきありがとうございます。
初めてのやり直しでは、結局罠を回避できず再び処刑に至ってしまいました。
しかし、今回のループで得た情報──「王子が誰かと何かをやり取りしていた」という新しい伏線──が、今後の行動に大きく影響していきます。
次回は、2回目のやり直し。ここでいよいよ近衛隊長レオンと本格的に関わり始めます。お楽しみに。