第1章 死の直前
初めまして。
この作品は、王宮を舞台にした冤罪×タイムリープ×恋愛ミステリーです。
主人公ミレイが、処刑寸前から一週間前に戻り、真犯人を探し出すまでの七日間を描きます。
緊迫感の中で少しずつ芽生える信頼や、最後に訪れる逆転劇をお楽しみいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
【王暦1023年・冬】
冷たい風が頬を刺した。
目の前にそびえる断頭台。その黒々とした木材は、私の命の終わりを告げる墓標のように見える。
広場には、数百の視線が集まっていた。罵声も泣き声も混じったそのざわめきは、冬の空よりも冷たく私の耳に突き刺さる。
「王妃暗殺未遂の大罪人、ミレイ・アルベール──」
読み上げる役人の声は淡々としていた。まるで、私が本当に恐ろしい罪人であるかのように。
(違う……私はやっていない)
喉の奥から言葉がせり上がる。
だが、いくら叫んでも、この場で信じてくれる者はいないことを、私はもう知っている。
「最後に言い残すことは?」
役人が無表情に問いかける。
「私は……無実です」
声は思ったよりも震えていなかった。
だが、その一言で誰かが動くことはない。
群衆の中に、金の髪を持つ男がいた。婚約者のエリオット王子──。
視線が合った瞬間、彼は冷笑を浮かべ、背を向けた。
胸の奥で、何かが音を立てて崩れる。
(ああ、これは最初から仕組まれていたんだ)
足枷の重みを引きずりながら、階段を上る。
周囲の音は遠ざかり、鼓動だけが大きく響く。
──そのときだった。
激しい頭痛が私を襲った。
視界が白く塗り潰され、足元が消える。
息が詰まる。
身体が宙に浮いたような感覚。
次に目を開けたとき、私は王宮の廊下に立っていた。
朝の光がステンドグラスを透かし、床に色彩を落としている。
手には、洗濯籠。
(……え?)
周囲には、忙しそうに行き交う侍女たち。
誰も、私を罪人のように睨んでいない。
「ミレイ? 何ぼんやりしてるの。王妃様のお部屋、掃除に行くんでしょう?」
同僚の侍女、マリアが怪訝そうに私を見た。
私は息を呑む。
この光景を、私は知っている──ここは、処刑のちょうど一週間前だ。
(どうして……戻ったの?)
足元が震える。
だが同時に、胸の奥に小さな炎が灯った。
(……なら、今度こそ。あの冤罪を晴らす)
私は洗濯籠を抱え直し、王妃の部屋へと歩き出した。
この一週間が、私の運命を変える。
お読みいただきありがとうございます。
第1章は、ミレイが処刑寸前から物語をスタートし、一週間前に戻るまでを描きました。
次回から、七日間のやり直しが始まります。
果たして彼女は、真犯人を突き止め、運命を変えることができるのでしょうか。