第8話:ヒューマンレベルとは
タケトと連絡先を交換して別れた僕は、午後出社にはまだ時間があったので、スーパー銭湯へ向かった。なにせタケトからくらったダメージ(腕のだるさやお腹の冷え)や絶対領域発動の代償の首や肩のコリで、かなりのコンディション不良だ。この状態で仕事をするのは相当厳しかったと思われるが、温泉に浸かってすべて解消した。やっぱり温泉は最高だ。
ホカホカした体のまま、休憩ゾーンのソファでくつろぎながらD・C・Tを起動してみる。いつもの起動音と共に、ガイドキャラの魔法使いのじいさんがヒョコっと顔を出した。
「じいさん、僕は今日、ショッキングな情報をたくさん知ってしまったよ。タケトのDCTは最新スマホだし、ガイドキャラなんて可愛いバニーガールなんだ」
「フォッフォッフォ。どうしてもと言うなら、わしもバニーガールの格好になってやっても構わんぞ? ぱふぱふもご希望かの?」
非常に気色悪かったので無視した。
「じいさんのその恰好は、魔法使いってことでいいんだよな?」
「フォッフォッフォ。わしが一度でも魔法使いだなどと自己紹介したかのう?」
「違うの?たしかに、魔法使ってるところは一度も見たことないけど。そもそも本当にガイドキャラなのか?たいてい説明不足だし、まさか実は、僕の魂を吸い取ろうとしてる悪魔とかじゃないよな?」
すると、それまでのほほんとしていたじいさんの表情が一変し、恐ろしく禍々しい形相が現れる……
「だとしたらどうする? お前の魂を喰らおうとしてたらよ? 輪廻転生って信じるか? 1つの魂で生まれ変われるのか、それともミックスジュースみてえに混ざり合っちまうのか……そもそも、喰われちまった場合はどうなるんだろうな?」
「エッ……エッエッエッ、エッ……」
(もしかして、これバッドエンドルート入った?)
「なーんちゃって!びっくりしたか?びっくりしたじゃろ!フォッフォッフォ。このようにわしは、プレイヤーにスリルを提供することもできるのじゃ!楽しんでいただけたかな?」
「楽しいわけないだろ! ハァ~、心臓止まるかと思った」
その時にはもう、画面にはいつものすっとぼけたじいさんが映っていた。グラフィックなのでビジュアルは何とでも変えられるんだろうけど、口調まで変えてきて本当にビビった。
(それにしても何だろう、今の感じなんか……記憶のどこかが刺激されたような気がするんだけど、それが何だったか……思い出せない)
「そんなことより、今日の戦いは見事な勝利じゃったな。相手が負けを認めたのでドリームメダルを1枚獲得じゃ」
画面に、キラリと輝くメダルのアイコンが表示される。
【現在所持数:3枚】
「この3枚ってさ、タケトに勝って獲得したのは1枚……あとの2枚は?」
「1枚はキミ自身の初期の手持ちメダルじゃな。キミも負ければ失うことになるから、気を付けるんじゃぞ」
「なるほど、じゃあ残りの1枚は?知らないうちに誰かから奪ってたってこと?」
「奪って手に入れるばかりではないが、さて何じゃったかのう? フォッフォッフォ……」
またはぐらかしか。僕はコンビニ前で撃退した高井丸孝夫や、会社で制裁を下した出栖進の顔が思い浮かんだが、記憶をたどっても結局ハッキリとした答えは出なかった。
「まあそれはいいや。あとさ、タケトとの話で気になったんだけど、他プレイヤーと遭遇した時、僕には通知が来なかったんだけど、なんで?」
「それは、キミがDCTを起動しておらんかったからじゃ。基本中の基本じゃぞ?」
「いや聞いてないって。もっとちゃんと説明してくれよ。タケトのバニーちゃんは、そういうのもちゃんと教えてくれるってよ?」
「フム。ミキオくんは、ゲームを買っても説明書も読まんし、チュートリアルもスキップするタイプじゃろう? プレイヤーのそういうところが、ガイドキャラに反映されとるのかもな」
(僕のせいなのか?まあ確かに、僕は言われた通りの出たとこ勝負を好むタイプだった)
「そんなことよりな、対人戦での勝利ボーナスとして、HLVが大幅アップするぞ!」
パパパパッパンパーン♪
【LEVEL UP! HUMAN LEVEL0.35から0.50にアップ!】
「フォッフォッフォ。これでもっとすごい能力が生成できるかもしれんのう!」
大幅アップで0.15の上昇幅か……でもこれで超人クラスのHLV1までもう半分と考えれば、結構いいペースで来てるんじゃないかこれは。もしかして、レベルカンストも射程圏内?
「じいさん、HLVの最大レベルっていくつなんだ?」
「999じゃ」
「ファ~~、とおーいなぁ!そんなに幅があるなら0.15とか小数点以下で刻むなよ~」
「ヒューマンレベルと言ってはいるが、HLV999に到達した人間などいまだかつて存在せん。そこまでいったら、もはやこの次元におさまる器ではないな」
どうやら人生という名のゲームは、僕が思っていたよりも遥かに奥が深いらしい。
「まあじゃが、キミはまあまあ有望なプレイヤーじゃよ、ミキオくん。今日出会ったタケトくんもな、今後は協力プレイをしていく事をおすすめするぞ」
「タケトはハンサム野郎なのが玉に瑕だけど、話してみたらいい奴だったし、言われなくてもそうするつもりだよ」
「フム、彼は一流私立大に通い、父親はIT企業の社長。スポーツ万能で当然モテモテじゃ。キミと違って、リアルでも勝ち組のプレイヤーというわけじゃな。フォッフォッフォ」
「…………。ヒューマンレベルって名前だけ聞いたら、タケトの方が僕より圧倒的にレベル高いってみんな思うんだろうな」
じいさんのせいで何だかひどく気分を害したのでDCTの電源を切り、カバンの奥底に押し込んだ。
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