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迷い子

 森を抜けると、薔薇のアーチが広がっていた。というのも、空が隠れるほど木という木のあちこちにたくさんの薔薇が絡み合い、それが屋根のようになっているのである。


 現実とは思えない光景に立ち尽くしていると、握った左手から催促する声が聞こえた。


「ねえ、おに、早く行こ。」


 まだ小さい妹。こんな不可思議な状況でも、怖がることの一切ない純粋無垢な子供らしさ。ときにそれが可愛らしくもあり、羨ましくもある。


「早く先行かないと、ばらのとげとげが刺さっちゃうんだよ?」

「そうだね、行こっか!」

 実の妹に注意を受けながらも、その小さな右手を再度優しく握り、先へ進もうとした。その時である。


⸺⸺声がした。甘い香りが空気を揺らした。


「これはバラじゃなくて、クレマチスだよ。全然違うのに、なんで間違えられるんだろう」


「え?」


 咄嗟に振り返ると、そこには⋯⋯白い妖精がいた。いや、少女だった。だが、その姿は人間からかけ離れており、まるで別世界にいる花の精霊のようだったのだ。

 身にまとう白いふわっとしたワンピースに、左にまとめられた明るいピンクブラウンの髪。そして植物の()のような脚と、右目の位置から覗かせる一輪のひときわ大きな()

 

 どう見ても異様なその姿に、妹も僕も唖然としていると、なぜか少女も驚いた様子でこちらに話しかけてきた。

「⋯え!あれっ!?もしかして、君たち私のこと見えてるの??」

 ⋯⋯やはり、花の精霊だったかもしれない。


 戸惑いと行き場のない衝動が収まらない僕と妹を置いて、目の前の少女は、器用に根っこのような脚を動かしながらくるくると回った。

「ええぇ〜すごい、初めて会うかも”見える人”!」


 きらきら、ふわふわ、落ち着きのない笑顔。揺らしていた身体が不意にぴたりと止まり、そこでようやく僕と妹を交互にまじまじと見つめる。


 そして、いい考えでも浮かんだかのような表情なのか、誇らしげな顔で僕たちに言った。


「よかったらうちに来なよ!」




「おに、妖精さん行っちゃうよ」

 ぐいぐいと弱々しい力で僕を呼ぶ声に耳を傾けながら、先をゆく謎の生命体に視線を送る。

 どうやらその”妖精さん”は、僕たちをこの森の奥深くへと招き入れてくれるようだ。だが、本当について行ってしまっていいのだろうか?


 しかし、ため息をつきながら下を見やると、そこには何かを期待しているような、きらきらと目を輝かせる妹の姿があった。

 (ついて行くこと)それしかどうしようもこうしようもなく、仕方なく妹の手を引きながら少女の行く先へと向かう。



 少女の進む速度は思っていたよりも速く、少し早歩きになってしまった。

 しかし着いた場所はさほど遠くはなく、難なく少女のもとへたどり着くことができた。


 そこには森の中の、美しい庭が広がっていた。

 木々が植わっていない平地な草地の端々に、木を囲うように色鮮やかな花が咲いていた。

「わぁ〜⋯⋯、きれい」

 妹はこの通りすっかり心を掴まれている。もちろん僕も。


 そして、暫く立ち止まって辺りを眺めている僕たちを見ながらニコニコしている少女は、嬉しそうな声で僕たちに言ったのだ。



「ようこそ!私達の楽園へ!!」



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