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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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27話 魔神転生


 それは突然やって来た。


 ディアナ殿とサレナ殿のペア、そして俺単独と、交互に伐採隊の護衛役をやっていたのだが、今日の午前中は彼女達主従が護衛を務めていた。俺は不慮の事態があった場合の遊撃役として、ディアナ殿が造った針の山の先端を斬ってその上に座り、彼女たちの奮戦ぶりを眺めていたところだった。


 俺の両隣の土杭が衝撃波のようなものを受け、重い音を立てて崩れ落ちるのを見届けたのち、それが飛んできた空を見上げると……いる。


 逆光になって見えにくいが、あのシルエットは精霊になったオフェリア殿だ。


 その気になったら、俺を先ほどの一撃で戦闘不能に出来ていたかもしれないのに律儀なことで。いやまあ、殺意があったら反応して斬っていただろうから……精霊殿的には、びっくりさせたかっただけなのかも。そんな疑問を抱きながら俺が眩しそうに眺めているのが気になったのか、『あっ、ごめーん』とか言いたげな仕草をして、精霊殿は同じ高さに降りて来た。


 空中にいたまま魔法で爆撃されたら成す術は無かったのに、何でわざわざ俺の手が届く場所に降りて来るんだろう? やっぱりこのヒトは阿保なんじゃないかと思う、脳が無いだけに。それとも俺を本気で殺す気がないのか? うーん、今も広く破壊跡が残る戦術級魔法を放ってきたのだから、そんな事は無いと思うんだけれども……ああ、同僚のクラウディアも考えなしに放っていたからオフェリア殿もその口なのかも。


 一応、黒木刀を彼女に向けると『アタシをあの馬鹿女と一緒にするなっ、今日はアンタを真正面からぎったんぎったんにしてやりに来たんだから、泣いて感謝しなさいよね!』――的な感情が伝わって来る。


 ……実態を失っている所為か微妙に支離滅裂だ。俺にいたぶられて喜ぶ趣味はないぞ。大体、アンタの魔法を受けたらそんな感想を言う前に死ぬだろうが。


『そこは大丈夫、ちゃんと準備してきたんだから!』


 そんな思考を飛ばしてきた後、精霊殿は何やら背後から細く光る何かを取り出した。ようやく逆光で見え難くなっていた視界が元に戻り、改めて彼女が出した何かを確認すると……!?



「ぶっ、それ、オイッ、虹色の枝じゃねーかッ! どこからそんなモノ……いや、アケノモリのドラゴンから、ぶん取って来たんだな!? えらく待たせると思っていたら、それを取りに行っていたのか……なんてこった」



 『どうよ凄いでしょ!』と、胸を張る精霊殿であるが、俺はこの後に起こるだろうドラゴンの大逆襲を想像して血が凍るような感覚を味わっていた。先日、俺の虹流星、そして精霊殿が放った巨大竜巻は、魔獣の森を大きく削った。それに加えてドラゴンへの直接接触とか、絶対に怒っているだろ! もしドラゴンが直接やってきたらアケノモリ防衛局は確実に壊滅する。



『大丈夫、大丈夫! 疲れてふて寝しているところに忍び込んで、ちょっと削っただけだから! 取った後も寝てて気づいてなかったっぽいから大丈夫よ!』 



 ……その大丈夫ってホントだろうな。もしそれでドラゴンが怒って攻めてきたら庇い様がないんだが。ワルプルギス機関も間違いなく彼女を抹殺認定してしまうだろう。この馬鹿精霊はクラウディア以上に考えなしの阿保だと確信した。なんでコレがエレメントの要石とか言われていたのか、さっぱり分からないぞ。



「それで、そいつを以ってどうするつもりなんだよ? 大体アンタ、それを得るのが目的じゃなかったんじゃないのか。任務に失敗して悔しくて悔やんで、魔人化した後にまでそれを求めたって俺は聞いている。じゃあそれを持ってるって事は、願いを叶えたって事だろ。この後、どうするんだ? まさか俺と喧嘩するのが目的とか言うまいな」



 俺がそう言うと、精霊殿は『あれっ?』って感じで首を傾げた。そして、自分の持つ虹色の枝をしげしげと見つめている。『なんでコレがここにあるの……』という思考が飛んできているが、えっと……マジでなにも考えていないし、自分のやった事も理解できていないのか? 本気で頭が痛くなってきたぞ……。



「遅くなった! オフェリアは……あれか! え、な……ええッ!?」

「私も到着しましたよー、って……おかしいですね、私には立ったまま寝るような癖はなかったんですが」



 ここに来るまで走って来たのだろう、息を切らして駆け付けたディアナ殿とサレナ殿であるが、精霊殿が虹色の枝を持っているのを見て絶句している。流石にこれは想定外のようで、俺だって今ある現実が理解しきれていない。


 とりあえず、いつまでも土杭の上に座っているのもなんだから、2mくらいの高さがあるそこから飛び降りて、彼女達を庇うように精霊殿と相対する。


 精霊となったオフェリア殿と交信できるのは俺だけっぽいので、なんとか丸く収めるようにしなければ……自分で言っていて首を傾げざるをえないが、やらなければ彼女を助けられない。



「あー、その、オフェリア殿。俺達は貴女を害するのが目的でこの場所にいるんじゃない。貴女を助けたいと思っている。同僚のディアナ殿も貴女の事を心配して此処に来た。話が通じるんだったら、穏便に話をして貴女を元の姿に戻す施術を行いたいんだが……」



 もし、話ができたならという前提で用意していた言葉を投げかけてみると……興味を持ったようだ。『それはどんな方法で?』と聞いて来る。



「貴女のその中心にある『核』っぽいモノを切って、虹色の欠片を埋め込むんだ。それで元の姿に戻るかは賭けだけど、蒸発しかけたヒト一人をも救うような効力を持っているから、可能性は高いと思っている。ちょっと痛いけど我慢して……あ、駄目!?」

『思い出したッ、アタシはアンタにリベンジしにきたのよっ! そのためにコレだって苦労して用意したんだからっ! これを取り込めば、元の姿に戻ってアンタと生身でやり合えるってものよっ、アタシには分かるの!!』



 え、なんだそれ。


 俺と喧嘩したいって事を優先するあまり、元の目的を忘れて虹色の枝を取りに行ったってのか!? しかも虹色の枝を取り込むって……それで元の姿に戻るって保証は何もないのに、ドラゴンと戦うかもしれないという馬鹿げたリスクも全部無視して? ……控えめに言って狂っていないか。



「ちょっとルート君、オフェリアは何を言っているんだ!? 手にした虹色の枝をぶんぶんと振って、挑発しているのか? 何がどうなっているっ!?」

「お、俺にも分かりません! しかし、彼女は頭がおかしくなっているとしか思えない意思を発して、あっ」



 俺達が混乱している前で、精霊殿は持っていた虹色の枝を自らの『核』へ突き刺した。なんの躊躇いもなく、ずぶずぶと突き刺して虹色の枝を取り込んでいく。


 そして、それがある深さまで達した時、強烈なエメラルド色の光を放った。


 それは先日に見た戦術級魔法の煌めきを何十倍にした輝度があったが、不思議と目を焼かなかった。だから……彼女が肉塊の殻を破り、羽化するのがはっきりと見えた。


 エメラルド色の輝きが収まり、羽化が終わった彼女は空中から地上に降り立って、唖然とする俺達を前に仁王立ちで宣言する。



「エレメント第四席、風のオフェリア――いいえ、アタシは生まれ変わった! 風の魔神オフェリア、ここに爆誕したわ! やっぱり肉体があるっていいわねー、頭がすっきりして気分もイイ! そこの生意気な少年、今度こそは、ぎったんぎったんのぼっこぼこにしてあげるんだから、覚悟しなさい! 泣いて土下座したら許してあげなくもないわよ? あーッ、はっはっは!」



 ……いい歳の娘さんが素っ裸の大股開きで何を言っているんだ。やたらと綺麗で魅惑的なアレが、哄笑と共にぶるんぶるんと揺れていて、遠巻きに見ている伐採隊のヤツらが変な性癖に目覚めたらどう責任を取るつもりなんだ。


 そんな現実逃避交じりの思考を頭に思い浮かべつつ、俺はサレナ殿の背負っていた背嚢から予備の服を取り出して、銀髪褐色の変態女に投げつけた。


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