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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第一章 クロモリ
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8話 面談


「ずっと戦闘馬鹿だとは思っていたが、オメェ、真正のバカだったンだなァ……さすがにフォローのしようもなかったぜ」

「えー、まぁ……はい」

「局長の顔に泥を塗ったンだ。魔女の姐さンに助けてもらわなきゃよう、処刑とまではいかねェが追放はされてたンじゃねェかなぁ……あの後、小隊長や部隊長にも、今まで悪かったって言われちまったぜ」

「…………返す言葉もありません」

「いやホント、もしこの任務が終わって生きてたらよぅ、身の振り方を考えた方がイイぜ。一人突撃班とかマジでありえる」

「………………ハイ」



 応接室で魔女殿を待つ間、俺は上官殿にお説教というか、人生指導というか……そういうモノを受けていた。


 あの、やってしまった任命式から時間が経って、現在は午後になっている。

 

 その間に仮眠をとったことで多少は頭がすっきりしており、思い返すもなんであんなことを言ってしまったのか分からず、煩悶としている。自分でも自覚していなかった心の裡を言葉にするなんて、まるで化かされた気分だ。


 もしかしたら魔法を掛けられていたのか? そんなことを考えてしまうくらい不可解なことを言ってしまった。あの時、退室を命じられた時に化物を見るような局長の目が忘れられない。


 上司の言う通り、今の任務を無事務めたところで防衛局に俺の居場所はないかもしれない。魔獣の群れに突っ込まされるか……追放だったとしても、人生の多くを防衛局で過ごした俺は此処以外の世界を知らない。社会性のない人間なんて野垂れ死にする未来しかないだろう。いずれにしろ詰んでしまっている。


 ……まぁ、いまは未来のことを考えてもしょうがないか。新しい任務の中で命を落とすことを十分にあり得るし、生き残ってから考えよう。


 そんな現実逃避をしていると応接室の扉が開いた。魔女殿のご登場だ、上官殿と立ち上がって敬礼をする。



「ああ、これからは敬礼は不要だよ、しばらく運命を共にするのだから余計な垣根は取り払っておきたい」

「クラウディア様、親しき仲にも礼儀ありです。敬礼くらいは略されても構いませんが、締めるところは締めてください。それに決して気を許さないよう、この者はヒトの皮を被った野獣です」



 お付きの甲冑を装備した女性が、嫌悪もあらわに魔女殿と俺の間に入る。金髪縦ロールなんて物語の中だけかと思っていたが、実在したんだなぁ……それはともかく、あれだけ常軌を逸した言葉を口にしたのだから睨みつけられるのも当然だ。段々と上官殿が胃を押さえる気持ちが分かってきた気がする。



「はは、マリーの気持ちも分かるが抑えてくれ。それに彼は局長殿が言ったように魔獣絶対殺すマン?とやらかもしれないが殺人鬼ではない。警戒する必要はないよ」

「なにを仰いますか。このような危険物、近くにいるだけでおぞましい。なぜ、この者を護衛に選んだのかマルローネには分かりかねます!」



 ――確かにな。


 魔獣相手に暴れるのが本命で、護衛なんてついでだと言い切ったのに、なんで任務をクビにならなかったのか不思議だ。あの場では面白いとか言っていたが、どこまで本気なんだか。



「まぁ、なんだかんだ言って経験も実績も彼が一番なのだからな、少しでも生き伸びる可能性を上げたいのだ。それにもし彼が狂ったとしても、彼相手に魔女の私が不覚を取るとでも?」

「そのようなことは……しかし」

「マリーの心配はわかる。だが、我々は期限までに虹色に輝く枝を手に入れなければならないのだ。回り道をしている暇はない」

「……承知しました」



 そう言ってお付きの人はすっと後ろに下がったが、睨みつける強さは変わっていない。もし変なことをしたら叩き切ると、腰に差した剣の柄に手を掛けて準備万端な体を示している。気を付けないと。



「さてと、待たせてしまってすまなかった。改めて自己紹介といこう。私はクラウディア、魔女の名を連ねし者。仲間には爆炎だの、火箭だの言われているが二つ名は嫌いでね、名前で呼んでくれるとありがたい。こちらはマルローネ、私の世話係、兼、護衛だな」

「マルローネと申します。よろしくお願い致します」



 魔女――クラウディア殿が優雅に、そして、威厳を持って名乗る。どう見ても侍従の方が年上なのに貫禄が半端ない。なんか、五十代が魔法で若返って十代になっていると言われても納得しそうだ。


 そんな馬鹿な妄想をしていると、隣の上司が口を開いた。



「クロモリ防衛局護衛隊所属の甲18648号、並びに乙14142号であります。本日よりクラウディア殿の護衛、兼、探索の任に就きます。よろしくお願い致します」

「乙14142号です。先ほどは失礼しました」



 敬礼は不要とのことであるが、どこまで略してよいのかわからないので、気を付けの状態で認識番号を名乗る。



「あー、そういうのもいいよ。その調子で四六時中過ごされると堅苦しくて敵わないから。それといちいち番号で呼ぶのも億劫だ。任務中、君の事はコウと呼ぶ、魔獣好きの君は……ルートだな、うん。異論は認めないから」

「え、あの……わ、わかりました。自分たちの態度については追々、指導頂ければと思います」

「なに、自分で考えていた名前でもあったか? この任務が無事に終われば好きに名乗るといい。よき働きには見合った報酬を与えるのが私の方針だ。君はじゃじゃ馬のルート君を御しきれている実績もあるからな、一足飛びで部隊長にしてあげるさ」

「っ!! ありがとうございますッ!」



 どうやら暴君でありながら、人心掌握の術にも長けているらしい。あの偏屈な上官殿を一瞬で味方につけた。鞭と飴の使い方が上手くて洞察力に長けるとか、ヒトの上に立つことに大分慣れていなければ出来ないことだ。魔女の名は伊達ではないということか。



「さて、言葉を交わしての自己紹介はこれで十分だろう。私が求めるのは有言実行が出来る人材だ。これから君たちの実力を見せて貰いたい。幸い、今は魔獣の活動期というから実戦の相手にはコト欠かないはずだ。私の護衛を務めるのだから徹夜明けだろうが何だろうがベストな成果を見せて貰いたい。特にルートには先ほどの大言が嘘でない事、期待しているぞ?」



 そう言って悪戯っ子のように片目を瞑るクラウディア殿に、やっぱりこのヒトは魔女なんだなぁと、改めて実感した。


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