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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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19話 殺戮演戯(下)


 砦の外へ降り立った俺は周囲を見渡す。


 俺の投石によって体が陥没していたり、首が変な方向へ向いていたり、とにかく絶命しているアギトがわんさか。身体を大きな矢に射抜かれて串刺しの干物?のようになっているゲキドがそれなりの数あって急所を外したヤツは生きてるのもいるな、地面に縫い止められて動けないようだが。


 黒く流れ出す血と強烈な異臭、周囲からは断末魔と鬨の声が響き渡り……まさしく此処は地獄の一丁目、いつも通りの我が故郷なり。こんな地獄に降り立った唯一のヒトである俺は、さぞかし美味い餌に見えるのだろう。まだ残っている左右の陣地から強烈な食欲交じりの殺意を感じる。


 ハハ、他の命を蹂躙して喰らわねば生きられない罪深き輩よ、ここに同類がいるぜ? もっとも俺は自らの快楽の為に魔獣の命を刈り取る、お前ら以上の悪鬼だがなぁ!


 側に在った地面に縫い留められて足掻いているゲキドの首を容赦なく叩き折る。そして、左にいるアギトの群れに向かって走った。


 飛びかかって来るアギトを十二神将で叩き落しながらその群れを突っ切り、森の方へ走ると見せかけて……右に居た集団へ向かい、これまた十二神将でアギトを殺しながら群れを突っ切る。


 走っては殺し、走って殺しを繰り返し……戦場をかき乱した。


 どうだい、俺に翻弄されて動きを止めた魔獣は恰好の的だろう? それに俺を追う事で、バラバラだった奴らが今はある程度は固まった集団になっている。


 今がチャンスじゃないのかな、防衛隊の皆さん。


 動かないなら怒鳴ってやろうと思ったが、そこは防衛局員だ。混乱してその場から動かなくなったアギトやゲキドの集団に、矢と石を雨あられと降り注いで殺していく。


 よーし、俺は頑張った。ちょっと休憩しよう。


 砦の壁付近に戻って来た俺は、高さ2mくらいのところにあった壁の隙間へ黒木刀をぶっ刺し、その上に飛びあがって腰を載せた。そして腰に下げてあった水筒を取り出して水を口に含む。


 やっぱり十二神将の連続使用はきっつい! もうちょっとアギトが多かったら突破できず、群れに飲まれて殺されていただろう。ご利用は自身の体力を自覚した上で計画的に、だな。



 対魔獣作戦そのにぃっ!(セルフエコー) 都合のよい状況を作れ。


 動いてる的に当てられないんだったら足を止めろ。分散しているなら囮でもなんでも使って集めろ。そして集めて固まった敵に遠距離から最大戦力をぶちかませ! って、ところかな。巨大弩級(バリスタ)を使ってくれたらもっと効果的なんだが、何をしぶっているのやら……。


 今回は時間がなくて俺が囮になったけど、別に囮じゃなくても……例えば、落とし穴を掘るとか、もっと単純にロープを張り巡らせるとかでもすれば、足止めや誘導はできる。


 凶悪な魔獣とは云え、所詮はヒトより頭が利かない動物だ。対集団戦の経験を蓄積できるヒトが、それを出来ない魔獣に負ける道理はないのだが……俺の知る限り、それを全く有効に使えていないのが防衛局の現状だ。


 砦を盾に戦う、その有効性は認めるが、何故それを発展させようとしないのか理解に苦しむ。


 そりゃあ、失敗=被害が出る=死者が出る、なので責任を負いたくない気持ちは分かる。しかし、やれることをちょとずつやっていく事が重要で……被害を最小限に抑えたいなら、いきなり大規模でやらずに試行をして感触を確かめながら進めればいい。そう思うんだけど、本当にヒトの命が掛った現場では提案が通りにくいのだ。


 さて、休憩している間に左右の敵もあらかた片付いたようだし、後は残った敵を一匹ずつ確実に殺していきましょうか。手負いの魔獣は手ごわいし、死んだふりをするヤツもいるから、確実に殺して回らないと。



 対魔獣作戦その三(飽きてきた)。とにかく急所を狙え。


 魔獣は頑強だ。丈夫な箇所を殴っても跳ね返される。しかし、急所なら軽く力を込めた一撃を当てるだけで怯むか戦闘不能になるし、何なら殺せる。これは魔獣も決して不死身の化け物ではなく生物だからこそ言えることだ。


 生物には外部感覚器官と内臓が絶対にある。んで、そこは大抵急所であり、止めを刺すには急所への一撃が確実だ。


 戦場ではなんでもアリだから楽に殺せる急所を狙わない理由はない。資料室でアイツらの解剖資料を調べれば、急所なんて幾らでも出て来る。だからゲキドの剛毛がいっぱい生えている箇所を剣で切ろうとするとか、アギトの発達した顎にあえて槍を突っ込もうとする防衛局員の気がしれない。


 無論、これも事前教育でやったらいけない事として学ぶんだが、戦場の雰囲気にのまれるとやっちゃうヒトがいるんだよね。一年間、護衛隊で生き残ったヒトでもやっちゃう事があるので大きくは言えない。


 まあ、いま殺しま回っている瀕死の魔獣はともかく、動いている魔獣の急所が狙い難いってのは分かる。なので次点で狙うのは『足』だ。


 戦場で移動できないってことは、倒されて踏み殺されるとほぼ同義だ。


 自分で殺さなくても敵が、場合によっては味方に踏み殺されるなんてよくある話で、それは魔獣も一緒だ。平地戦闘においては四本足のウチ一本でも傷つけて鈍らせておけば後続のゲキドが踏み殺してくれる。それでも生きていたら遠距離から射殺せばいいし。


 まあ今は瀕死の魔獣に止めを刺している状況なのでそれは余談にすぎない。


 まだ生きている魔獣を黒木刀で叩き殺して回り、怪しいと思うヤツはその辺に転がっている石を投げて殺し続ける。


 砦の上から『酷い』だの『アイツ本当にヒトか?』などの非難を含んだ呻き声が聞こえてきたが、ちゃんと止めを刺しとかないと魔獣を回収するヒト達に死者が出るのよ。魔獣は生命力が強いから瀕死状態で放置しても中々死なないし。


 これも縦割り社会の弊害か? クロモリ防衛局じゃあ常識だったんだけどなぁ……やっぱり防衛局に横の繋がりは必要だと思う。


 よーし、そんなことを思っている間に止めを刺す作業は終わっていて、この区画の魔獣は殲滅出来た。遠くから魔獣が吼える声が聞こえて来るから、まだ戦闘は続いているようだけど……応援に行くか? いや、折角だからあの実験をしてみよう。ノルマは十分にこなしたんだから、後は好きにさせてもらおうじゃないか。


 ちょうど森から三体ほどのゲキドが追加で出て来ており、何て都合が良いのだろうと俺はほくそ笑んだ。



 アイツらには手を出さないでくれよー、と砦の上にいる連中に声を掛け、改めてゲキド三体に相対する。


 直進しかしないゲキドは俺の思惑に沿った実によい実験材料なのだ。しかし三匹もいらない。一匹を除いてゲキドの頭蓋を黒木刀で叩き割った。


 もしかして三兄弟だったのかも。両隣のゲキドを殺されたことで、一旦走り去ったヤツが俺に振り返って咆哮するのを見てそう思ったが……うん、どうでもいいな!


 なんにしてもこれで状況は整った。


 手元に布を巻いたナイフを用意し、そこへ資料室から無断でガメてきたカズラの体液標本、その小瓶の栓を抜いて振りかける。そして突進してきたゲキドを跳んで避け、尻にそのナイフを突き刺した上で首を撥ねた。


 首を無くしたゲキドはそのまま森に向かって走り続け、砦と森の中間あたりで倒れた。う~ん、狙い通り行き過ぎて自分の運の良さが怖い。


 さて、後は狙い通り行くか…………ああ、問題なさそうだ。50cc有るか無いかの少量なのに凄い効き目だな。


 他の区画から多くの魔獣が走る足音――地響きが、実験の成功を教えてくれた。


 狙い通り、首ちょんぱしたゲキドの尻におっ立てたナイフ(魔獣を引き寄せるカズラの体液べったり)に魔獣が向かって行っている。ほどなくしてあのゲキドの死骸に多くの魔獣が群がるだろう。



 さて、対魔獣作戦その四だ。機を逃すな!


 もうやる事は分かっているよね。そのデカい弩弓は飾りじゃないだろう? これ以外のどんなタイミングで使うっていうんだい?

 

 遠目に見える呆けた防衛局員の様子から、これは発破をかけてやる必要があるかなと思いつつ、俺は砦へ向けて疾く走った。


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