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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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18話 殺戮演戯(上)


 案内された防衛局長室で部屋の主から出た言葉は、やはり魔女への援護要請であった。


 昨日の戦闘で防衛局員が死に過ぎて人員増強や隊編成が間に合わず、満月になるまでの間は、いや満月が過ぎるまでは魔法で魔獣を撃退してくれないかとの事。


 そう語る防衛局長の顔は青白い。横に並んだ三部隊長も局長以上に顔を青く――というか、それを通り越してどす黒くなっており、部下の小隊長から随分と突き上げられたのだと思われる。トップと現場を繋ぐ管理職って大変だよね、俺にはとても無理だ。そういった意味で少数精鋭で事を進める魔女、その騎士を目指すって俺の選択肢は正しかったのかも。


 さて、それはともかく、先に言っておいた俺の提案をディアナ殿がしてくれるようなので、まずは黙って見守ろう。



「わかった。援護の事は約束だから断る事はしない。だが、安易に魔法を使うのは避けたくてな……一先ず従者見習いの彼に任せようと思う。調査で森の中に入れば、どれほど消耗を強いられるか予想がつかないのでね。必要な場面で魔法の行使を惜しむつもりはないが、負担を減らせるなら減らしておきたいのだよ」

「は? いや、そこな得体の知れない若造よりは、魔女殿の広域魔法で魔獣を蹴散らして頂ければと……」



 そいう言う防衛局長殿は困惑の表情だ。


 魔女の魔法を頼りにしていたら、どんな人間かも分からない男一人に任せると言われれば、そりゃ困るわな。昨日の挨拶で何をしたかは語ったものの、それを実際に見たのはこの面々にはおらず、また、部下から数字は聞いていても本当か否か判断しかねたのだろう。


 ここから先はディアナ殿からの説明では難しかろうと、俺が発言する。



「自分は魔法を使えませんが魔獣との戦いには慣れております。魔女の広域魔法とまでは言いませんが、自分一人で三百体以上を倒した事は部下から聞いていませんか? 満月が近いため、本日はそれ以上の魔獣が出て来るかもしれませんが、生き残っている防衛局員と協力すれば撃退は可能かと」

「なっ、三百!? 何を言っているのだ、そのような虚偽報告はいい加減に……なに、本当だと? 粋がった元防衛局員が勝手な事をしたとは聞いていたが……」



 どうやら昨日の俺の戦果は適当に誤魔化されて報告されていたらしい。部隊長が局長に耳打ちして目を白黒させている。


 そりゃあ報告に迷うような話ではあるかもしれないが、組織で報告内容が杜撰だと酷いことになってしまうだろうに。やはりクロモリ防衛局とは同じ防衛局でも文化が違うようだ。


 ここでごねられて提案を却下されるのは嫌なので、彼らに都合のよい逃げ道を作っておこう。そこに分かりやすい挑発も添えて。



「クロモリ防衛局では魔女の魔法に頼った場合、局長殿の進退問題にまで発展しそうでしたが……アケノモリではどうなんでしょうね? 魔女に頼ろうとしている時点で今の評価は底辺にあって、これより下がりようがない。試してみてもよいのでは?」

「キサマ!! 魔女殿の後ろからこそこそと……防衛局の脱落者風情が口出しする話ではないっ!」

「はは、確かに俺は途中で防衛局を辞めた半端者です。しかし、ここに居る誰よりも実戦を経て来た自覚はありますよ。伐採隊で一年、護衛隊で五年ちょっと……この実績では信用するに不足ですかね?」



 ばらつきはあるが、伐採隊、護衛隊を合わせて半年に千人程度は補充される。護衛隊だけなら年間千人の補充人員で、その九割以上が死ぬわけだ。それを五年生き延びているって事は、10%の五乗でいいのかな? そんな単純計算だと生存率は0.001%で……そりゃあ戦場に同期なんて居ないわけだ。


 これを出してもまだどうこう言うなら諦めるしかないと思っていたが、そこは流石に防衛局の一員である。俺を化け物でも見る目になった。しかし、話を通すためには、よりハードルを下げる必要があるかな。



「ご安心を、いきなり大がかりな事をするつもりはありません。今日は砦の外へ出る余裕なんてないでしょうし……そうですね、まずはお試しで防衛隊による攻撃範囲の薄い一区画をお借りしたい。そこを補う形で自分が魔獣に対応します。そうすれば他の区画よりも……最低三倍の戦果をお約束しましょう。それを見て今後も採用するか判断頂ければと思います。ああ、可能でしたら昨日助けた防衛局員に俺の戦う姿を見せてください。多少は希望を与えられるかもしれません」



 昨日の体たらくからすると、雑に計算しても5倍の戦果は得られると思うけど、ここは控えめに申告しておくとしよう。何事も余裕をもって事は運ばないとね。しかし、そんなでも局長殿には多目であるようだ。



「大口をっ、それで失敗したならどう責任を取るつもりだ! よもや全て我らに押し付ける気ではあるまいな!?」



 そりゃあ責任者が責任を取るのが当たり前なんだが……そんな正論を言ったらこの話は通らないだろう。この話をした時点で命を懸ける覚悟はある。大丈夫ですよーと、ディアナ殿に目配せをする。すると俺の意を汲み、即座に口添えしてくれた。



「そこは私が請け合おうじゃないか。彼が役目を果たせないなら、彼ごと戦術級魔法で魔獣を掃討することを約束するよ。それなら文句は無かろう? 局長殿も……ルート君も」

「ええ、責任の重さは承知しております。不手際があった場合、それは命でもって贖う覚悟です」



 そんな言葉まで使って、ようやく俺の提案は通る事になった。


 後でディアナ殿に説教される事になったが甘んじて受けた。部下の命を預かる管理職の気持ちが最近になってようやく分かって来た今日この頃である。



---



 大言を吐いたからには、それを果たさねば愚かな道化師ピエロでしかない。


 現在は砦の上――防衛隊自慢の巨大弩弓が並ぶその中間に俺は立っている。


 どうやら昨日は昼間に多く魔獣を殺したおかげか、夜に出て来る魔獣は少なかったらしい。砦は何処も崩されていないし、地面の血痕が昨日から増えていない。まあ夜も同じ数が押し寄せていたら俺達に救援要請が来ていただろうしな。


 そして、今日もそれなりの数の魔獣が出て来るようだ。森の裾からちらほらと出て来ているのはアギトにゲキド……いつもの面々で、カズラみたいな大型魔獣はいないと。


 大型魔獣が居たら俺の提案を確かめるどころではないし、それこそ防衛局の崩壊につながる。完全な満月の時にはどうなるか分からないが、今日は出て来ないことを祈りたい。


 そんなことを思っていると戦端が開かれた。


 アギトの群れに交じってゲキドが少々、といった構成で砦に走って来る。単体同士だと殺し合うんだけど、砦に攻めてくるときは何故か協力しあうんだよな……また、ドラゴンと話す機会があれば聞きいておこう。


 さて、砦の皆さんが監視している中で失敗できないから、真面目に作戦開始とまいりましょうか。



 ルート・トワイスの『砦防衛戦』における対魔獣作戦そのイチィッ(エコー)! 遠距離で殺せる敵は確実に殺せ。

 

 要は人間の持つ最大の武器、投擲力は有効に使おうってことだ。


 何も魔獣の牙が届く場所で馬鹿正直に戦う必要はない。射程外からの攻撃は他の動物を抑えて人類が発展した要因の一つである。これは防衛局の対魔獣講義でも習うんだけど、興奮するととにかく突撃するヒトが多い。まぁ、目の前で仲間を殺されたらそうなる気持ちも分かる。


 んで、ここからが重要。


 ゲキドは投石で殺せないがアギトは殺せる。もちろん、防衛隊の弓矢では両方殺せる。防衛隊が使う弓は魔獣用に二メートルはある複合弓で矢もそれに合わせた大型のため、殺傷力は折り紙付きだ。


 なにが言いたいかというと、投擲に使用する資源を有効に使うために、狙う獲物は分けましょうということ。石も矢も、数に限りがある。それを無視して雑にばら撒き、必要な時に矢がなくてゲキドに砦を崩される。そんな状況に陥ることは実に馬鹿らしい……が、これが結構あったりする。


 砦防衛戦においては、防衛隊が弓矢、護衛隊が投石で攻撃する事となっており、それぞれが適当に獲物を狙うためにそんな悲しいことがしばしば起こる。縦割り社会の悲しき因習よ。


 そんなワケで山と積んだ石と矢を傍らに、俺は投石でアギトを殺し、ゲキドを弓矢で射抜いて行く。


 因みに俺の投石の有効射程距離は200m、弓矢の場合は150mである。逆じゃないかって? 投石は『気』が使えるからなぁ……無論、連続投石するとなると有効射程は落ちて50mほどになる。その投石範囲に入るまでは弓矢でゲキドを殺せばいい。アギトに比べればゲキドの数は少ないので、俺の受け持つ範囲であれば十分に矢は足りた。


 また、命中率が高すぎないかって周囲からの疑問視線は無視する。こんなのは慣れだ。特にゲキドは横に逃げずに直進してくるんだから、試し矢で相対速度と距離を確かめておけば当てられない方が難しい……そんなことを上官殿が言っていて、俺もそれを実践しているだけである。


 さて、左右で矢が足りなくなった防衛隊の皆さんへ残りの矢を渡したから、俺は砦に取り付いて削ろうとしたり、登って来ようとしていたりするアギトを殲滅しなければならない。流石にアギトは多すぎて砦に辿り着かれるまでに殲滅しきるのは無理だったのだ。


 そんなワケで無心で石を投げまくっていたら手持ち分は使い切り、壁に取り付いている奴は全部落として、近くに居たヤツも殺し尽くしていた。


 よーし、次のフェーズだ。地上戦と行きましょう。


 誰かの止める声を聴いたような気がするけど、俺は無視して砦の外へ飛び出した。


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