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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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13話 交渉


 防衛局に着いて早々、とんだハプニングに見舞われてしまったが、本来であれば着任の挨拶が最初だった。


 それを省略して随分と暴れてしまったので、防衛局としては一言あるだろうな。何せ軍隊かそれに近しい組織は面子が一番なところがあるので、本音はともかく建て前として釘を刺さざるを得ない。例え、ディアナ殿が先に俺が暴れると断っておいてもだ。



「ルート・トワイスと言ったか? 防衛局の脱落者が、随分と勝手な真似をする。貴様の所為で失われた命があったかもしれんのだぞ! これからは我々の知らぬところで作戦行動はするな、二度目は無いと思え!」

「はい、反省しております!」



 それを知っていれば様式美として理解できるので、心は全く痛まないし、言葉に反して反省もしていない。参戦しなければ、もっと多くの命が失われていたし。


 逆に、こんな茶番をさせられている防衛部隊長が哀れに思えて来る。挨拶が終わったら査問会でさっきの戦闘の責任を取らされるだろうし……まあ、責任者の一人として、あの惨劇をどうにもできなかったこのヒトに同情する余地はないが。


 だからサレナ殿、そう睨んでやらないでくれ。アナタは本来、俺の上司にあたるんだからな? コレくらいは鼻で笑って受け流すとかして欲しい。ほら、防衛部隊長が怯んでいるじゃないか。



 現在、俺達はアケノモリ防衛局長の部屋にいる。


 俺が予備の服を着て、携帯食を食べるのに少し時間が掛かったので、報告を待ちわびた防衛局長が遣いを出したのだ。その防衛局長の秘書と思われるヒトに先導されて、防衛局の奥まった場所にある局長室に連れてこられたというワケだ。


 さて、先ほどの説教で様式美は終わったので、本来の任務に関する説明の時間となる。


 重厚な机の向こう側に、頭髪が灰色で貫禄のある年嵩の男――防衛局長が座っており、その両横に各部隊長が並んでいる。なお、被害が大きかった伐採隊、護衛隊の部隊長は席を外している。先ほどの後始末で、てんやわんやしていることは簡単に想像がつく。後でこの件は伝え聞くのだろう。


 今回の件について説明するのは責任者のディアナ殿で、サレナ殿と俺は彼女の後ろに立っているだけだ。


 求められたら補足することもあるが、基本的には発言は許されていない。なにせ、こちとら下士官にも満たない下っ端なので。魔女の騎士は士官扱いではあるが……新任のサレナ殿に何かを求めるのは酷だし、下手に喋ってボロを出す訳にはいかないため、一緒に黙って話を聞く事になる。



「それで……今回は調査と聞きましたが?」

「ええ、前回、虹色の枝を求めてアケノモリに滞在させて頂いた。その時は残念ながら任務には失敗してしまったが、どうもそれ以前から魔獣の行動が想定より厳しくなってきているようでして……我々も馬鹿ではない。虹色の探索には過去の実績を考慮して十分な人材と余力を以って任務にあたったつもりだった。今回は別の場所で虹色の枝を得ることが出来たが、エレメント階位の魔女が二人掛かりでも達成には厳しい状況だった。この魔獣の森の変化……他人事ではありますまい。原因を探らねばならぬ」



 ディアナ殿がそう言うと、防衛局長は渋い表情になった。


 今回のようなケースは年に数回であったから防衛局を維持できていたのだ。


 魔獣の氾濫が今以上に増えたなら、防衛局の存亡にかかわって来る。彼とて、前線には出ないがその砦にいる事に違いはない。砦の崩壊は死に直結する。



「確かに……ここのところの魔獣の森の様子は何処かおかしい。もちろん月齢による波はあるが、森から出て来る魔獣の数が以前よりも多い事は当方としても把握しておりますよ」

「であれば、調査が必要な事は明白だ。何かあった時にはエレメントの魔法で広域を消し飛ばすのが、この国の政府とワルプルギス機関が結んだ契約だ。しかし、それは最後の手段であるから簡単には使えない。機を見極めねばならん」

「そのための調査ですか……」



 実はこの辺りの理由はニエモリの玄武から愚痴と共に伝え聞いているが……明かしたところで嘘つき呼ばわりされるし、下手をすると命を狙われるので誰にも漏れせられない。ディアナ殿どころか、クラウディアにも言えない、墓まで持っていくしかない秘密だ。


 この先、どうなっていくか……一つだけ言えるのは、この先々、少なくとも俺が生きている間は、魔獣とヒトの戦いが無くなる事はないということ。だが今は関係ない話だ。



「しかし、防衛局長である私にも疑問がある。この魔獣の大氾濫は一時的なモノではないかと……例えば、以前にここに来た魔女殿が森の中で大規模破壊を行った為ではないか? その虹色の枝を得たという魔獣の森――クロモリでも随分と魔女が暴れたと耳に入ってきております。即ち、魔獣の不可解な行動の原因は魔女にある……そういう見方も出来るわけです」

「ほう……面白いことを仰られる」



 まあ、その辺は突っ込むよな。魔獣の森が、実は超巨大生命体ドラゴンだと知っているヒトからすれば、当然の疑問だ。防衛局長の言葉を要約すると、


『おめーらが馬鹿みたいに暴れるからドラゴンが怒ってんじゃねーの? こちとら、その所為でエライことになっとるんじゃが。どう落とし前をつけてくれるんじゃい、あぁん!?』


 となる。それに対してディアナ殿は、アルカイック・スマイルでこう返した。



「我々が虹色の枝を得る任務の前から兆候は出ていた……これは虹色の枝を得る任務が失敗に終わって、その反省をするために調査して判明した事実だ。特に何処かの防衛局は被害者数をかなり抑えて報告していたと聞いているなぁ……もっとちゃんとした事前情報があれば、我々も、適切な人員で、適切な対処法で以って任務にあたれたのだが……保身で腐ったヒトには本当に困らせられる」



 うーん、そうだな。クロモリでも探索に入る前に、既にヤバイ兆候はあった。上官殿と一緒に徹夜したのは忘れていないぞ。なにせその日にクラウディアと初めて出会ったのだから、忘れようがない。それで、今度はディアナ殿言葉を要約すると、


『おう、お前んとこの情報がクソじゃったから、わしらはいらん苦労もさせられたし、暴れることになったんじゃい。ええのう、体を張らんボンボンは。それどころか味方の足をひっぱるなんぞ風上におけんわ。なめんなや、くそジジイ』


 となる。どちらも表面上は融和な笑みを湛えているが、コメカミに青筋を立てて、今にも殴り合いが始まりそうな気配だ。


 しかし、そこは二人ともいい大人である。両者ともニタリと凶悪な笑みを浮かべた後、必要な事を確認し合った。


 狸の化かし合いをイチイチ描写するのは面倒臭いので、防衛局からの提示されて受け入れた内容について要点だけ述べよう。



・調査は許可する。ただし、森を刺激するような大規模破壊は絶対にしない。

・期間は2週間とし、延長する場合はワルプルギス機関から正式に要請すること。

・調査に関する資料は提供するが、調査で判明したことは詳らかに報告すること。情報共有において虚偽は許さない。

・防衛局の設備や備品、食料などは常識の範囲で提供する。競合した場合は、防衛局側に優先権がある。

・防衛局が危機に陥った場合は魔女一行に助力を求めることがあるので、応じること。



 他にも色々と言われたが、主要なものは以上である。


 随分と防衛局側に有利な条件であるが、ここは防衛局のテリトリーなので文句は言い難い。つーか、そもそも調査と言っている時点で嘘だし。


 俺達はオフェリア殿を助けられればそれでよく、調査結果なんて元から適当にでっち上げる気でいる。それまでの拠点として防衛局を利用する事が目的で……上手く事を運べたワケだ。


 無論、防衛局が危機に陥った場合は助力するのは嘘ではないが、たった二週間の内にどれだけそんな状況になるやら……この二週間という、調査には短すぎる期間でピンとこなかった防衛局長の負けなのだ。


 それをおくびにも出さないとは、やっぱり魔女って凄いなと、改めて思った。


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