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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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10話 防衛局(中)


「いいか、森に対して末広がりの三角形の陣を作れ。外側に護衛隊、内側には負傷者や戦えない伐採隊を入れろ。上からの援護攻撃を警戒しながら移動するんだ。俺は森の方へ少し出て、こっちに向かってくる魔獣をとにかく殺すから、討ち漏らしはお前たちで何とかしろ」

「え……いや、オレ達はこの場所で伐採隊を、外壁を守れって……逃げたら処罰が、ひどい事になるって……」

「それを言ったヤツは何処にいるんだ? 死んだか、別の部隊を指揮しに行ったのか……どちらにしても隊としては全滅判定だろうから、退避したって文句は言われる筋合いはない。もし言われたとしても、本当に全滅するよりはマシなんじゃないか?」



 視線を森から出て来た魔獣から外さず、後ろからごちゃごちゃと言ってくる防衛局員に言い返す。


 これでまだ動けないって言うのなら、見捨てる。


 俺は自らを助けることができないヤツに、更に手を差し伸べるほど慈悲深くはないのだ。他にも生きたいっていうヤツは沢山いるだろうから、その気が無いならそちらに向かう。


 しかし、後ろからガサゴソと立ち上がって移動したり、陣形を作るやり取りをする声がしており……そこまで愚鈍ではないようで安堵した。


 ふと思う。ニエモリの村長が造ろうとしていた地獄と現在の防衛局は、どちらがより酷いのかと。


 俺としては可能性がゼロのニエモリよりは防衛局の方がマシだと思うんだが、俺のような五感や身体能力を持たざる者にとっては、此方の方が酷い地獄なのかもしれない。元から破綻していたとはいえ、事実上、ニエモリを潰した俺が言う事ではないが……地面に散らばる防衛局員の四肢や肉片、血と汚物が入り混じった戦場を眺めていると、そんな想いが浮かび上がってくるのだが、それは傲慢か。


 今はとにかく出来ることをしよう。後ろにいる連中の態勢が整うまでは、俺が魔獣を堰き止めて時間稼ぎをしなければ。


 そう思っていると、後ろから戸惑いを含んだ声を掛けられた。



「……アンタの言うとおりにするよ。だから、オレ達を助けてくれ。生き残りは伐採隊が6人、護衛隊も6人だ……ケガ人もいるが、まったく戦えないってほどじゃない」

「へぇ、結構生き残っていたんだな……じゃあ、ちょっと待ってろ。森から出てきたアイツらを片してくるから。何かあったら、お前が生き残るための指揮を取れ、いいな?」



 返事を待たずして、魔獣へ向かって駆ける。


 いつも突進してくるゲキドに、それの隙間から飛びかかって来るアギトと……攻撃が掠っただけで致命傷に成り得る魔獣を相手に、新人を守りながら戦えってのは無謀を通り越して自殺行為だ。少なくとも此方の一撃で戦闘不能に追い込むくらいでないと魔獣の群れが相手に死ぬしかなく、それには他の事を気にしている余裕はない。


 神魔刀の形態が使えたら楽かもだが、どうやっても撲殺できずに斬っちゃうからなぁ……それに、あの形態には十分に魔獣の血を吸ったり、魔法を喰らったりしないと無理なようで、あんな不思議パワーを発するのだから当然と言えば当然だ。


 俺としては、ずっと黒木刀形態で戦って慣れているから、ドラゴンなどの難敵と戦う時以外は木刀のままが良いと思っている。コイツは何故か変身エネルギー?が少しでも溜まった時点で、やたら刀の形態を薦めて来るんだが……刀には刀なりの存在理由レゾンデートルというヤツがあるらしい。


 さて、それはさて置いて、今は目の前の魔獣に集中しなければ。


 今度は十二神将は使わない。どれだけ続くか分からない戦闘にアレを使い続けるのは危険だし、ちょっとは後ろの防衛局員達にも苦労――もとい、経験を積ませてやらなければ、いつまでも弱いままでは立ち行かなくなる。それに俺はゲスト参戦者だから頼りにされ過ぎても困るのだ。


 とにかく、俺は防壁を損傷させるゲキドを主目標として、戦場を飛び回り……撲殺していく。


 ゲキドは頭に生えた触手の分け目が頭蓋骨の継ぎ目なので、そこを強打すると陥没して脳へ直接ダメージを与えられる。アギトは顎が馬鹿みたいに進化している分、他の部位は小動物並の強度しかないので、普通に頭と心臓が急所だ。


 どっちも、急所を狙って強打すれば比較的簡単に死んでくれるんだけれど、普通の防衛局員にとって狙うのは厳しいかもしれない。


 なにせ、見た目は強烈な姿形をしたクリーチャーが、己が命を喰らおうと襲ってくるのだ。迫力に押されてタイミングがちょっとズレただけで此方が死ぬ。それを戦場にずっと出ている間、繰り返すってのは難しい。新人で戦闘に慣れてないっていうのなら猶更だ。


 あの外見に慣れるまでに殆どのヒトが死んでしまうので……上官殿の防衛局改善策は、まずそこからじゃないかなと勝手に思っている。


 そんなことを頭の裏側で考えながら魔獣を殺していたら、追加の魔獣は全滅していた。


 一匹二匹は後ろへ抜けられたが、彼らのみで何とか対応出来たようだ。涙と血を流し、荒い息を吐きながらも、今度は腰を抜かして倒れ込んでいない。魔獣を相手に誰も死んでいないようで、結構、優秀なのかもしれない。


 そして、うん。ちゃんと最低限の事はやったのだから、睨まず怯えず、普通に接して欲しいな。



「わ、わわ、わざとか!? さっきのアレを使えば! ……オレ達を、こわ、壊そうとしてるのかよっ? ああ!?」

「そう吼えるな、大体は片付けただろ? さぁ、ここから動けるぞ、陣形をそのままに防壁に沿って移動しろ。他の隊員と合流できたら更にマシになる。この場の防衛は、上で阿保面を晒している防衛隊員に任せておけ」



 目の前で激高している護衛隊員のヘイトを、砦の上で呆けている奴らに擦り付けておく。


 戦っている間に矢を射かけてこなかったのは有難いが、全く援護が無かったのはどうかと思う。是非とも反省して欲しい。



「え、いや、ちょっと待ってくれ……そっちは魔獣死骸の回収門がある方じゃないぞ! どこへ行こうってんだよ!?」

「んー? 他の防衛局員を助けに行くんだよ、あっちの方から悲鳴が聞こえているからな。嫌だったら、回収門の方へ行け。俺はまだ暴れ足りないんだ」



 絶句する防衛局員に背を向けたまま歩き出す。


 俺としては、このまま一緒に行動して、他に助けた連中と合流して陣を大きくして行ってくれたらなと思ったが……無理強いは出来ないし、その権限もない。


 防衛局内に逃げ込むって言うんなら、引率はここまでだ。


 ベテランと一緒に戦って経験を積んだ方が、今後の魔獣との戦いで生き残る可能性が高まるんだが、九死に一生を得た命が大事だと言うのもよく分かる。


 どうやら彼らが選んだのは後者のようだ。


 誰も俺について来る気配はなく、全員が逆方向へ向かっている。まあ、足手まといが居ない方が、より多くを助けられるか……。


 素早く気持ちを切り替えた俺は、新たな悲鳴が聞こえる方向へ疾く走った。


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