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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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9話 防衛局(上)


 魔女の従者を目指そうとも、戦場における俺は何も変わらない。


 己の身体能力を全開にして誰よりも早く魔獣を殺す。ただそれだけだ。というか、魔獣のいる戦場でそれをしないと死ぬ。何せ魔獣の攻撃能力はヒトの耐久力を遥かに上回るので、守りに入った瞬間に命を持っていかれるのだ。


 魔獣より先に武器を振るって殺す――これだけが俺の基本戦法。


 伐採隊を守っているときや、虹色の枝を探索していた時は、五感をフルに使って索敵した後、魔獣より先に黒木刀を振って殺してきた。


 そして今回のように対象が魔獣の群れとなると、可能な限り動き回って的にならないように立ち振る舞いながらも、索敵もこなし、とにかく片っ端から黒木刀を振るって魔獣を殺すということが必要になる。相手が減れば減るほど攻撃される回数も減るし。


 そんなワケで、魔獣の群れの襲撃を受けて崩壊しつつあったアケノモリ防衛局の一部隊は俺の介入によって全滅をかろうじて免れた。いやもう、見た目からすると現時点で損害が全体の5割を超えているようなので、規定によれば全滅判定なのだが、まだ生きている隊員はいる。


 ヒトの血と肉片、そして魔獣の血と死骸が混ざりあって辺りは酷い匂いだ。先ほどは久しぶりという事もあってつい力が入り、叩き斬ってしまったが、やはり撲殺が正解だろう。


 未だ危機は去っておらず、アギトやゲキドの小型魔獣が続々とアケノモリから出てきており、俺はとにかく動きながら魔獣を撲殺したくっている。


 今は下弦の半月を超えた辺りで満月が近いから……まあ、クロモリでも今の時期はこれくらい酷い状況だったと思う。


 そこで腰を抜かしている隊員連中は呆然としておらずに、とっとと態勢を立て直すなり、退却するなり、増援を連れて来るなりして欲しいのだが……クロモリ防衛局よりも練度が低いような気がする。もしやこの部隊は新人連中が多いのだろうか? それなら多くの仲間を無くしたショックもあるだろうし、指示してやらないと動けないか?


 その時間を作るために……まずは、コイツらが邪魔だな!



 こういう時にいつも使う対集団剣技『十二神将』は、一秒に三回の剣閃を放つという短時間で多くの敵を殺すことを目的とした大技である。それだけに脳や体に大きな負担が掛かり、出した後は大きな隙が出来る、言ってみれば捨て身技だ。


 しかし、今までの激戦や黒木刀が造る悪夢の中で多く使用することにより、脳に専用回路が作られて情報伝達量が最適化し――つまりは慣れて余裕が出来た。その余裕は継戦能力の向上に回してもいいし、更に技の精度を上げて威力の向上に使ってもいい。


 今回はアケノモリ防衛局員の為に纏まった時間が必要なので、選択するは後者だ。



 ルート・トワイスが試技――十二神将・顎


 

 『帳』を防御技とするなら、『顎』は更なる攻めの十二神将だ。通常は一回の剣閃で四体の魔獣を標的にするのだが、それを倍の八体に増やした超荒業だ。


 いや、自分でも馬鹿な技であるという自覚はある。これによって脳と体への負担は単に倍になるのではなく、指数関数的に上昇した。単純に今までの十二神将を二回連続で繰り返した方が遥かに負担は低いし、効率的に敵を屠れるだろう。更には出した後は今まで以上に致命的な隙が出来るという、捨て身技どころか自爆技だ。


 でもやらないといけないんだよ、これが。


 多分、今まで以上に強くならないと、魔人化したオフェリア殿に殺される。今までの自分を超えないと死ぬという変な予感があって……そうであるなら強くなる機会を逃す手はない。


 はたして俺の狙い通り、俺を囲んでいたアギトとゲキドの群れの多くが撲殺死体として俺の周りに転がった。


 中には吹っ飛んでいって砦の外壁に激突したヤツもいて防衛隊員を怖がらせてしまったが……とにかく俺の周りには生きている魔獣が居ない空白の空間が出来た。


 どれほど無様でもあろうとも、時間を作るという目的は果たせたのだ。


 試技は一先ず成功で、技の精度はこれから磨いていけばいい。しかし、この十秒間は全く動けなくなるっての本当に致命的で、何とかしないと使えないな……。



「お、オレ達は助かったのか……おい、アンタ、一体どこの所属だ、さっきのはいったい……」

「…………」



 自業自得だが、俺は今、指一本も動かせないし、声すらも出せないのだ。助かったんだと判ったら、とっとと逃げるなり、助けを呼ぶなりしろってんだ。雁首揃えて何をぼさっとしているのか。



「なあってば……オレ達を助けてくれたんだろう? 馬鹿みたいに強いなアンタ。頼むから他の奴らも助けてくれないか? 今日は魔獣が多すぎてよぅ……どこもかしこも地獄なんだ、助けてやってくれよ。なぁ、たのむよ」

「…………」



 だから、こちとら返事も出来ないつーの!


 あああぁ、初陣における新人の判断能力の酷さを完全に忘れていた。また、森から魔獣がわんさか出て来てるのに、何を呑気にくっちゃべってんだコイツ! 



「なぁって、」

「ッ、黙れ馬鹿!! 早く生き残った奴らと一緒に防衛局の中に逃げ込めっ、お前らみたいなヤツが居たら助けにもいけねーだろうがっ! 甲は全員死んだのか!? だったら乙が丙を率いて動けッ、乙も死んでたら自分で考えろ! 助かった命を無駄にするな!!」



 やっと口が動いて、出た言葉は罵倒と指示だ。魔獣を前にして何もしないとか、クロモリだったら懲罰モノだったんだがアケノモリは如何なっているんだ?


 俺に怒鳴られたことで、ようやく腰を上げて……しかし、どうしたら良いのか分からないようで、右往左往しているのを見ていると、まだ助けが必要なようだ。


 しょうがない。越権行為も甚だしいが、久々に新人の引率をするか。もし死んでも俺を恨んでくれるなよ?


 


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