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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第三章 アケノモリ
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6話 接吻(額)


 先ほどの件、頭が冷えるに従って自分のやらかしたことが、どれだけ大事かを自覚して青くなった。


 最上位の魔女に怒鳴るとか、前に防衛局長に逆らったのと変わらない。それどころか脅しまでかけてしまった。その前にも魔女の騎士や従者候補の皆さんを無駄に怖がらせてしまったし、下手をすると追放か? ……だが、やってしまったことは仕方がない。内容的にも取り消せる話ではないし。


 う~ん、再入室して謝るか? それとも扉の前で土下座して待つのが筋だろうか? この辺りの匙加減が本当によくわからない。


 何せ俺は魔獣を殺す事だけに全能力を割り振ったポンコツだ。やる事だけはやって後始末は上司に任せて来た過去の自分を殴りたくなる。自分でやっといてなんだが、そりゃ、歴代の上司に嫌われるわけだ。


 さて、何はともあれ謝ろうと、寄りかかっていた壁から身を離し、立ち上がったところで……件の扉が開いた。


 そこから出て来たのはクラウディアだ。どうやら俺を心配して探しに来てくれたらしい。


 先ほどの事でどうにもバツが悪く、顔を合わせづらかったが、彼女の方は違って本気で俺の事を心配してくれているようだ。



「そこに居たか、心配したぞ。あのような個人情報を何の前触れもなくぶつけて、ヘカテは一体何を考えておるのやら……大丈夫か、ルート?」

「あ、ああ、ゴメンな。大切な場で醜態を晒してしまって……つい頭に血が昇ってしまった。悪かったよ」

「馬鹿を言うな。あのタイミングで、変な情報を晒したヘカテが悪いのだ。なにやら魔獣喰らいと呼ばれた男と因縁があるようだが、今のルートには関係ない事であろうに……昔から配慮の無さは治らんな。だからルートが気に病む事はない。それより会議に戻れ。お主が作戦のキーパーソンなのだからな、主役がいなければ会議が進まん。是非、オフェリアを救ってやってくれ」



 それはしかし……そうか。


 報告書だけでは俺の実力も神魔刀の性能も分からず、前提条件が抜けた状態では作戦は立てられないだろう。もう十分に頭も冷えた事だし、戻るとするか。


 だが、その前に――部屋に戻ろうとするクラウディアの手を掴み、抵抗する暇を与えず抱きしめた。



「る、ルート!? なにを……」

「ありがとうクラウディア。いま、この場に貴女が居てくれて本当に良かった」



 困惑するクラウディアの額に唇を落とす。


 愛おしいという気持ちが溢れて止められなかった。自分にこんな行動力があったなんて驚いている。流石にこれ以上の事は無理だが、デートを経たあとならもうちょっと……頬にキスするくらいは出来るかもしれない。


 頑張った、朴念仁の俺としては頑張ったぞ! ちょっとは好きだと言う気持ちを伝えられただろうか?


 一方、額にキスを受けたクラウディアは、すとんと無表情になり、自分のおでこを手で抑えた後、全身が赤くなり、ぴー、という蒸気が噴き出るような音をさせて、実際に全身から蒸気を噴出させた。


 ま、魔法か? これは溢れ出す感情を魔法にして表現しているのか!?


 クラウディアが無表情のまま、何故かその場で凄まじいシャドーボクシングを……防御を考えずに相手を殴り倒す事のみを追求した凶悪なヤツを始めたのは驚いたが、フィニッシュブローと思われる、空間さえをも切り裂くような光り輝くコークスクリューブローを決めたら、元の肌色に戻った。


 ……あの光子拳フォトンナックル、もしかしたら、空気との摩擦熱が窒素分子と酸素分子にエネルギー与えて励起したのかもしれない。いやそれって本物の光速拳では? ……はは、まさかね。 


 俺が密かに戦慄していると、クラウディアに満面の笑顔を向けられた。



「すまん、待たせた。早く部屋に戻ろう。今の私は無敵だ、何があってもお主を守る。お主の敵は戦略級魔法で国ごと消滅させるからな……だから安心して任務に臨んでくれ。そして帰って来た後は……もっと凄いのが欲しいな、うん」

「あ、ああ……はい」



 額に接吻だけでこんな凄い反応をしてくれるとは……嬉しいというよりは、困惑の方が強い。


 しかしコレ、俺の肩に世界の1/196くらいは乗っかった気がするなぁ……。




---




 その後の会議は、どうやってオフェリアを救うかに終始した。すべてを語ると長くなるので、後で要点を記載したメモを載せるだけに留めようと思う。


 とにかくクラウディアが頑張ってくれたので、バックアップ体制はかなり良いものになった。当の本人が謹慎となり、俺と一緒に任務へ行けない事に最後まで抵抗したが、お土産を持って帰るからという俺の適当な言葉で、素直に待ってくれるようになった。


 その場に居た全員から、お前何やったんだコノヤロー的な視線を受けたが、無論無視だ。


 恋人同士のやりとりは外には秘めるモノなのでね。君らを黙らせる為に、黒羽衣の着装をスローモーションでやってもいいぞ! ……いかん、俺も相当浮かれているようだ。


 なお、当然ながらオクタヴィア、エミリア殿、葛城姉妹もお留守番である。しっかりと苦情処理と新人教育をこなして欲しい。


 ――さて、会議で決まった主要点は以下のようになる。



・目的:虹色の枝消失に端を発した事件の終息

・目標:魔人化したオフェリア殿を元に戻す(不可能な場合は抹殺)

・方法:本部に収めた虹色の枝から削り取った欠片をオフェリア殿に飲ませる

・場所:アケノモリの何処か

・期限:二週間以内

・人数:3名……ディアナ、サレナ(ディアナの騎士)、俺

・補足:魔獣の森の調査という名目で、アケノモリ防衛局の施設を使えるよう依頼し、了承済み

    ディアナがオフェリアの居場所を感知可能



 俺単独だったら二週間以内という期間は厳しかったが、オフェリア殿の位置を感知できるディアナ殿が同行してくれるのがありがたい。無論、監視も兼ねての事だが。


 ディアナ殿の騎士には貧乏くじを引かせてしまう事になったが……こちらは諦めてもらうしかない。俺からも特別手当がでるようにお願いするから勘弁して欲しい。


 さて、期限まで時間が無いので、出立は明日となった。


 また揺れまくるホバークラフトに乗るのが憂鬱であるが、こればっかりは仕方がない。


 せめてもの心遣いとして、出立するまでの間、任務を共にするディアナ殿とその騎士であるサレナ殿と懇親を深める時間を貰えたのは有難かった。


 クラウディアやオクタヴィア、葛城姉妹も混ざりたいようにしていたが、先に苦情処理や新人のオリエンテーションをこなすよう、六芒星の魔女から命令が出てしまった。帰ってきたら可能な限り相手をするので、そう睨まないで欲しい。



 そんなワケで今は場所を移してディアナ殿の居室に居る。


 先ずはこの宮殿に来てから碌にしていなかった自己紹介という事で、豪奢な椅子に座ってお茶を飲みつつ、歓談中だ。


 

「改めて名乗ろう、吾輩の名はディアナ。クラウディア殿やオクタヴィア殿と同じく、エレメント階級の魔女だ。お二方よりは大分後でエレメントになった口で、これから救おうとしているオフェリアと同期だな。皆からは地のディアナと渾名されているが、クラウディア殿と同じく二つ名は嫌いなので単にディアナと呼んでくれたまえ」

「……さきほどは、どうも狂戦士さん? ディアナ様の騎士を務めるサレナです。気に入らないからと言っても……こ、殺さないでくださいね?」

「いや、さっきは悪いことをしました。怖がらせてしまった事には謝罪します。改めまして、元クロノモリ防衛局 護衛隊所属だったルート・トワイスです。今は防衛局を退職しておりまして、空席となったクラウディア殿の従者となるべく精進して参りますので、よろしくお願い致します」



 腕試しで怖がらせてしまい、そして、先ほどの会議では私情を優先して混乱させてしまった手前、平身低頭して謝るしかない。


 

「フム、腕試しはテミス様やヘカテ様が許可したものであるし、言動こそ厳しかったが誰も傷つけなかったから気に病むものではないよ。それに、孤児にとって親の情報がどれだけ大事なモノかは理解しているつもりだ。魔女も……薄気味悪さから親に売られるという事が多くてね、吾輩も似たような境遇だ。かえって親近感が湧いたよ」

「それは……お気遣い、ありがとうございます」



 そうか……魔女という得体の知れない存在ともなれば、我が子とて捨てる親もいる。理解はしたくないが、そういう事もあるのか。



「そして戦闘に関わる事でなければ、随分と理性的だ。サレナも縮こまっていないで話しかけてみたらどうだ? 何にしても任務で二週間は一緒に過ごすのだから、お互いの事を知っておいた方がいいぞ?」

「は、はい……」



 うーん、いいな。初対面で感じた通り、凄く理性的で親分的な気質を感じる。破天荒さが目立つクラウディアやオクタヴィアに比べて凄く安定しているというか、大人な感じがするぞ。どちらが先任か疑わしくなってくるような安定度だ。これだよこれ、こんな上司の出現を待っていたのだ!


 さて、この調子であれば、その騎士であるサレナ殿も騎士の鏡のようなヒトに違いない。少し覇気に欠けるみたいだが、エミリア殿のように性的嗜好が破綻しているよりマシだろう。


 武人ぽく実直気質の美女に、気弱ながらも清楚で可憐な美女……人材の良さは、血なまぐさい防衛局とは比べ物にならない。本当に魔女の島へ来てよかったと思う。



「では、少しお聞きします……貴方は私をいじめませんか?」

「……いや、その……あの時、そんなに怖がらせてしまっていたなら申し訳ない。特に理由もなく暴力を振うとかは絶対しませんので安心してください」

「本当に!? 裸に剥いて鞭で打ったり、水風呂に窒息寸前まで沈めたり、火をつけた蝋燭を孔という穴に差し込んで泣かせたり、私を無理やり●●して■■で▲▲な事をしないって誓えますか!?」

「…………それは、ハイ。ヒトとして当然ですが……」



 え、なにコレ。俺ってそんな人非人に見えてるの? 木刀を握り潰したくらいで、なんでこんな妄想に行きつくんだ?


 俺が助けを求めてディアナ殿に視線を向けると。クラウディアが何かやらかした時のマルローネ殿と似たような菩薩顔になっていた。


 ……ああコレ、上司が頼りになる分、部下が駄目なパターンか。魔女の騎士ってまともなヒトがいないのかなぁ。


 己の被虐願望を工事現場の発破の如く連爆し続けるサレナ殿を無視して、俺は遠く離れた上官殿に思いを馳せた。彼は彼でマルローネ殿に殺されそうになりながらも頑張っているんだろうな。


 うーん、本気で上官殿と魔獣の相手をしていた日々が恋しくなってきたぜ。


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速報、クラウディア臨界事故
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