表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
67/101

エピローグ


 俺の視線の先に佇む彼女――カエデに問う。 



「俺が君に聞きたいことは一つだけ。君の姉さん、キキョウを殺すのは諦めたのかってこと」

「はぁ? 何言ってんのアンタ。私はお姉ちゃんを愛してるんだよ。そんな馬鹿な事を聞くために、私を呼び出したってワケ?」



 心から下げずんだような声色で言うカエデに恋する乙女の色はない。やはり演技だったんだなと思いながらも、少しの寂しさを感じるのは、悲しき男のサガというやつだろうか。しかし、カエデのその表情は、最初に会った時と変わらない。屈託のない笑顔に、僅かに俺を侮るような調子の態度。そして今は……底知れない女の怖さを含んでいる。



「俺の中だと、愛と殺意は矛盾しないんだよ。愛する故に自分のモノだけにしたい。他人に目を向けさせたくないし触れさせたくもない。でもそんなのは無理で、突き詰めれば殺すしかなくなる……ってな。これは極端すぎる例だけど、君がキキョウに向ける感情は近いものがあったんじゃないか? それにキキョウはある時まで死にたがっていた。それを叶えるのも愛する者の使命……そんな風に考えてもいたんじゃないかな? そして、君はキキョウのために、このヨグの村の全てを巻き込んで心中劇を企てた黒幕だ」

「へーえ……面白いことを言うじゃない。いいわ、乗ってあげる。私が黒幕だっていう理由を全部、言ってみなさいよ。採点してあげるわ」



 この時点でもう白状しているようなモノなんだけどな……この黒幕さんは俺に探偵の真似事をお望みのようだ。


 俺は脳筋なんだけどなぁ……。


 しかたがない。出来るだけの事はやってみますか。それをしないと、いつまで経ってもカエデの心の裡は分からない。身内に爆弾を抱えるのは御免だ。



「じゃあ、ご希望通りカエデがこの物語の黒幕ってコトから話そうか。疑う起点は村長さんだな。正直な話、あのヒトは統治者として杜撰すぎるんだよ。自警団がどんな状態かを把握していないって所が一番ダメなんだけど、俺との会話の中でもその器じゃないってことが良く分かる。知識をひらけかしてマウントを取ろうとするとか、自分の成果をぺらぺらと喋るとか……つまりは我慢強くなくて承認欲求が強いってところが絶望的に統治者に向いていない。あと、理想に対して成果が全く追いついていないってのも致命的だな。それでも村の統治が曲がりなりにも何とかなっているってのは、優秀なブレーンが居て補っていると考えるのが自然だよ」



 ここ迄でもう、カエデは頭を抱えている。


 台本は良かったのかもしれないが、役者(キャスト)が悪すぎた。こればっかりは運が悪かったとしか言いようがない。実行者としては優秀……とも言えないか、もし村長役が上官殿だったらもう少しうまくやっていただろうって気がする。


 いや、余計な事は抜きにして話を続けよう。



「そうなるとブレーン、すなわち村長を操るのが誰か? 当然それが気になってくる。この舞台に上がっている登場人物で最もリスクを負わない者は誰だ? 最もメリットを得るのは? 筋書きを描ける脚本家がいるとしたら? 一番多く情報を入手できて、村長を通して舞台を操れるものは誰なのか? ……あとは消去法だな。君か、姉のキキョウか、それとも超常力戦隊か、自警団の誰か……で、君を黒幕として仮定すると俺の中では全てがしっくりと来た」



 俺は四本の指を立てて、一つ一つその理由を上げていく。


「一つ目、君と村長がやけに親しい。最初に会ったときに村長と呼ばずに『あの人』と呼んでたよな? やけに慣れている感じに共犯者って匂いがした。特に当主代理に対するスペアって言葉だな。これは村長とカエデしか使っていない」


「二つ目、外部の人間――俺への強い警戒心だ。最初の戦闘の様子からして、君と姉の警戒心の強さの違いは明らかだった。俺に怯えるのはしょうがないにしても、姉と比べて明らかに俺への怯え――警戒が強かった。自分の計画の邪魔になると思ったんだろ? 使えると分かった途端、逃がそうとしないように態度がガラッと変わった事には戸惑った。それを姉と方向性を合わせて『恋』という言葉で誤魔化そうとするのは本当に怖いと思ったよ」


「三つ目、俺の血の効力をして、飼い殺しの輸血装置になるとか、想定が適切過ぎる。これが修羅場をくぐった防衛局員だったら分かるけど、そういう生臭いことは十代の女の子が簡単に思いつく事じゃない。超常力戦隊を造る過程で、経験しているんじゃないかと考えたワケだ。実際のところ、彼らの誕生に絡んでるだろ? 超常力戦隊が使った火炎弾、あまりにも君らの神通力と似過ぎているんだよね。恐らくは死んだ当主の遺体を……いや、コレに関してはもう何も聞かないぞ」


「四つ目、村人への態度がとても厳しい。カズラとの戦闘の後、キキョウも自警団への厳しい意見を言っていたけど、君は守るべき対象なんて居ないかのような言葉を口にした。アレには思い通りに動かない駒への苛立ちを強く感じたよ。それはそのまま支配者たる者の苛立ちに見えた」


 

 全ての指を折り曲げた後、頭を抱えて溜息を吐いているカエデに俺へ対する落胆の色はない。


 どうやら、間違っていないみたいで少し気が楽になった。実は自分でもちょっとどうかなという、こじつけ半分な理由だったので、否定されない事に安堵した。


 無論、そんな感情は表に出さず、堂々と締めの言葉を述べる。



「大きく気になったのはこの四つだな。他にもあるけど、カエデを疑うには十分だった。じゃあ、君がこの物語の脚本を書いた理由は何かって、その先を考察すれば……自ずと最初に言った動機に繋がると、そんな感じだな」



 カエデはぐりぐりと自身のこめかみを指で押さえた後、頬を両手で叩いて、いつもの明るい笑顔になって告げた。



「残念ッ、40点で落第だよ! 状況からの推測だけで証拠は何もなし。そんなんじゃ、及第点はあげられませーん! エンだったら村長さんを尋問するとか手は一杯あるはずでしょ? もっと頑張ってくれないと!」

「……無茶を言わないでくれよ。俺は単なる戦闘バカなんだから、証拠集めなんて探偵の真似事はできないさ。けど、君のその言葉を引き出せたって事で俺の自己採点は100点満点なんだけどな」

「うーんまあ、ねぇ。目的を果たしたっていう意味じゃそうだよ。けど、二つ目だけは私的に零点かな。エンに恋したってのは嘘じゃない。今だって、私はエンにどきどきしている。もう、こんなにも惚れさせて、どうするんだってくらい」



 …………んー? また、宇宙語を聞いた気がする。KOI? HORETA? この銀河系の言葉を使ってくれなきゃ、ボクわかんないよ。



「あはは、いいよ。エンが馬鹿なのは今に始まった事じゃないし、これから教育していってあげる……そして、そうだね。ご明察通り私がこの物語の黒幕だよ! このヨグの村って舞台を仕立てて、とびっきりのプレゼントをお姉ちゃんに……この村全ての命と心中させてあげるつもりだったんだ。けどね、エン。貴方がお姉ちゃんを変えてくれた。悲劇のヒロインぶってたお姉ちゃんに恋を教えてくれた! 生きたいって感情を強くしてくれたから、方針を転換したんだよ。まったくもう、シナリオの書き換えは大変だったんだからね?」

「君にはもうキキョウを害する意思はないと分かったから、辿るはずだった最悪ルートの話は聞かないけどさ……俺の血の事を村長に教えたのも、その方針転換の一つ?」

「そう、一番の秘密を隠したまま幕を下ろしちゃ絶対にダメ。禍根を残さず堂々と戦って勝たないと! 相手はどうでもいいけど、自分に負い目を残すことになるからね。エンなら問題ないと思っていたけど、あんな力づくとは思わなかったよ」



 ヒヤヒヤしたしたんだからね! と笑うカエデには何の逡巡もない。


 予想し尽くし、計算通りにいったことを、当たり前のように述べるその姿に、恐怖さえ感じた。



「君は一体、何者なんだ? 単なる、当主の代理とは思えない」

「んー? 本当に私はお姉ちゃんのスペアだよ。歴代のボンクラ連中よりは少しは頭が回るって自覚はあるけどね。私が凄いと思えたのなら、それはエンの世界が狭いだけ。私の恋心に全く気付かないとか、まさにそれだよ。もっといい男になってくれないと振っちゃうからねっ!」

   


 それは、あの時の意趣返しか……まあいい、確かに俺は防衛局の中しか知らない世間知らずだ。知識だけは溜め込んで、しかし、このヨグの村では多くの現実との違いを学んだ。記憶が無かったとはいえ、初期の右往左往っぷりは思い出すだけで顔が赤くなる。


 これから進む道には、もっともっと未知の世界が広がっているし、凄い人と会う事になるのだろう。何せ俺は魔女の従者となり、彼女らと共に世界を巡るのだから。


 ヨグの村は、その出発点として俺に色々な事を教えてくれた。



「お嬢様、お手を拝借。そろそろ時間ですので」

「なに? エスコートしてくれるの? ちょっとは気が利くようになったじゃない」



 恋という名の怪物の理解も、とりあえずは出来ることから始めてみるさ。


 次の舞台は魔女の島『ムー』。そこではどんな物語が待っているのやら……少なくとも退屈することはないだろう。




- 第二章ニエモリ 完 -


今回も長らくお付き合い頂き、ありがとうございました。これで二章は完結とします。

いいね! で応援いただいた方、評価頂いた方、ありがとうございました。

よろしければ引き続き評価、感想をお待ちしております。


少し時間を置いて、次は第三章を書くか、別の話を書くか、考え中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ