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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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27話 最終確認


 あの後に聞いた村長の恨み言を簡単にまとめて述べさせてもらうと次のようになる。


 そもそもが俺を武力で制圧することは考えておらず、舌戦でなんとか丸め込んで捕縛するという考えだったらしい。後ろに居た超常力戦隊は、俺の情に訴えかける、若しくは少しでも圧を掛けるためのバックコーラスのようなものだったそうだ。あの日、黒木刀で戦闘力の違いをさんざん見せつけたからさもありなん。


 だというのに、俺が最初から話を聞かない狂戦士状態で、目的としていた血の効力も期間限定と知り、止めとばかりに俺の理解不能なドレスアップと、虹色に輝くヤバイ雰囲気の刀を見て心が完全に折れたらしい。


 俺のやると言ったことに完全同意して、村長は超常力戦隊に身体を抱えられて帰って行った。


 どうも虹色に輝くものにトラウマがあるみたいだ。探索隊で失敗した過去が彼を縛っているのだろう。どれだけ頑張っても届かない象徴のような……それに本物の虹色の枝が癒しの波動を放つのに対して、神魔刀の刀身は俺の意思に同調して破壊の波動を放つので、本能的に恐怖を感じたのかもしれない。


 ともかく、村長を運んで行った二人以外の超常力戦隊には、宿坊に土足で上がり込んだ事による汚れを掃除するように命じ、その日は解散と相成った。



 もうかなり遅い時間となったので、俺と葛城姉妹は寝室に移動している。なお、なぜ同室なのかという疑問は今更のことなので、放置する。


 それにしても……俺の血を吸うヤツが一匹? いや、一刀増えてしまったな。


 上半身裸になった俺の肌を皮一枚に満たないほど薄く切って、そこから滲み出る血に虹色の刀身を押し当てて吸っているみたいだ。血を吸って喜んでいるのか、グネグネと刀身をくねらせているのが蛇みたいで気色悪い。


 戦闘時は折れず曲がらずなんでも切り裂くのに、どうなっているんだか……。


 気になって訪ねても、帰ってくるのは歓喜と満足の全色黄色のイメージだけだ。今回は随分と世話になったし、これからもドラゴンとの戦闘で世話になる予定だから、好きにさせることにした。


 それにコイツが血を吸っている間は、葛城姉妹が怖がって近寄ってこないから少し有難くもある。



「上半身裸でも私は十分妄想ができるからね。いやー、こんな新ジャンルがあったなんてね。眼福眼福、はかどるわ!」

「武器にねとられた……ゆるさない。でも、この心にくるものはなに? 寝とりかえす決意……歯を研いでがんばる」



 ……残念ながら葛城姉妹は、俺の手が届かない八十光年先のフェチ銀河に飛んで行って、エミリア殿と同等のクリーチャーに成り下がってしまった……なんて冗談を言って放置するわけにはいかないか。


 先ほど俺が話したプランBについて、それを成し遂げたにしても失敗しても、俺はこの村からいなくなるのは確定している。前者はこの村でやることがなくなり、後者は地上から消え失せる。


 その後の彼女らの身の振り方は聞いておくべきだろう。それが、ここまで葛城姉妹に関わってしまった者の責任だ。



「? ついていくよ。貴方といっしょにどこまでも。私は貴方に恋をしたっていった。たとえ貴方に別の好きな女がいても、気持ちはかわらない。もっといい女になってふりむかせる。がんばってもそのとき貴方がとなりにいなかったら意味がないから」

「当然のことを……なに? 故郷に戻るとでも思ってたの? 本当にアンタって馬鹿よね。お金がなんとかなっても限界集落にまともな男は残っていないのよ! 化け物だろうがアンタの方が随分マシってわけ。新魔獣ドラゴンだっけ? どんなヤツだろうと、アンタと私達で向かえば無敵じゃない。さっさとそのドラゴンを倒して、この村をおさらばしましょ。そろそろこの村に居るのも長くて飽きてきたしね」



 鳩が豆鉄砲をくらった気持ちというのは、こんな時の気持ちをいうのだろうか?


 恋……ねぇ。


 その心の在り様が気に入らなくて二人を殺しかけ、押しかけて来た村長を戦闘力の差を見せつけて押し返した。そんな事件の後だってのに……同年代の女の子は複雑怪奇だ。


 こんな、いつ死ぬかも分からない戦闘バカのどこがいいんだか。


 そう、どこで死ぬか分からない身の上だから、俺は自立して一人で生きて行ける女が好きだと言った。後追いでもされたら、死んだ自分を絶対に許せないから。


 ただ、一度は断って、それでもなお俺の側に居たいって女を無下にできるほど俺は大人じゃないし、慕われるってことに気分の良さを感じている。


 そして実質的な話、彼女らには虹色の枝が必要で――ワルプルギス機関に所属するしかないって思ってる。虹色の欠片を飲み込んだ俺の血が効いたって事は、虹色の枝の波動も有効ってことだろう。


 前は神通力を使った時だけ魔の浸食が進んだが、今は感情を高ぶらせただけで魔の浸食が現れるようになった。


 そりゃあ、感情の発露も、神通力も封じて生きるって方向もあるかもしれないが、恐らくそれが姉妹の破滅願望を育てた大きな要因じゃないかと思っている。我慢は本当に毒なのだ。俺だって魔獣と一週間戦えなかっただけで、大分精神的に参っていたが、姉妹と命がけで戦ったことで調子を取り戻した。


 だから、魔女二人に事情を話して取り計らってもらおうと思っている。浮気? なんのことやら……ハッハッハ(汗)



 ま、何にしてもだ。葛城姉妹が加勢してくれると言うなら、千人力というヤツだ。恐らく、クラウディアとオクタヴィアもすっ飛んで来るだろうから、あの規模の森におけるドラゴンに負ける要素はない……と思う。


 明日は十分に休養と準備を行い、明後日の夜が本番――ヨグの村の最終章だ。


 村長殿、この国の政府にゃあ、上手い言い訳を考えといてくれよ? 敵に回るなら……勢い余って国盗りを始めちゃうかもしれない……なんてね。


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