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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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25話 決意


 俺が葛城姉妹に向けて放った技。『真一文字』であるが、これは相手の急所へ1mmの狂いもなく全力で、更には相手が気付けば斬られていたというタイミングでぶち込む、文字通りの必殺技である。


 今回は葛城姉妹の後で出したし、対象自体が彼女らの神通力になってしまったが……今回の一刀には神魔刀クロモリの不思議パワーも付加されており、以前の新魔獣ドラゴンとの戦いでは30mはある頭部を難なく切り裂く威力があった。


 何が言いたいかというと、姉妹の最後の攻撃が生半可なものであれば、その攻撃ごと二人を切り裂いていたと言うことだ。


 俺は聖人君子ではない。戦うという事にしか生を実感できない生粋の戦闘バカでしかない。


 しかしだからこそ、戦闘について真摯に向き合うし、それ故に戦闘を経て分かることがある。キキョウとカエデが生きることに必死でなければ――破滅願望を超える生存欲求を持たなければ、彼女らは俺の真一文字で死んでいた。


 だが葛城姉妹は生き残った。彼女たちの神通力は俺の必殺の一刀と互角だったのだ。


 残心状態にある俺の向こう側に、葛城姉妹の強い眼差しがある。疲労困憊しているが、未だ戦意は衰えておらず、今にも襲い掛かってきそうだ。


 己に打ち勝った褒美を上げたい。けど、今回は俺の勝ちにさせてもらう。何せ、お前たちに監禁されるワケにはいかないし、この後、どうしても聞いて欲しいことがあるんでね。


 今度こそ真一文字、そのタイミングだけを用いた手刀で二人の首筋を打ち、意識を刈り取った。


 崩れ落ちた葛城姉妹を両手に抱えると、軽い。魔の浸食によって容貌に竜が混じっているが、同年代の女の子なのだと実感させられる。


 悔し気な、しかし、どことなくやり切った感のある表情に死相はなく……こんなに嬉しいのは久しぶりだ。それこそクロモリで虹色の枝を採取出来た時と同じくらいに。




---




「やったあ! 私たちの勝ね、海パン、半ズボンに、裸ニーソネクタイもいいわね! いいえ、いっそここは禁断の逆バニーも捨てがたいわ。ああああ、長年温めていた夢が、今ここに!」

「こどもをつくろう! そのあとも、ずっとずっと三人でくらすの。大丈夫、私とカエデがやしなってあげるから全部まかせて、貴方は●●●を私達にそそぎこんでくれるだけでいいの!」



 元の袴姿に戻った後、気絶した二人を宿坊に運び、布団に寝かせて起きるのを待っていたら、そんな言葉と共に跳び起きたので、黒木刀で頭をどついて正気に戻らせた。聞き捨てならないヤバイ単語を聞いたが、ここはあえて無視する。精神攻撃に対してはスルーが一番なのだ。


 負けたショックで塞ぎ込むことを心配していたが、これだけ元気なら大丈夫だろう。頭を押さえて呻く二人に溜息を吐く。



「いったーいッ、本気でぶった! ペットにだって抗議する権利はあるわ。お詫びに血を吸わせなさいっ!」

「ずがいこつがへこんだ。しつけるにしてもペットに過剰なぼうりょくはだめ、血を吸わせて」



 俺に打たれたところ押さえながらも、めげずに飛びかかって来る葛城姉妹に、今度は成すがままにさせた。


 またしても聞き捨てならない単語を聞いた気がするが、再びスルーだ。今は神通力を使ったことで魔の浸食が進んでいる。俺の血を吸って元の姿に戻ったら、その精神も元に戻ると信じたいな!


 一心不乱に俺の腕に犬歯を突き立てて血を吸う女に可愛げを感じるなんてとても無理だ。逆に自分へ父性?母性?を感じる。どれだけ美人でも、こんなんでは恋に落ちることは難しい……やはり丁重にお断りさせて頂こう。


 何度目か分からない己の溜息にうんざりしながら、尻尾や鱗が引っ込んでいくのを待つ。そして、ある程度落ちついたところで足を肩にかけて引っぺがした。そうでもしないと無限に血を吸われそうで話が出来ない。


 わりとこれから重要な話をするのだ。文句をぶーぶー言ってくる葛城姉妹を伴い、宿坊の寝室から奥の広間に移動した。



「落ち着いてくれたかな? 流石に三度目は許さんから真面目に聞いてくれ」



 少し声に殺気を込めて言うと、しぶしぶといった感じで正座になった。やはり暴力は全てを解決する偉大なツールだ。黒木刀には感謝しかない。



「さて、どんな形であれ、お前たちは俺に負けた。それは間違いない。だから俺は君たちのものにはならないし、一つだけ言う事を聞いて貰う。いいか?」

「わかっている。私たちは貴方のモノ、すなわちペット。すえながくおねがいします」

「私達その、はじめてだから、いきなり凄いヤツは駄目だよ? なれたら、そういうのにもちょっとだけ興味あるかなー……って」

「……次は本気で神魔刀を抜くからな? 俺はその手の冗談が嫌いなんだ」


 

 黒木刀の鯉口を切って黙らせる。仏の顔も三度までっていう、その仏さんがどんなヒトかは分からないが、随分と我慢強いお人よ。


 自分をペットとして売り込んでくるとか、どの口が恋などとほざいたのか。俺の純情を弄びやがって……やっぱりさっきぶった切っていればよかったかな、いや、今からでも遅くはない……。


 そんな悪魔の囁きに耳を貸しそうになったが、エミリア殿の似非お嬢様姿を思い出してなんとか心を鎮静させた。筋肉白ワンピースショタコンお嬢様……なんて罪深いジャンルなのか。おかげで頭が一気に冷えて助かったぜ。



「これから言う俺の話をまず聞いて、それでも側に居たいかどうかを自分で決めるんだ。俺が言ったからとかそういうのはナシだ。自分の足で歩いて、方向が一緒なら共に戦って、逆にダメならぶつかり合う。自立して平等な目線で語り合える、そんな女が俺は好きなんだよ。悪いが今のお前たちにそれがあるとは思えない。さっきの決闘で勝った俺がお前たちに願う事はな、俺を惚れさせるくらい、いい女になって欲しい。それだけだ」

「「…………」」



 俺も全くのにぶちんではないから、葛城姉妹のこの態度が俺に置いてきぼりにされることを恐れての発言であることは薄々分かっている。しかし、それならそうとちゃんと言うべきだろう。今回は助け舟として俺の嗜好を伝えたが、次からは茶化さずにちゃんと自分の意思を伝えて欲しいものである。



 そして、要らぬ茶番に時間を使ってしまったせいで、招かざるお客さんが到着してしまった。


 宿坊の中だというのに、土足でづかづか上がり込み、この場に現れたのは村長だった。


 もうそれなりに遅い時間だと言うに、相変わらずフットワークが軽い。ご自慢の超常力戦隊も連れて準備万端というところかな?



「やあ、エン君。しばらくだ。先ほどの騒ぎを聞いて飛んできたよ。まったく困ったものだ、君の一挙手投足に村の皆が注目しているのだからね。いっそこの社の御神体に祀られてみないかね?」

「俺みたいな俗欲の塊にカミサマは無理ですよ。お騒がせしてすみませんでした。しかし、ちょうど良かった。葛城姉妹には、これからとても大事な話をしようと思っていまして。是非、村長さんにも聞いて欲しかったんですよ」

「ほう……それは一体何かな? 場合よっては、君を……殺さなければならない」



 ああ、ようやく貴方も覚悟を決めてくれたのか。ならば俺も命を懸けてこの言葉を紡ごう。



「ニエモリの頭脳体――新魔獣ドラゴンを殺して、ニエモリを消す。それを是非、貴方がたに見守って貰いたい。邪魔をするなら誰であろうとも斬る。例えそれが村長、貴方であっても、そして葛城姉妹であったとしてもだ。決行は明後日の新月の夜。俺を止めたいというのなら、命がけで来い!」



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