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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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24話 葛城姉妹



「さて、この決闘における勝者の権利は明確だ。負けた相手に一つだけ言う事を聞かせられる、いいかな? そして、ルールは……」

「相手に負けを認めさせること。そして、そのためには何をしてもいい。お互いが賞品なんだから命まではとらないけど、腕の一本や二本、焦げることくらいは覚悟してよね」

「だいじょうぶ。一生かんごしてあげるから……どこにも行けないよう、りょうあしをもぐ?のが、いいかも」

「…………分かってくれているなら結構。しかし、俺が本気でやったら数秒でケリがつく。開始から10秒間だけ、俺からは攻撃しないようにするよ。負けたくないなら、その間に俺を倒しきることをお勧めする」

「馬鹿にして……いいわよ、やってやろうじゃない! お姉ちゃん、最初からあれをやるよ」

「おっけー、私も怒った。なかせてやいて食べてあげる。だいじょうぶ、●●●だけは残して生でいただくから」

「あ、ずるよ、お姉ちゃん。そういうことなら私にも残しておいてよね!」

「…………じゃあ、今から開始って事で、いいかな?」



 俺達は拝殿を横にルールを、そしてその心意気を確かめ合う。


 なんかもう、何処ぞの蛇姫にも劣らない姉妹の倒錯っぷりに怖気が走る。この、清楚な顔の裏から蛇が出て来た感じ――まさしく伝説のそれだ。元からその資質は持っていそうだったが、タガが外れて本性が出て来たのか? 勢い余って焼き殺された挙句に喰われそうな雰囲気だ。


 さて、そちらがその気なら、俺も一切の手加減はできない。


 黒木刀の柄と本体を掴んで鞘走らせれば、そこに現れたるは虹色の刀身――神魔刀クロモリだ。相変わらず趣味が悪い刀身ではあるが、今はその輝きを頼もしく思う。



 ん? 文句をいうなって? ……それはそうだな、力を貸して貰うってのに悪かったよ。もっと頼れって……そんなグネグネうねってアピールされても気持ち悪いだけだっての。お前がその状態になると余波でキョジンの巨体も、ドラゴンの頭さえ斬っちゃうから使いずらいんだよな、勢い余って味方まで殺しちまう。うん? じゃあ、せめて鞘を体に纏えってか……いや、確かにあれは有難くはあるんだけど、見た目が変態っぽくてなぁ……あいたっ! 悪かったよ、そう怒るなって。お詫びに……裸になれ!? そうじゃないと全身を包めない? 仕方ないな……おいおい、下着もかよ。



 あー、すまない。


 さっきからの独り言は、神魔刀から送られてきたイメージ画像に返事をしているのであって、頭がおかしくなったのではない。だから葛城姉妹、俺を可哀そうな目で見るのは止めてくれ。


 まぁ、そうは言っても端から見たらやべーヤツに違いないから、弁解のしようもないんだが。


 あと、これからすることは純然たる戦いの準備であって、ストリーキングになりたいワケではないから、そこんとこよろしく。無理、かな?



「ちょ、え、なになに……急に服を脱ぎだして何のつもりよ! 戦う前に婚前交渉ってワケ!? ダメダメ、駄目よそれ以上は! 乙女の前でなにしてくれるのよっ、犯されたいの? 犯されたいのね!? 上等よ、喜んでやってあげるわ!」

「じゅるり……いい、すごくいいいいいいい…………あともうすこし、あそれっ、もうすこし! たぎってきましたっ、あいうえおーッ!!」



 ……葛城姉妹の情緒崩壊がすごい。


 どっちも、血を吸って引っ込んでたはずの尻尾を再び生やし、上下左右にブンブンと振って凄いことになっている。


 俺の裸にこんな需要があるとは……もし、アブドミナルアンドサイとかやったら、どうなるんだろう。見てみたいな。あいてっ、調子に乗って悪かったって。ほら、お望み通り、裸になったぞ。これでいいか?


 神魔刀の腹で頭を小突かれながらも全裸になると、それを待っていたかのように鞘がばらけて布状になった。そしてぐるぐると下から上まで巻き付いて……インナースーツのようになる。あの時は上半身だけだったが、今回は一回り大きくなった分、下半身も覆ってくれたようだ。


 しかし……やっぱり、戦場でこの恰好は変態っぽいな。次回のバージョンアップに期待しよう。



「さて、待たせてしまったな。こちらの準備は整った。そっちの準備は……良いみたいだな」

「「………………ふしゃー……」」



 ダメだ、完全に理性を失ってしまったようだ。もう、ヒトの目をしていない。あれはそう……交尾を終えた雄蟷螂を捕食する、雌蟷螂の目だ――!



 そんな暴走状態の葛城姉妹の周囲に火の玉が作られる。数はおよそ百と、驚く事に数だけならクラウディアのそれを上回る。


 その火炎弾幕が、キキョウとカエデの指が指し示すまま襲い掛かって来る。


 あの飽和攻撃、握っているのが黒木刀のままであれば、十二神将・帳でも厳しいだろう。上等だ、このために神魔刀の力を借りたんだ。まずはこの、デタラメな一撃で目を覚まさせてやる。


 放った一振りは、単なる横なぎの一刀だ。

 

 精密でも、特別に力を込めたわけでもなく、タイミングも甘く、速度さえもない。素振りにも満たないその無造作な一薙ぎは、しかし迫り来る火炎弾弾幕を根こそぎ搔き消した。



 一瞬の静寂がその場を支配する。



「どうした、まだ10秒経っていないぞ。お前たちの力はこんなものか? 手加減は不要だと伝えただろうに」

「「…………!!」」



 姉妹が何かを叫ぶと、再び火炎弾幕が……今度は二百を超えるんじゃないか? だが、質が同じなら二振りすれば問題ない。さて――


 神魔刀を再び振ろうとして、嫌な予感がした。


 咄嗟に左腕を頭上に掲げた直後、真上から真下に凄まじい衝撃が通り抜ける。



「あーあ、もう威勢がいいのは分かってたけどね、流石にこれには黙るしかないんじゃない?」

「カエデのぜんりょく、いかずち。そこへ私の火の玉をぶちこむ。これが私たちの合体奥義、ヒノカグツチだよ」



 姉妹の声と共に全方位から迫る火炎弾。


 前にカズラを消滅させた時よりも密度が高く、それはまるで溶岩の海だ。雷で動きを止められた後、これを受けた敵は逃げることも断末魔を叫ぶ暇もなく焼き崩れるだろう。


 これが、姉妹の本気。以前にも見た必勝の陣。しかし――ここまでは全くの予想通りだ。



「嘘、私たち本気が……」

「ありえ、ない」



 全くの無傷で煙の中から姿を顕した俺に葛城姉妹が驚愕する。


 確かに並の敵なら間違いなく消し炭になっていただろうさ。そして、俺もコイツを纏う前ならヤバかったかもしれない。けれど、この黒木刀の衣――黒羽衣とでも呼ぶか? これを纏った時点であの攻撃による勝利はなくなった。


 決闘はもう始まっていたのに、呑気に俺の準備を見送って……裸になる前に攻撃していればその目もあったのに、やはり勝負勘というヤツがこの姉妹には欠けている。


 戦いの素人にそれを求めるのは酷かもしれないが、己の煩悩にも負けていたようだし、自業自得というヤツだ。それに対して、俺は一度見た技に対抗策を練らないほど、馬鹿じゃなかった。



「さ、10秒が過ぎたぞ。俺の番だ……今から放つのは『真一文字』、手加減なしの必殺技だ。これは確実にお前たち二人を両断する。抵抗できないのなら負けるしかないが……最後にもう少し足掻いてみるかい?」



 そんな俺の挑発に対し、カエデは青ざめて……キキョウは怒りで顔を真っ赤に染めた。


 怒れ怒れ……怒りこそが死の恐怖を克服し、生きる活力を与える一番の感情だ。その全力で、己が破滅願望を裏返えさせろ! 竜神様の末裔というのなら、真なる荒魂を解き放て!!



「カエデ、もう一度いくよ。お願いだから力をふり絞って! 私は私の選んだ雄に、失望されたくない!!」

「そっか……そうだね、ようやく本音を――ありがとう、お姉ちゃん」



 俺が神魔刀を横持ちに構えたのに対し、姉妹は手を取り合い、その手を突き出した構えを取る。



「大サービスだ。次の初手はお前たちに譲ろう。そのまま俺を倒せたら君たちの勝ち。けれどその一撃を切り裂けたら俺の勝ちだ。さぁ、魂を込めた一撃を期待するぞぅ」

「前口上はもう十分、飽き飽きよ。アンタのわざとおどけたその態度もね!」

「私たちは貴方に勝って、貴方をモノにする」



 葛城姉妹の今までにない力の高まりに、心から安堵する。


 彼女たちの将来を決める決闘にしては短いけれども、消化不良な感はない。次が最後の一撃だ。願わくはこの一刀がキキョウとカエデの未来を切り開く事を願う。



「天の逆鉾を解き放つ」「高千穂の大蛇よ、おいでませ!」

「……真一文字、クロモリ」



 竜神様って言ったら火とか雷もそうだけど、やっぱり水のカミサマだよな。襲い掛かって来る大瀑布に、俺は渾身の一刀を叩き込んだ。


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