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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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20話 超常力戦隊


 村で聴取を終えた後はまっすぐ社へ帰った。


 無論、三時間が経過する前で、葛城姉妹が凄く不満そうな表情をしていたし、なんでもっと早く帰って来なかったんだと言ってきたが、黙殺した。


 俺が海で求めるのは白いワンピースに麦わら帽子のお嬢様なのだ。変な趣味を持った吸血鬼ではない。


 少しでも俺に好意があるというのなら、すぐに御神木へ吊るした縄を仕舞って欲しい。


 大体それって拝殿とかの注連縄に使うヤツじゃないのか? ここに祀られているのは何のカミサマだか知らないが、神聖な装飾用の縄をハードコア?的な用途に使われたらさぞや吃驚するだろう。本気で天罰が当たりそうだ。


 さて、早めの昼食を済ませ、夕飯の下ごしらえを済ませた後は、今日の夜に備えての仮眠だ。


 満月は過ぎたとは云え、新月はおろか、半月にもなっていない現在、まだまだ魔獣が出て来るだろう。それに村長と約束した手前、いや、俺の矜持に掛けて、二度もカズラに不覚を取るわけにはいかない。


 なお、相変わらず俺の腕を拘束しようとする葛城姉妹を止めるのは諦めた。ただ、寝てる間に血を吸ったらもう二度と飯は作ってやらないと脅したら神妙な表情になったので、抑止出来たと信じたい。




---




 さて、仮眠を終え、食事を摂るなどして準備を整えた俺達は再び戦場へ向かう。


 神主殿――キキョウは昨日に元に戻った素顔を晒したためか、今日も般若面を被っておらず、全身黒タイツもなしだ。姉妹揃ってひらひらして赤い線の入った巫女服を着用し、薙刀を構える姿は実に凛々しい。


 これで、血を吸ったり、神通力で脅したりしてくることが無ければ引く手数多の美人姉妹なんだけどなぁと、遠い目にならざるを得ない。特にキキョウは外見だけで言えば俺の嗜好のど真ん中なわけで、実に残念だ……あ、なんか影法師の一人に思いっきり殴られた気がしたぞ。記憶の中の影法師二人の記憶はいつ戻るのやら。



「ふおんな空気をかんじる」

「そうね、泥棒猫がエンを奪いに来る、そんな予感があるわ」

「気の所為じゃない? 俺は何にも感じないんだけど……」



 俺と葛城姉妹がわちゃわちゃとやり取りをしながら松明のある場所まで来ると、そこには珍しく村長が居て、更には六人の同じ服を着た男女が居た。いずれも二十歳を超えないだろう俺達よりは少し上の年代で、その中には先日に俺を村長の元へ案内した秘書さんも居てキツイ視線を向けて来ている。


 どうやら、彼女らが超常力戦隊ジンツウリキンのようだ。



「すまない。君の案だけがやはり却下させてもらったよ、部下から凄く反発されてね。ダサくて嫌だと言われてしまった。しかし、超常力戦隊の名だけは守ったから勘弁して欲しい」



 ……俺は別に適当な名前を口走っただけなので、思い入れも無くどうでもよかったのだが、彼らには要らぬ心労を掛けてしまったようで申し訳なく思う。謝るので、そんなに睨まないで頂きたい。


 

「昨日のカズラ討伐後から今まで、魔獣の出現はありましたか?」

「いいや……あれ一体を生み出すのに力を使い果たしたのかもしれん。もしそうであるなら、魔獣を生み出すのに月光を十分に浴びる必要がある。出て来るのは今日の夜、これからだろうさ」



 どうやら、村長はニエモリの正体が神魔獣ドラゴンである事を知っているらしい。そして、魔獣が何であるかもわかっているようだ。いや、『魔獣の森の管理者』と言っていたから当然か……。


 村長のバックにはその知識を備える組織――この国の政府がある。それを再確認して気が引き締まる思いだ。何せ、この村を村長から解放するという事は、この国の政府に喧嘩を売ると同意義なのだから。


 だが、それについては横に置こう。今はやるべきことがある。



「ほう、いいのかね? 昼間は随分と情報収集に歩き回っていたようだが?」

「別に構いませんよ、大体は予想通りでした。今は目の前の魔獣に集中することにします」

「負け惜しみにしか聞こえんね。私のシステムの完璧さを理解して、早く軍門に下ってくれるといいのだが」



 !? ……いやいやまてまて。昼間に分隊長から話を聞いた限りでは、村の維持が難しい感じなんだが……もしかして、周りにイエスマンしかいなくて、都合のいい目と耳しか持てなくなってしまっているのか?


 自警団の維持が難しくなっているのは昨日見た通りだし、思った以上にヤバイ状態なのかもしれないぞ……自覚のない統治者とか最悪なんだが。


 心の中で戦慄していると、いつもの悪人顔で村長が言う。



「さて、今日は折角だから、私の戦闘部隊の活躍を見て貰おうじゃないか。神主殿、巫女殿、昨日のような手出しは不要だ。君たちの力を模して作った彼らの神通力をとくとご覧あれ。ああ、ちょうど良いところに、魔獣が森から出て来たな。1号から6号、お前たちの力を彼らに見せつけてやるがいい」



 ニエモリの方を見れば、数匹の魔獣が出て来たところだった。

 

 遠目で見るに、ゲキドの背中にアギトが載っている。どうやらあの形に落ち着いたようだ。逆パターンは全く意味が無かったが、あれは本当に思考錯誤していたんだと思う。魔獣――ドラゴンが試行錯誤とか洒落にならないんだが……この重要性、村長はわかっているよな? 先ほどの言動から、怪しく思えて来たんだが……。


 そんな俺の視線には気づかず、村長は自信ありげに超常力戦隊を見ている。


 その超常力戦隊は松明のある場所で横一列に並び、迫りくる魔獣に対して、火炎弾を発射した。結構な速度で飛んだ火炎はゲキドにぶつかるや、燃え上がり、上に載ったアギトもろとも黒焦げに焼き殺した。


 まるでキキョウの火炎弾、その焼直しだ。威力もほぼ同等と言っていいだろう。



「前はかげんしていた。いまはもっとすごいの出せる」

「浸食が怖かったからね。比べるなら、あの化け物に使ったやつとでお願い」



 いや、それは彼女らも同じだろう。力を使えば使うほど浸食されるって縛りがなくなったら、どうなるか分からない。どうやって村長はあんな戦隊を作ったのか……敵に回ったら厄介な事になりそうだ。



「はは、どうかね。中々のものだろう? 放っておけば、護衛隊や伐採隊で無駄に命を落としていた彼らだ。見たまえ、彼らの顔を! 私は魔獣に殺される恐怖から彼らを救い、逆に蹂躙する悦びを教えてやったのだッ、それに死ぬ時だってその選択は彼らのものだ。魔獣に食われる悍ましさに比べれば天と地ほど違うだろうさ! 今はまだ少ないがね、実績を重ね続けて、私はこの地に防衛局に替わる地獄、いや天国を作ってみせる! 君に私を超える大義が、そして、より良き仕組みがあると言うのならっ、喜んで今の地位を譲ろうじゃないか!」

「……彼ら元防衛局員にとってはこの地が天獄か。たしかに、今はそうかもしれません。環境は比較にならないほど改善されているから」



 だが、すぐに気づくだろう。


 死ぬまでの時間が伸びた。それは間違いない。しかし、その代わりに得たのは、死ぬまで自由が無い奴隷印と確約された死だ。その証拠に村長は未だ彼女らを番号で呼んでいる。やはり消耗品としてしか見ていない。


 防衛局では、少なくとも上官殿のように出世するって希望もあった。最悪、俺のように防衛局を出るという選択肢があった。例えその先に挫折が、結果として野垂れ死にが待っていたとしても、自らの足で歩いて行けた。


 村長、やはり貴方の作ろうとしているのは新たな地獄でしかない。


 そんな男に、防衛局を変えるべく足掻いている上官殿の邪魔は絶対にさせない。そのために……ヒトがその気になったら此処までやれるって希望を見せつける。



「超常力戦隊の力を見せて頂いた御礼に、俺も一芸をお見せしましょう。ちょうど昨日のリベンジ相手も出て来たようですし」

「あれは……カズラか!? 満月は過ぎているというに今日も出て来るとは……私の部隊で相手をしてもいいが、万が一の事があってはな。本当に君一人であれを何とか出来るのかね? 昨日のように神主殿や巫女殿を頼った方がよいのではないか?」

「ご心配召されるな。あの程度の魔獣であれば、新技を披露するにはちょうどいい相手ですので」

「新技? ……いや、そんな不確かなものに頼るのではなく、確実に屠ってもらいたいのだが」

「お気持ちは分かりますが、ま、大船に乗ったつもりで見ていてください。神主殿、巫女殿、念のために神通力の準備をお願いします」



 葛城姉妹がぶーぶー文句を言ってきたが、俺を信じろと言って黙らせた。あの影法師だったら文句なしに俺を送り出してくれたのに、やはりまだ彼女には及ばないな。


 ――さ、心配している皆を黙らせよう。今から使う技は、恐らくは俺が放てる最大威力を持つもので、それには『気』を用いる。



~~~(以下、読み飛ばし推奨)

 俺の中で『気』というヤツは不思議パワーではなく、純然たる身体操作で得られる力であり、コレの有無が以前に述べたこともある素人と達人の違いの一つと考えているが……前に述べた『精密さ』と違い、個人的解釈がありすぎるモノなので、此処で述べるのはあくまで俺の解釈と考えて欲しい。

 気の構成要素の一つが『瞬発力』だ。

 瞬発力を単純に説明するなら、筋肉を弛緩したところから引き絞る事で得る力で、それは出来る限り短時間で行う事で大きくなる。例えば拳を遅く突き出すのと早く拳を突き出すのとでは、後者の方が圧倒的に破壊力があるのは分かって頂けると思う。平たく言えば運動エネルギーの高密度化、それを極限まで行う身体操作が『気』を使う要件の一つだ。

 さて、俺の場合はこの筋肉収縮の極限化に二つの要素を加える。その一つは『呼吸』だ。

 呼吸については割と一般的で――分かりやすい例を言えば、身体の動作と発声を合わせることで通常以上の力を発揮するってヤツだ。これはアスリートや格闘技者は普通にやっている事だろう。ストレッチの時の掛け声なんてもの大枠で見ればこれに入る。声を出せばその分、体を曲げられるアレだ。これも平たく言えば、無意識に行っている呼吸運動を意識して他の運動と同調させる――目的の為に身体運動を一本化することを指す。

 俺は更にそこへ『心臓の鼓動』を加える。通常時には1秒に1回以上、戦闘時には最大で1秒に3回くらいは自律鼓動するそれに、呼吸と筋肉の収縮を合わせるのだ。

 どこかで見たような回数が出てきたと思う。そう、俺の十二神将は一呼吸で三回の剣閃を放つ技であるが、その三という数はここから来ている。それを超えると果ては絶息してしまうから抑えているともいえる。

 話がずれてしまったが、戦闘時における心拍数をベースに、呼吸の周期、更には筋肉の収縮速度を合わせた結果にできるモノ。それを俺は『気』と呼んでいる。二つまででもそれなりに力を発揮できるが、三つ合わさった時は桁が違う。

~~~



 説明が長くなったが、今からその実例をお見せしよう。


 古くからある論争――『気を用いた有効な攻撃』そして『剣による遠距離攻撃』に対する俺の回答だ。


 『気』を用いるには、とにかく体の調律――心臓の鼓動と呼吸を合わせるのに時間が掛かるので、実戦で使うのには難がある。伝説にいう仙人とかだったら話は別かもしれないが、俺はまだ仙人になれるほど修練を積んでいない。近距離ではどうあっても調律が間に合わないのだ。


 じゃあ……相手に気付かれない、若しくは攻撃が間に合わない遠距離で調律して、最大出力をぶち込めばいいじゃない。


 そんな発想から生まれたのが、ルート・トワイスが試技――黒流星。


 簡単に言ってしまえば『気』を活用した黒木刀の最大投擲だ。真空波なんて知らん、出来るかあんなもん。



「フゥー…………ハァ………………………いッ、けぇ!!」



 約一分間の調律を経て放ったその一撃は、放物線を描かずに真っすぐ飛んで、森から出ようとしていたカズラの本体とその奥にある中枢神経をごっそり貫き、仕留めた。


 黒木刀を放ってすぐにもの凄い音がしたから、もしかしたら音の壁を突破していたかもしれない……いや、それは流石にないか。とにかく活動を停止しているのは間違いないので目的は果たせたといえる。ただ――



「ちょっと加減を間違えて、カズラの体液をぶちまけちゃいました。超常力戦隊か葛城姉妹かのどちらかで燃やし尽してくれますと大変有難いのですが……」

「「「…………………」」」



 全員が俺の技を見て固まっている。


 まいったな、放っておくとカズラの死骸に小型魔獣が寄って来て祭りが始まるんだが……俺がやるしかないか。投げた黒木刀もいつの間にか腰に戻っているし、準備は問題ない。


 昨日は暴れたりなかったし、夜通し殺戮祭と行きますか。


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遠距離剣技(物理)
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