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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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19話 聴取


 先ほどの動悸の回復を待ってから歩き出す。十代の青少年にとっては縄だの鞭だの刺激が強すぎるのだ。俺は戦闘面に全能力を振っているので、ああいった駆け引きは本当にキツイ。


 さて、一人でヨグの村を歩くのは実は初めてではないだろうか? 初日は自警団の男に連れてこられたし、社に向かった時には村長が、そして他の場所へ移動する時には葛城姉妹が居た。


 他の時間はずっと戦っているばかりで……いや、寝て喰っている時間は勿論あったが。


 しかし、初めての海だというのに、じっくりと海を見ることがなくてちょっと残念に思っていたのだ。不本意な海水浴はさせてもらったが、あれは無効だろう。三時間以内に戻ればいいので、時間があるならちょっとは見て回りたい。


 普通の十代だったら、あそこに広がるような浜辺で同年代の友人や恋人とキャッキャウフフをしてたんだろうなと思うと悲しくなる。孤児院のある時期までは俺にもそんな未来があるかもとの期待はあったが、実際には血と汗、樹液と魔獣汁に溢れた地獄しかなかったわけだが。


 ああ、それにしてもなんかカラスが多いな。それだけは折角の海なのに凄く不満だ。


 恐らくは岸に打ち上げられた魚を拾いにきているんだろうが、鳴き声からして癇に障る。なにせアイツらは死んだ仲間の屍を啄もうとするわ、木々を伐採したり戦っていたりするときに糞を落としてくるわで、防衛局員に凄く嫌われており、俺も例に漏れない。今考えるとその大多数はクロモリに捕食されていたわけで、ちょっとは可哀そうに……やっぱ無理だ、栄養になって森の拡大の一因になってたんじゃねーか。やはりどうあっても好きにはなれないな。


 そんな益体も無いことを考えながら歩いていたら、いつの間にか港付近にまで来ていて、村の様子を観察し忘れた事を残念に思う。まぁ、帰り道に観察すればいいんだけど、刻限までに時間が無ければ走る事になる。


 あの姉妹は気軽に犬歯を突き立てて血を吸ってくるが、ホント痛いんだよ? 魔の浸食を治す為に吸うならともかく、嗜好品扱いで吸われるのは勘弁だ。


 そういった意味で恋愛感情が入る余地は全くない。姉妹の方も食料扱いだろうし、さっきのアレだって己が知的欲求を満たすための体よい相手という意味で言ってきたに違いないのだ。じゃなければ今の時点でもっと淫らな関係になっているハズだ!


 自分で言っていて、悲しくなってきたな……。


 海と言えば白いワンピースに麦わら帽子のお嬢様という謎のイメージが何時からか刷り込まれているのだが、どこかに文通から付き合ってくれる清楚なお姉様は居ないモノか……もう淫獣とか勘違いは沢山なんだよ!



 訃ゥー……さて、俺の感傷なんてどうでもいい。今必要なのは情報だ。


 バカな事を考えている間に、いつもの自警団詰め所まで来ていた。


 用があるのはその先のニエモリへと続く道に居るだろう、見張りをしている自警団員なのだが……おお、ちょうど良いことに俺をこの村に案内してくれた分隊長が居るじゃないか! 彼には魔獣を代わりに倒してやった借りもあるし、話を聞きやすい。ようやく運が向いてきたようでとてもうれしい。


 彼に向って歩を進めると、分隊長の方も気づいたようだ。だが、俺とは違って随分と変な表情を作った後、脱兎のごとく逃げだした。


 おいおい酷いじゃないか。クロモリの死神が出向いてやったというのに、一体どこへ行こうというのかね? こういう時はあれだな、ちょうど材料が揃っている。


 俺はその辺に堕ちていた小石を拾うと、上空を飛んでいるカラスに狙いを定めて投石した。


 石は狙い違わずカラスに当たり、脳震盪でも起こしたのか落下する。無論、そこには分隊長がいて、突如として急落してきたカラスに足を止められ、すっ転んだ。


 ちょっと悪いことをしたかなとは思ったものの、俺の顔を見るやいきなり逃げ出すとか、酷いのはお互い様なので勘弁頂きたい。


 そして、役割を果たしたカラスが慌てた様に羽ばたいて空に帰っていく。


 普段は魔獣を殺しまくっているが、命の尊さは知っているつもりだ。気に入らない連中ではあるが、食べるでもない命を刈るほど俺は落ちぶれてはいない。かといって利用したことになんの痛痒も感じてはいないが。



「なんだよアンタ、獣使いだったのかよ! お、俺に何の用だ!?」

「まぁ、そう怒らないでくださいよ、聞きたいことがあるだけだ。貴方には貸しもあるはずだが? いやいや、そんな大それた事を聞こうってんじゃあない。なんか村長に言われたら、俺に脅されたって言ってもいいよ。俺から口添えしてもいい」

「その時点で、ヤバイ話だって言ってるのと同じじゃねーか! 俺は嫌だぞ、何も喋らん!」

「はぁ、残念だなぁ。俺としては穏便に話をしたいのに……その様子だと尋問にシフトアップするしかないじゃないか。神主殿と巫女殿にじっくり血を吸われるコース、裸にされた挙句に縄で吊り下げられて鞭で叩かれるコース、神通力の実験台になるコース……どれがお好みかな? ああ、やっぱり俺と普通にお話をするというのも選べるが」

「てめぇ…………クソ、一択しかねぇじゃんかよ。わかった……なんでオレは、コイツを村に連れてきちまったんだ……」



 素直になってくれてうれしい。やはりイニシアチブを取るには相手が一番恐れているものを口に出すのが一番だな。会話のかけ引きとか、村長とのそれでお腹一杯なのだから、スマートに物事を進めたいのだ。



「それで、何が聞きたいんだ?」

「いろいろあるけど、見張りの場所へ戻りましょう。魔獣が出てこないか見張りながら話をする方が職務をサボったことにならないし、出てきたら俺が相手するよ」

「…………痛ぇ所を突いて来やがるな。俺達はもう、カズラだっけか? あんな化け物、見るだけでイヤだっつぅのに。そんなだから、さぼるヤツが多くてよ。あんなんが出るようになっちまったらなぁ……この辺が手の引き時ってやつなのかもしれねぇな」



 それそれ、その辺の事が知りたいのだ。元より脆いものかと思っていたが、文字通り砂上の楼閣であれば、村を村長から解放するのは容易くなるだろう。


 ぶちぶち文句を言う分隊長を適当になだめながら、ヨグの村に関わる情報を聞き出す事にした。




---




 さて、むさ苦しい壮年男との対談について詳細を述べた所で誰も幸せにならないから、その結果を記載したメモだけを此処に示すだけに留めよう。


 本当ならこの情報の裏付けを取るために幾人かの自警団に同じことを聞きたいところだけれど、思った以上に俺は恐れられているらしく、とにかく逃げ惑うから面倒くさくなって諦めた。何処に行っても嫌われるよね。


 葛城姉妹に聞いてもある程度は信ぴょう性を保証できるだろうから、そうすることにした。



Q:ニエモリはいつから存在するのか?

A:15年ほど前。それまでは何もない出島で、観光名所でもあったが、いつの間にか黒い森が出来ていた。


Q:魔獣が出始めたのはいつごろか。魔獣に怯えている状態で生活は成り立っているのか?

A:5年ほど前。それまでは普通の漁村だった。魔獣に怯えながら漁をするのは難しい。今やほとんどの村人が自警団で、生活の糧である給与もそこから出ている。しぶとく漁業を行っている村人もいる。


Q:村長が最初に此処に来たのはいつ頃? また、村長という役職を得た時期は?

A:島に黒い森が出来て間もなく。当初は調査員としてこの村に来ていたが、魔獣が出てくるようになってから、その統率力を買われて自警団長になり、魔獣の死骸を売るルートも持っていることから4年ほど前に村長へ推されて今に至る。


Q:超常の力を持つ神主のようなヒトはいつから来たのか?

A:2年ほど前。それまでは月に1匹から2匹程度だったが、凄く増えてきて村を捨てるかどうかを考えていた時に、村長が何処からか連れて来た。短くて半年、最長一年というサイクルで神主は替わっている。付き人も含めて、全員が十代くらいの若い女なのは不明。嫁にと狙っていたのもいたんだが、故郷に帰っちまって残念だ。

C:テメーの都合なんぞ知ったこっちゃねェ。いい歳こいて十代に欲情してんじゃねーぞ。しかも結婚だと? 神が許しても俺が許さん!

C:何でアンタがそんなに怒るんだよ、閉鎖的な村ってのは嫁不足が深刻なんだぞ?

C:防衛局も……いや、やめとこう。泣きたくなる。

C:もうすでに泣いてるじゃねーか。世知辛ぇのは何処も一緒か……。


Q:……ぶっちゃけ、今の生活に不満は?

A:出来る事なら元の漁師に戻りたい。けど、あの黒い森があるせいで無理だとは分かっている。だがあんな化け物まで出て来て、最悪はこの村のから逃げるしかないと思っている。アンタも含めて変なヤツも増えて来たし。


Q:その変なヤツとは?

A:村長の秘書とか、詰め所で常勤してる事務員。神主が来るのと同時期に増えだした。詳細は不明。



 ……他にも色々と聞いたけど、これからの行動を決めるに必要な情報は以上かな。


 凄くマッチポンプの匂いがするが……流石にドラゴンの株分けとかはヒトの手に余ると思いたい。そこまでやっていたら完全にアウトだし、腐ってはいないと信じたい。ただまぁ、ほほ予想通りというか、裏取りもいらないレベルだな。


 やる事はほぼ決まった。


 あとは必要な戦力をどう確保するかだけど……あの時みたいに期限が切られている訳でもないし、ゆっくり考えるか。


 思ったより話を聞くのに時間がかかったし、まずは葛城姉妹の逆鱗に触れる前に社へとっとと戻るとしよう。観光はまたの機会だな、残念……。


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