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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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7話 品定め


 村長を胡散臭く思う俺の心境を読んだワケではないだろうが、急にまじめな顔になって俺に頭を下げた。温度差が激しくて風邪を引きそうだ。



「礼を言わせてもらおう。村の危機的状況を救ってくれて感謝している」

「……この村に滞在すると決めたんだ、その場所がなくなっちゃ困るから、これくらいのことはする。それよりも逃げてった自警団を呼び戻してくれ。何せ暗くて討ち漏らしがあるかもしれない。神主殿も病院に行ってもらわないといけないだろうし、この場に一人は手に余る」

「ああ、わかっている。秘書や事務員に走り回ってもらっているよ。敵前逃亡とは……訓練をやり直さなければなるまい、想像以上に使えない連中だ。代表としてお詫び申し上げる」



 最初からいなかったアンタよりはマシかもしれないが……という文句は飲み込んだ。余計な軋轢は、疲弊している精神には辛い。



「悪いが、魔獣に対抗できる村の最大戦力――神主殿が倒れてしまったからには、君に頼らざるを得ない。早急に対策を練るから、朝まで此処の防衛をお願いできないかな? もちろん礼は十分にさせてもらう」

「礼は不要だ、世話になっている村を守るのは当然の事だし、記憶喪失の身では礼とやらの使い道も思いつかない。それよりも神主殿に手当を。限界以上に神通力を使って倒れた彼女こそ報酬を受け取って然るべきだ」



 神主殿は未だカエデ殿の腕の中にあって、意識を取り戻せていない。俺の血を舐めて何故か容体が落ち着いたようだが、あの苦しみようは普通じゃなかった。絶対に医者へ見せた方がいい。



「無論、神主殿には手厚い手当をさせてもらうがね……欲のない男だな君は。フム、こちらとしては村を守ってくれるのなら何でもいい。巫女殿、神主殿をいつもの場所へ運んでくれるか。ああ、そう睨まないでほしい、普通の医者では彼女を治せないのでね」



 守ると言った手前、彼女たちを危険な目に合わせる訳にはいかない。大丈夫か? という意を込めてカエデ殿を見ると、彼女は無言で頷いた。村長はいつもの場所と言っていたし、神主殿のケアに常時用いている場所なのだろう。カエデ殿も問題ないというのなら俺が口を出す理由はない。心配ではあるが俺は万能ではないので、出来る限り自分の身は自分で守って貰いたい。


 カエデ殿は気を失っている神主殿を背負うと、俺達に黙礼して村の方へ歩いて行った。



 この場に残っているのは俺と村長だけだ。俺は座って、そして村長は立ったままニエモリの方を睨む。


 幸い、今のところは第二波が出て来る様子はない。手持無沙汰になったが、俺からは村長に聞く話はない。これまでに得た情報を整理整頓するのに精いっぱいだ。


 逆に沈黙に耐えられなくなったのか、村長が口を開く。



「本当に礼――魔獣討伐の報酬はいらないのかね?」

「ああ、今の俺に必要なのは無くした記憶。そして、今を生き抜くための糧だ。衣食住を提供して貰っている状況でこれ以上は貰いすぎだし、手に余る」

「……それは君の持つ戦闘力、そして実績に見合った報酬ではないと思うんだがね。実際、この周りにある魔獣の死骸をある場所に持っていけば、軽く豪邸が建つだろうさ……昔、私がいた場所であれば、富も名声も権力だって思いのままだったろうな。君は若いのにそういった欲望はないのか?」

「さて……」



 記憶がない今、自分の体の奥底から欲するものを改めて探ってみるが……出て来るのは、もっと暴れたいという戦闘民族じみた欲求と……ああなるほど、そんな戦闘狂の俺を怖がらないで欲しいという矛盾した願いだけだ。あとは腹いっぱい飯を食いたいとか、暖かい寝床で寝たいという当たり前なものしかなく、権力とか崇拝を得たいとかは発想すらない。女の子と仲良くしたいって欲求すら無いのは我ながら枯れすぎてないかと思うが、本当に何でだ? 他に探っても出て来るのは……守るべき人を守りたい、そんな細やかで当たり前な欲求しかない。



「言えないのかな? ……まぁ、村と、そして私の役に立ってくれれば構わないがね。しかし、報酬が不要となると、君の気まぐれで居なくなったり、突然、敵に回ったりと、そんな心配をしてしまうのだよ。村の長としてリスクヘッジはしておかなければならない」

「じゃあ、自警団のこのありさまは何だと言いたくなるんだけどな……まあいい、安心してくれ。存分に暴れられるこの舞台から降りる気はない。そして当面は魔獣だけで手一杯だ。しかし、それが魔獣だけになるかは貴方達次第だ。世話になっているからな、俺も村長さんが敵にならない事を祈るよ。さ、そろそろお客さんが来るみたいだ、村長さんは戦えるのか? 見たところ、相当に鍛えているようだけど……」



 俄にニエモリの方が騒がしい。恐らくは第二波だろう。立ち上がって黒木刀を軽く握る。



「はは、それなりに腕に覚えはあるが、ケガでもしたら村の運営に支障をきたす。化け物の相手は――化け物に任せるよ。出来るだけ綺麗に死骸を残してくれるとありがたい。村の防衛費増強に繋がるのでね」

「やっぱり人使いが荒いな……魔獣対策の件、早急に頼む。俺だって人間なんだから眠らなきゃ倒れる。無理だと判断したら勝手に離れるかもしれないからな? 早く自警団員を呼び戻してくれないと酷いことになるかもしれないぜ」

「わかっている。では、後は任せるよ。よろしく頼む」



 そう言って村長は足早に退散していった。この場に残るは俺一人だ。

 

 フン、さっきは周囲にヒトの目があって、随分と抑えた運動をさせられたが……ようやく遠慮なく暴れることができる。まだかまだかと吼える体を抑えるのは大変だったんだぞ? お前らには責任を取って貰わないとな!


 明らかに第一波よりも多い襲い掛かって来た魔獣の群れに、俺は記憶にある対集団剣技――十二神将を解き放った。


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