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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第二章 ニエモリ
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4話 村の長


 俺の不審そうな表情を読み取ったのか、男が薄笑いを浮かべながら言葉を続ける。



「おや、歓迎を信じられないのかね? 君には本当に感謝しているのだよ、何せ綺麗に形が残った状態のゲキド二匹を提供してくれたのだからね。君は知らないかもしれないが魔獣の死骸は金になる。こんな何もない田舎では目が飛び出るような価値を持つのだ。それも死骸が綺麗であるほど価値が高まる。君がやったアレは両断されてはいるが、素晴らしい状態だったと報告を受けていてね……あぁ、済まない、私がこのヨグの村の村長と自警団の団長を兼ねる者だ。名は……まぁ君は興味がなさそうだから名乗らなくてもいいか。村長でも団長でも好きに呼べばいい、どちらも私しかいないからな。君の事はエンと呼ばせてもらうがね」



 よく喋る男だ……正直なところ俺はヒトの名前を覚えるのが苦手なので、その申し出はありがたい。どうせ記憶が戻る間だけの事であるし。しかしこの男、口では感謝を言っているが何か見下されているようで愉快な気分になれない。



「わかった。貴方の事は村長と呼ばせてもらう。あのよくわからない化け物の死骸が手土産になったようで幸いだ。アレにどれほどの価値があるかは想像もつかないが……」

「フフ、無知とは恐ろしいものだな。まぁ、記憶がないのであれば致し方ないことではあるがね」



 どうやら目の前の男とは仲良く出来そうにない。さっさと要件を済ますことにしよう。そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、村長の方から口を開く。



「さて、少しからかってしまったが、エン君には記憶がない――いわゆる記憶喪失であるとの報告を受けているが、本当かね?」

「ええ、まぁ……帰るべき場所も判らなければ、助けも呼べない。よろしければ記憶が戻るまで世話になりたいが、厄介なようであれば出て行く。その場合は、面倒だと思うが保護してもらえそうな施設を紹介頂きたい」



 初対面なのに厚かましいお願いではある。しかし、俺が倒した魔獣ゲキドの死骸が結構な価値になるようなので吹っ掛けてみた。この程度であればギリギリ不快にならないお願いだと思うのだが、駄目なら引き下がろう。


 村長は俺の依頼に対して顎に手を当てて少し考える仕草をしていたが、顔を上げてこんな事を言ってきた。



「君の記憶が戻るまでこの村に滞在することに問題はない。素行に問題ないことは分隊長から報告を貰っているからね。落ち着いたらこの村の医者を訪ねてみるといい。あぁ、対価はゲキド二匹を譲ってもらったから不要だよ、私から先生には言っておこう。しかしそうだな……記憶が戻るまでの間、君の腕を見込んで是非ともお願いしたいことがあるんだ」

「……とりあえず聞きましょう、それを飲むかどうかは別として。俺もタダ飯喰らいは心苦しいんでね」



 さもありなんと頷く村長に、話を続けるよう促す。



「はは、そう身構えることはないさ。D分隊長から聞いているかもしれないが、この村は特殊な状況に置かれている。満月近くになると海に出張ったニエモリという場所から魔獣が溢れ出すのだ。それらを駆除する専門家的な者がこの村にはいるのだが、最近は溢れ出る魔獣が多すぎて追いついていないのが現状だ。現に討ち漏らしを君に討伐してもらった」

「なるほど、要はその討ち漏らしの討伐を俺に頼みたいと」

「察しが良くて助かるよ。魔獣を対抗するための設備も人員も増強していっている最中でね。この国の政府にも増援を求めているが、被害が出そうになっているにもかかわらず連中の腰は重い。アレと戦える君には是非とも手伝って貰いたいのだ」



 魔獣全部を相手しろと言うのであれば断っていたが、討ち漏らしの相手をしろというのであれば考える余地はある。それがどれだけのモノになるかは分からないので、まずは一度参加して様子を見たい。被害が出そうという話を聞いて放っておけないという気持ちもあるし……それになんというか、魔獣を倒すのがあまりにも俺の中でしっくり来ていて、アイツらと戦っているうちに記憶が戻るかもしれない。


 そんなことを滔々と述べたら、今日の夜から仕事に入って欲しいと頼まれた。


 どうやら今日の夜がちょうど満月らしく、最も魔獣が溢れ出す日とのこと。とは言っても、よそ者の俺がすぐに自警団に入って役に立てるわけもなく、当分は遊撃で活躍して欲しいそうだ。



「人使いの荒いことで」

「フフフ、君にどれほどの価値があるか見定めさせて貰うよ。あぁ、先ほどの話に出た魔獣退治の専門家を紹介しなければな。可能であれば彼女の護衛も請け負って欲しいので顔見せは必須だ。ちょうど私も彼女に用事があってね、これから向かうからついてきたまえ。秘書1号、しばらく留守にするから後を頼む」




---




「名前じゃなく、役職と番号で呼んでいるのか……」

「ん? あぁ、秘書の事かな。ハハ、変わっていると思うだろうな。しかし、私は合理主義者でね、よほど役に立つ者でなければ名前を覚えることはしないのだ。君はゲキドの件でかなり貢献してくれたから名前で呼ぶが、役に立たないようであれば適当な番号に代えさせて貰うことになる」

「…………」

 

 やはり、この男とは仲良くできそうにない。ヒトの事を番号で呼ぶとか、記憶がない俺の体が強い違和感を覚えている。しゃくではあるが魔獣を倒して俺の事を認めさせるしかないだろう。それに意味があるかは分からないが。



 自警団の詰め所を出た俺達は、太陽が落ちて薄暗くなっている中、社を目指して歩いていた。魔獣退治の専門家はあの大きな社の神職のようで、らしいと言えばらしい……のか?


 過去に魔を祓う役割を持つ集団がこの国にはあったと知識にある。その組織の名前は憶えていないが政府公認であったようで、その流れを組んだ神職なのかもしれない。そして話を聞く限りは女性のようで、あの気色悪い魔獣と戦えるのか疑問ではある。いや、これは偏見か。アマゾネスみたいな女性だけの戦闘集団も国外にはあったらしいし……どうもこの体には、男こそが前に出て戦うものという考えが染みついているらしい。


 ほどなくして社に着くと、朱色の大きな鳥居を潜り、石畳の参道を通って立派な拝殿――その横にある宿坊を訪ねた。



「客人を連れて来た。出迎えを頼む!」

「はーい」


 

 村長が玄関で声を張り上げると、奥からぱたぱたと音を立てて年若い女がやって来た。


 白くて所々に赤い線があるひらひらとした服を着ており、歳は十代半ばに見える。先ほど自警団砦の鏡で見た俺とそう歳は変わらないだろう。彼女が専門家なのだろうか? 特にこれと言って強者の雰囲気は無いが……。



「巫女殿、こちらはエン君だ。今日から此処で世話になってもらう予定だ。魔獣討伐を手伝ってくれるようだからな、神主殿を補佐するといった意味では君の同僚というわけだ」

「え? は、はいっ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、とりあえずはエンと呼んでください。突然すみません」



 いや、一緒に住むとか聞いていないんだが、村長の言に合わせて挨拶してしまった。同年代の娘さんがいる場所に同棲しろとか、どういうつもりだ? 巫女殿も戸惑っているじゃないか。


 しかし、そんな事には意も介さず、村長はマイペースに話を進める。



「魔獣の襲撃に備えて可能な限り一緒に居て貰った方がいいからな。さて、件の神主殿にも挨拶を済ませてしまおう。私も彼女には用事があってね、いつもの部屋にいるのかな?」



 戸惑う俺達を置いて、さっさと奥の方へ歩いてく村長に、残された俺達は顔を見合わせた後で続いた。巫女殿の表情には諦観があって、どうやらこれが村長の通常運転らしい。



「いや、本当にすみません。俺もこの展開は予想外でして」

「はい……まあ、いつもの事ですので。ちょうど部屋が空いて余裕は十分にありますので、お泊り頂くのは問題ありません。あの人が言った通り、魔獣討伐を手伝って頂けるなら近くに居てくださった方が助かりますし」



 むぅ、どうやら彼女は俺が一緒に住むということに忌避感はないようだ。この年代の女性はとにかく難しいと知識にあるが……なんだか、俺の知識が偏っているような気がしてきたぞ。本当に俺は今までどんな場所で育ってきたのやら。


 あと、どうやら彼女は魔獣討伐の専門家ではなく、そのサポート要員らしい。まぁ、このひらひらとした恰好で戦うとか言っても絶対止めるから、彼女で無くてよかったとの安堵感がある。


 さて、ずんずんと建屋の中を進んでいく村長についていくと、開けた部屋に行きついた。


 そこには何と、怒り顔で角ある女性の面――般若面をかぶり、白の作務衣とその内側には肌を一切見せない全身黒タイツを着た人物が正座で座っていた。


 その外見があまりにも衝撃的で、その人物に村長がなにやら話しかけているが全く内容が聞き取れない。しかし、挨拶しないというわけにはいかないだろう。村長の話が終わったタイミングで般若面を被ったヒトの前に進み出た。



「あの、今夜から魔獣討伐を補助させて頂きます、エンと申します。併せて今日から此処に住まわせて頂けるようで、よろしくお願い致します」

「…………」



 般若面のヒトは声を出さず、頷くだけで肯定の意を示した。その際に、面の奥にある瞳孔が縦に割れているように見えたのは……気のせいだと思いたい。


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変異した魔女? まさか金のあれ食べて体質がレインボー?
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