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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第一章 クロモリ
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33話 神魔大戦


 それは何と表現したらよいものか。


 熱線? 光の帯、若しくは光の束、いや川か? なんにせよ、エネルギーが可視光線として見えている時点で凄まじい力を秘めているのは確実だ。アレを受けたら塵も残らずこの世から消え去るだろう。まともな生命体が放てるものではない。


 今は薄っすらとした光が、ある程度まで濃くなった時、俺は蒸発するんだろうなって思った。


 避けるのは無理だ、完全にタイミングを逸した。魔女の魔法も間に合わない。あれは発動までにそれなりの溜めが必要で、今迫る光は一秒未満で到達する。そもそもあんな莫大なエネルギーに対抗できるか分からない。


 まぁ、しょうがないか。


 今まで生きる為に魔獣を殺し続け、技を磨くためにも、遊ぶためにも殺してきた。あれでも一個の生命体らしいから、同じく一個の生命体である俺が負けるときに命を差し出すのは当然だ。


 心残りなのは、上官殿とマルローネ殿を守れなかったことだ。俺の真後ろにいる恋人達にはせめて明るい未来をあげたかった。


 そして……クラウディア殿への気持ちが曖昧なままになってしまったことに後悔を。オクタヴィア殿も約束を守れずにすみません。エミリア殿、あの二つ名を防衛局内に広げたことはあの世に行ってもずっと恨みます。


 あぁ、世界に光が広がっていく……。



 ――なんて、完全に死への覚悟を決めていたから、腰にあった黒木刀が勝手に抜け出し、俺達の真正面で大回転して光の奔流を受け止める――


 そんな展開に腰を抜かしてもしょうがないと思うんだ。



 黒木刀は光の奔流を受け止めた後、回転を止め、ゆっくりと俺の方に飛んできて……コツンと頭を叩いた。そして早く立ち上がれとでも言うようにくるりと一回転して柄の方を差し出してきた。


 正直、なにが起こっているのか全くわからない。


 なにせ俺達を蒸発させようとしたドラゴンだって、口を開けたまま唖然としているくらいだ。魔獣のクセに何だかえらく人間っぽいヤツだな?


 しかし、状況がどうであれ、黒木刀のおかげで九死に一生……いや万死に一生を得たのは間違いない。俺を取り殺そうとしていただろうに本当にワケの分からないやつだ、一生感謝してやる。これが終わったら名前を付けてやるか……。


 尻もちを突いていた腰を上げ、黒木刀の柄を握る。そうだな、俺達の任務はまだ終わっていない。



「クラウディア、お前は魔法の用意を、アレを相殺できるかそれ以上のヤツだ、時間は俺が稼ぐ。オクタヴィアは水の魔法で偏向レンズを、アレが熱線であっても蒸発しきらないデカいのを作って皆を守れ。上官殿達は退避を、あぁ、余裕があったらその辺に転がっている黄金の果実を回収してください。ほら、いつまで呆けている、死にたくなければ動け!」

「え、その、貴方様?」「お前……お前って」

「黙れ、犯すぞ!? 後で説明してやるから、今は生きる為に……動け!」


 

 俺が怒鳴ると、皆が弾かれたように動き出した。


 余裕がなくて乱暴な口調になってしまったが勘弁して欲しい。いや、正直なところドラゴンが起きて怒っているのは考えなしにぶっ放した魔法だという確信があるので、扱いをぞんざいにせざるを得ない。


 そもそもの虹色の枝を探索する原因になった魔女も考えなしの馬鹿だったし……アレか、魔女ってのは馬鹿ばっかりか!? 機会があったら精神注入してやらなければなるまい、悪夢に出て来て負かせた後にやったような凄いヤツをだ! ……それもこの戦いに生き残ったらだけど、な。


 俺達と同じタイミングで我に返ったようで、ドラゴンからは先ほどと同じ力の高まりを感じる。こちらの魔法より、あちらの方が速いか。


 少なくとも、次の一撃は俺がなんとかしなければなるまい。


 頭に閃く技は――『十二神将・(とばり)


 連続の剣閃で黒木刀の緞帳を作り、ドラゴンの光を受け止める。この探索で疲れ果てた躰で出来るか? いや、やるんだ。例えこの身が朽ちようとも、惚れたヒトを守るのがようやく自覚した俺の本懐なれば!


 再び放たれた光の奔流は純粋な白で、端から見る分には美しい光なのだろう。しかし、当事者にとっては死後も続く永遠の白。


 その白い光に真っ向から黒木刀を叩きつける。


 確実な手ごたえに、ああ、やっぱり光にも質量があるんだなと感心しながら、必死で木刀を振るう。1秒に3回でギリギリだ。少しでも速度が落ちたり、力加減を間違えたりすれば命を持っていかれる。


 迫る光の奔流に何回剣閃を放ったか分からなくなる頃――ようやく光の圧力が弱まった。


 さっきは黒木刀にふがいない所を見せてしまったが、少しは見直して貰えただろうか? 上着と……左腕が消し飛んでしまったのは大目に見て欲しい。


 限界を超えて肉体を酷使した所為か、体が思うように動かなくて仰向けに倒れる。これは……暫くは立てないだろう。



「ルート、その腕はっ!? ……っこの、私の男になにしてくれるんじゃあ!」

「……れ、おのれおのれ! 畜生ごときがッ、三千世界から消し去って差し上げますわ!!」

 


 ブチ切れた二人の魔女から放たれたのはいずれも戦術級魔法だろう。クラウディアからは黄金の火箭が、オクタヴィアからは白銀の水箭がドラゴンへ向かう。


 ちょっ、用意しろとは言ったが、虹色の枝ごとドラゴンを吹き飛ばすつもりか!?

 

 慌てて頭を抱えた直後、二つの超絶魔法が重なり着弾、いや、再びドラゴンが吐き出した光の奔流とも重なった瞬間、世界から音が消えた。


 幸いだったのは力の殆どが上に向かったことだろう。もし、正面衝突していたら此処にいる全て――少なくとも半径5kmが消滅していたに違いない。


 なんでわかるかって、そりゃ、見上げる何処までも大きな雲がそれくらいあるからだ。ホント感動を呼んだ、なんで生きているんだって意味で。やっぱりあの二人は後でお説教確定だ。


 叩きつけるようなダウンバーストによって、地面に押さえつけられた身体から肋骨が折れる音だけが聞きこえる中、神話に出てきそうな入道雲を見上げ続けた。


 

 ようやく台風最中のような暴風が収まり、立ち上がる。耳も復調したようで鼓膜が破れたと思ったのは勘違いだったようだ。


 エネルギーの大部分が上に行ったとは云え、目前でアレを浴びたからには只では済むまいとドラゴンの方を見ると……案の定、大蛇に似た体は所々引き裂かれており、そこからぴゅーぴゅーと緑色の体液を噴出している。そして、ドラゴンは頭をのけぞらせて目を回していた。


 まぁ、どんだけデカかろうが生物には変わりないから当然だ。逆にあの大爆発の余波を受けて無傷だったら、もうどうしようもない。他の寝ている個体を探すしかないだろう。


 しかし……よく見ると気色悪い速度で再生していっているのは、虹色の枝の効力か、はたまた自前の再生能力か。気絶している間に早く目的のモノを手に入れなければ。


 魔女二人は……遠目で見る限り無事のようだ。気絶しているようだが、見た目に外傷はない。しばらくすれば目を覚ますだろう。


 残った腕で胸を撫で下ろしていたら、森に隠れていた上官殿がおっかなびっくり出て来た。その後ろにはマルローネ殿やエミリア殿も居て全員が無事のようだった。



「……おーい、終わったのか? って、おい、その腕は!?」

「やられました。ああ、血は何故か止まっているんで処置はいらないですよ。それより、アイツが目を回している間に早く虹色の枝を切り取らないと。上官殿は魔女達をお願いします」

「そりゃあ、イイケドよ……後で絶対、治療させろよ。まぁアレを喰えば大抵の傷は治るって話だが……なンで黄金の果実が無造作に転がってンだ?」

「さぁ……この地で生まれたダミンが虹色の枝の波動を受けて進化して……それを邪魔に思ったドラゴンが叩き潰して黄金の果実だけが残った、とかじゃないですかね? キョジンに生えるんじゃなく、それが本来の形なのかも」

「……報告書が大変なことになりそうだぜ……」



 上官殿が魔女達へ向かうのを見送り、俺は目を回しているドラゴンへ歩み寄る。


 改めて見るとデカい。大魔獣キョジンも大きかったが、ドラゴンはそれ以上だ。頭だけでキョジンくらいの大きさはあるし、胴体を含めたら防衛局の砦の端から端まであるんじゃないだろうか? よくこんなのと戦って生き残れたものだ。


 虹色の枝は……この、大木から分かれて生えている枝みたいなヤツを切り取ればいいだろう。しかし、片手で行けるか? あの大爆発でも無傷な部位を…………あぁそうか、虹色の枝の癒しは俺にも効果があるんだな、忘れてた。


 なくなった左腕が、骨、血管、筋組織、腱、皮膚の順に凄い勢いで再生していく。探索で蓄積した疲労さえも溶けて消えていくようだ。これが……虹色の枝の効力、確かにこれは凄まじい。今なら胡散臭いと思っていた不老の効果も納得できる。


 そして両手が揃った今なら、あの技を出せるだろう。


 一刀十文字。


 必殺技である真一文字を切断点で重ねるという今の俺に出来る最高の技は、甲高い音を立てて虹色の枝を切り裂いた。


 魔女殿は1m程度と言っていたが、足りないと困るからその倍の2mくらいを頂戴した。ついでに切断した際に出たいくつかの破片も頂いておくが……これはまぁ採取者特権だ。


 それなら、もっと多くの枝をと思うかもしれないが、過ぎたるものは及ばざるが如しだ。一般人の手にコイツは余る。どう考えたって厄介事のネタにしかならないだろう。無論、上官殿達が拾った黄金の果実も秘密にするしかない。

 

 さて、後の事を考えるのはこれくらいにしよう。今は早くこの場から退散しなくては。


 切り取った虹色の枝を手に、駆け足で上官殿達の下へ向かう。既に魔女二人も気絶から復帰し、それぞれのお付の騎士に支えられながらも、気丈に立っていた。


 

「お二人ともご無事で、早速ですがコイツの検分をお願いします。駄目ならもう一度アレを切らねばなりませんので」

「「………………」」

「あの、クラウディア殿? オクタヴィア殿も、頭抱えて俯いていないでお願いします」

「…………ハァ、まぁよい。お主が手に持つ虹色の枝の効力は確かだ。この身を侵食していた器官の後退を感じた。本部に在った枝より遥かに強大な波動は切り取って間もない所為か……詳しくは測定してみなければわからんが、30年は保つこと確実だろうよ」

(わたくし)も、効力を確認しましたわ。本部にて虹色の枝を管理する私が保証しましょう、素晴らしき状態であると。おめでとうございます!」



 ああ、よかった。虹色の枝から放たれる波動で皆の疲労が回復していっているようだから問題ないとは思ったが、その確証の言葉が欲しかったんだ。これでもう後は帰るだけだ。


 ――最後に、アイツを叩きのめして。


 同じく気絶から回復したドラゴンが、そのプライドを傷つけられたのか怒りの咆哮を上げる。それと共に周囲に生まれたのは魔獣の進化種か。


 アギトが、ゲキドが、そして、カズラ、ダミン、トンビ、果てはキョジンまでもが従来からより凶悪な姿となって立ち上がる。まさに夢のオールスターってわけだ。


 しかしなぁ……忘れちゃいないか、神魔獣ドラゴンさんよ。


 こちらには魔法を撃ち放題になったエレメント階位の魔女が二人もいることを。そして、お前の光の奔流――ブレスを真正面から受けて生き残り、今まさに絶好調になった俺の存在を。


 そんな高揚した気分で黒木刀を握ると、ピキッという、殻が割れるような音が響いた。


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