20話 戦闘見学
流石に俺への負担が偏り過ぎているし、二人にもヤブ漕ぎの経験をとのことで、現在は配役を交代している。
上官殿が槍を持って先行し、その背後をマルローネ殿が剣でもって援護、そこから少し離れて俺が投石でもって二人を援護すると共に魔女殿を護衛する……そんな布陣だ。ちなみに魔女殿は探索隊全体を見渡して全体をフォロー、及び共通の荷物を運ぶ係だ。
この布陣についても今のところは上手く機能している。
上官殿は器用に槍を使って草を薙ぎ払い、行く手を阻む木々や蔦を叩き切る。そして襲ってきたアギトについても落ち着いて突き殺すことが出来ており、損耗率が激高の護衛隊を生き残ってきたのは伊達ではない安定した槍捌きを見せてくれている。
マルローネ殿は、上官殿が切り開いた道を更に広げ、槍では咄嗟に取り回しがきかない側面から襲ってきたアギトを容赦無く斬り殺している。魔女殿の騎士を長く務めているのか、論理的かつ荒々しい剣技は隙なく上官殿を守護できており、援護はこうやってするのかと学ぶべきことが多い。
彼女を見ていると以前に魔女殿が俺の護衛を酷評したのは当然だと思う。ついでに、防衛局にいらん子判定を受けた事にも納得してしまい、凄く落ち込んだ。
ともあれ、この二人の連携に付入る隙は無く楽をさせて貰っている。
「ふむ、良いではないか。やはり私の見立て通りよな、好待遇を用意して是非とも引き入れねば」
と、上官殿の槍捌きには魔女殿もご満悦だ。正直、俺と組んでいるよりも活き活きとしているように見えて少し悔しい。
任務のキツさは今の方がずっと上だと思うんだが、ここ数日で目の下のクマも徐々に改善されてきており……自分がどれだけ上官殿に負担を掛けていたのかを考えると心が痛い。
今まで俺の所為で大変な負担を掛けてしまっていたことがよく分かったので、このチャンスを是非とも掴み取って頂きたいものだと思う。
そんな感じで今までの自分を顧みていると、上官殿達の更に前方10mほどに今まで倒してきたアギトよりもかなり大きな魔獣が現れた。
イノシシより3回りは大きな体躯に、イソギンチャク?の頭を持った魔獣、ゲキドだ。
獲物を見つけると何が何でも突進して轢殺しながら獲物を食いちぎり、その後もとにかく直進して走り去るという比較的単細胞な習性を持っており、しかしそれだけ突進力に特化しているためか、分厚い砦の外壁に穴をあける力を持っている。
なお、突進する前に頭を振って、それによって頭に生えた細い触手が荒れ狂う頭髪のように見える事から激怒という名称を付けられたと聞く。
ちなみにその細い触手は突撃の際の衝撃を和らげるために生えているらしく、カズラのように蠢かせて個別に襲ってくることはないようだ。俺としては、あのデカく開いたままの丸い口と、頭部に隙間なく生えた長細い触手が気持ち悪くて、カズラの次に近寄りたくない魔獣だったりする。あと、触手の生え際というか分け目?へ正確に木刀をぶち込まないと真っ二つにできないのが面倒くさい上、切り倒したら切り倒したで、体液の臭さがアギトの比ではない。
ちょっと前の防衛戦の時はアイツらの集団突撃で砦に穴をあけられ、その穴からアギトが雪崩れ込んで来て酷いことになった。護衛隊の仇敵がアギトなら、ゲキドを仇敵と見るのは防衛隊と工兵隊だろう。
とにかく、そんな厄介な魔獣が一匹、今まさに襲い掛かって来ようと頭の触手を振り立たせている。流石にアギトに襲われた時のように見ているだけではいられないと思い、投石のフォームに入ろうとしたら魔女殿に止められた。
「あの二人に任せよ、あの程度の魔獣一匹に後れを取るようなマリーとコウではない。お主は他の魔獣の増援に備えるのだ」
……たしかに魔女殿言う通りだ。脳内シミュレーションではゲキドに後れを取る未来は思い浮かばない。俺の今の役割は二人の援護であり、戦っている際に他の魔獣から二人を守るのが妥当であると勘が告げている。
果たして、突進してきたゲキドを直前で左右に避けると、まずは上官殿がその大きな体躯にズブリと槍を突き立てた。そして反対側からはマルローネ殿が真上から剣を振り下ろして背骨を断ち切る。剣は肉の壁に遮られて振り切れなかったが、その流れ出す体液の量からすると致命傷だ。
最後に数歩だけ歩き、頭の触手を全てしおらせた後、ゲキドは倒れた。見事に魔獣を討ち取った二人は歩み寄って、拳を軽く打ち付け合う。
あ、それって俺もいつかはやりたかったヤツだ、とは思ったものの迷惑を掛けまくった俺が今更上官殿を相手にできる仕草ではない。いつか、あの仕草をし合える相手が見つかるんだろうか? 今の戦闘スタイルを変えない限り無理か?
そんな悩みを抱えながらも探索は続く。これより先は探索記録がない区域だ、気を引き締めないと。




