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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第一章 クロモリ
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14話 単独探索


 数日後、俺は独りクロモリの中にいた。


 俺は今、魔女殿と共に練った探索計画、その前提となった探査記録がどれほど正確であるかの実地検証を行っている。


 なんでこんなことになっているのかは十分に説明してもらったし、納得もしている。けど……割当ての偏りが酷くないかな。


 愚痴めいたことを考えながら、俺は魔獣――カズラが伸ばしてきた触手の先端を斬り飛ばした。


 諦めずに次々と触手を伸ばしてくるその様は蛇の集団を思わせる。アレにひと噛みでもされたら全身麻痺となり、穴という穴に触手を突っ込まれて身体の中から食い荒らされるわ苗床にされるわで、最悪の未来が待っている……らしい。そのウツボカズラに似た巨大な本体は大きく膨らんでおり、すでに虜囚となった魔獣が居るのだろう。もう十分に食餌がいるのだから、見逃して欲しいのだけれども、本当に魔獣は欲求に忠実だ。


 次々に襲い掛かってくる触手を順番に斬り落としているが、赤やら青やら白やら、体液がカラフルなのは何なのか? あと、とにかく全部臭い。


 ウツボカズラに似た本体に数十本の触手が生えたような体躯は見ているだけで吐き気を及ぼすほど醜くく、触手の先端なんて名状しがたきアレな形をしている。造形のカミサマに喧嘩を売っているしか思えない、見ているだけで精神的苦痛を覚えるのがこの魔獣――『カズラ』なのだ。


 生息数はアギトやゲキドに比べると少ない方ではあるが、巨大な体躯をしており、なにより攻撃手段が凶悪だ。記録によると、コイツに遭遇した探索隊は中隊規模の精兵であっても瓦解、敗走したなんてことがあるらしい。


 ただ、あんなでも生物には間違いなく、斬れば痛がるし、体液を流せばその分弱っていく。


 そろそろ頃合いだろう。


 俺は最後の触手を黒木刀で切り落とすと、そのまま接近して本体に切っ先を突き立てた。足を掛けて黒木刀を引っこ抜くと、急いでその場から退避する。数瞬後、爆発的に飛び散る破片や体液を躱しながら、一目散に逃げだした。あの臭い体液には周辺の魔獣を引き寄せる力があり、また、催淫剤の効果があるらしく、巻き込まれたら堪らない。


 戦いの推移を見守っていた魔獣の気配がカズラの残骸に集まってくのを感じながら、俺は疾く走った。




---




「これでC区域の確認は終わり、と……思ったより記録が正確で助かるな」



 誰も聞いてはいないが、口に出すことで仕事が進んでいることを改めて認識する。手に持ったメモ帳に探索記録が間違っていないことを書き込んだ後、次はどの区域を確かめるか思考を巡らせた。


 一口に森といっても、起伏があったり、川があったり、草が多いとか木々が乱立しているとか、クロモリの地形は複雑だ。人工的な植林ではなく、天然の樹海を想像して貰えばよいだろう。また、魔獣の生息域にも偏りがあり、比較的安全な場所がある反面、立ち入ったら確実に命を落とすであろう魔獣が群れ成す場所がある。


 魔女殿の探知魔法で、虹色の枝がある方角がなんとなく分かるとは云え、考えなしに直進して魔獣が群れ成す危険区域に足を踏み入れれば、いくら魔女殿の魔法があっても命が足りない。


 そんなわけで可能な限り戦闘は避けつつ、楽な道を往くというコンセプトの下に踏破計画を立てているのだが……そもそもの前提条件が間違っていては絵に描いた餅だ。


 探索記録があったのはクロモリの裾から約10kmぐらいまでであるが、あるとなしでは天と地ほどに隔たりがある。俺達には三か月しか時間がなく、魔女殿のコンディションを考えれば更に時間は限られているのだ。


 例えば先ほどのカズラに連続遭遇すれば結構な消耗を強いられ撤退する羽目になるだろう。一回の撤退がそのまま任務失敗に繋がる可能性は十分にある。



「それにしても人使いが荒い。もしこの段階で俺が死んだらどうするんだろう?」



 上弦の半月が近い現在、魔女殿の魔法は制限されている。上官殿とマルローネ殿、そして俺の3人である程度護衛が出来ることは示したが、アレを丸一日続けろと言われたら無理だし、魔女殿の魔法が必要な場面は必ずあるだろう。お荷物を背負うぐらいなら、足が速いお前だけで実地検証した方がいいと送り出されたのだ。


 合理的ではあるが……前例のない単独探索は想像以上に気力を消耗する。背中を預けられる仲間――上官殿には随分と助けられていたのだと、改めて思い知った。次は是非ともこの地獄を共に味わって頂かねばと、暗い想像をして嗤っていると不意に周囲が陰った。



「あぁ、これは、うん……俺一人で来て正解だったわ」



 突如として目の前にそそり立った巨大な肉壁には、無数の口と牙が在った。


 茶色く、その凸凹した様相はまるで油揚げで、それが何で『トンビ』と呼ばれているか全くわからない――鳥の鳶とは似ても似つかない大食いの魔獣が、ゆっくりと俺の方へ倒れこんでくる。


 走馬燈がグルグルと脳内を駆け巡るのを邪魔に感じながら、俺は全速力で逃げ出した。


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