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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第一章 クロモリ
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13話 真実の愛


「さて、虹色に輝く枝が必要な理由を話したが、何か質問はあるか? 魔女の秘密を知ったのだから遠慮はいらんが、時間は限られているから、よく考えて質問するように」



 多くの疑問を抱かざるを得ない情報量だった。聞きたいことは山ほどあるが、三か月という短い間で任務を達成しなければならず、恐らくは今日くらいしか時間を取れないだろう。この後、探索計画を練る時間も必要だし、任務に必要な最低限の質問をしないと。


 そう思って頭に浮かんだ疑問を吟味していると、先に上官殿の手が挙がった。



「クラウディア殿、探索の期間が三か月とされてますが、クロモリは広大です。探索状況によっては、その期間を延ばさざるを得ないかと。実のところ期間延長は可能なのですか?」

「ふむ、もっともな疑問だ。しかし、延長は許されん。魔女の中に変質が進んでいる者がいてな、あと保って四か月とされておる。実績から予想した期限である故、少し余裕をもって期限を設けた。変質による苦痛はかなりなものであるし、早く届けてやりたいという想いもある。探索計画はこの後、過去の探索記録を用いて入念に練ろうではないか。其方らのアドバイスに期待するぞ」

「は、承知しました。しかし、三か月厳守ですか……先日も聞きましたが、なかなかに厳しい期限ですね」

「私たちとて、このようなギリギリの事態は想定外だったのだっ! あんのアーパーメンヘラ女の所為でワルプルギス機関は大混乱よ! 聞くか!? 聞きたいな? よーし、聞かせてやろうではないか!」



 あ、これ、駄目なヤツだ。漏らしたら消されるって情報が増えるぞコレ。


 咄嗟に指で耳に栓をしようとしたら上官殿に両腕を掴まれた。


 上官殿がした質問を呼び水に魔女殿が喋りだしたんだから、地獄にはアンタだけが行ってくださいよ! え、一蓮托生? うぎゃー、話が始まっちゃうぅぅっ!?


 わちゃわちゃする俺達を尻目に、魔女殿はどんよりとした目で話し出す。



「虹色の枝は魔獣の森から離れたら徐々に効力をなくしていく。目に見えて輝きの光量が減衰して行くし、効果も比例的に落ちていくからな、それはもう厳密に光量を計測する部屋で厳重に保管していたのだ。それをあの新米のクソ女が魔女特権を理由に持ち出したのよ! 魔女の変質はさっき言った通りだが、魔力を生み出す箇所がアレな故、魔女であるうちは子を成す事ができん。しかし、それを根本から治す方法があってな、それは虹色の枝の欠片を飲み込むことだ。枝の効力は減衰するし、儀式後は魔女の力を失う故、それは永くにわたって功績を重ね続けた者にのみ与えられる栄誉なのだが……あのアホは、好きな男の為に魔女はやめますぅ、とか言って虹色の枝を粉々に砕きおったのだ! 欠片だけでは効果があるか分からんとか、粉末にした方が飲みやすいとか抜かして全部消費しよった……なーにが真実の愛を見つけただっ、我らは見たくもない真性の馬鹿を見せつけられたわ!」



 ぅーわ、なんだそれ、聞きたくなかったなぁ。


 その新米魔女がやらかした尻ぬぐいが、この任務ってわけか? か、体から力が抜けていく。上官殿なんて両手で顔を覆って、な、泣いているんじゃないかアレ、分別のある大の男が。


 マルローネ殿もその綺麗な顔を崩してまさしく驚愕している。どうやら彼女も初めて聞く話だったらしい。



「元々、枝の効力は後3年ほどまで減衰しておったのでな、近く探索を行う計画はあったのだ。しかし、期限が短い理由は先ほど述べた通りよ、納得したか? ちなみにそのアホは、誑かした男ともども物理的に首ちょんぱとなった。魔女のままであれば使い道もあったかもしれんが、ただのアホ女を生かしておく理由はどこにもない。残った体はどこぞの研究所で切り刻まれておるだろうよ。その辺は同情………………やっぱりできんな、うん」

「……魔女が暴走したら、被害者は数千人では済まないでしょうし……魔女が在籍するワルプルギス機関というンですかい? 組織の評価を地に落とす行為からすっと同情の余地はありませンね。理由はともかく、三か月の期限は分かりました……」



 ヒトの命が安い防衛局内でそんなことをしたら死ぬ前にどんな辱めを受けていたんだろうな……というか、それって別組織からの工作って事はないだろうか。魔女の在籍数は軍事力の序列にそのまま反映されるとか聞いた覚えがある。魔女の力頼りを好まない国や組織があってもおかしくはないだろう。



「そうであれば、どれほど救われたか……徹底的に洗ったが、答えは……アホ女がしでかした、だ。疲れたから、この件について話すのは終わりだ。しかし、聞いて貰ってすっきりしたよ、ありがとう」



 満面の笑顔で告げる魔女殿の顔に陰りはない。しかし、対する俺達のモチベーションは最低だ。少なくともこの後の探索計画でよい材料が無ければ回復しないだろう。


 あ、そうだ、良い材料で思い出した。俺も聞きたいことがあったんだった。



「あの、この後の探索計画でも話があると思いますが、クラウディア殿の力は探索に使えるのですか? それによって計画が大きく違ってくると思いますが」

「そうだな。護衛として、そこは気になるところだろう。安心して欲しい、探索で一番重要となるだろう探知の魔法を私は使える。使えるからこの任務に抜擢されたといっても過言ではない。半径五百m以内に虹色の枝があれば確実に分かるし、範囲外でも方角くらいは分かる」

「そ、それでは、今も虹色の枝がある方角が分かるのですか!?」

「まあな、かなり離れている故、ぼんやりとでしかないが。それでもこのクロモリに在るのは確実だ。それはこの地に来た当日に確かめてある」



 それは凄い! めちゃくちゃ明るいニュースだ。


 在るかどうかも判らない虹色の枝を求め、魔獣がひしめくクロモリを無作為に探索するのが何よりも恐れていた状況だった。それが確実にあることも判って、しかもある程度の方角まで分かるなんて……暗雲から希望の光が差した気分だ。



「そっちは良い材料だが、悪い材料も話しておこう。私の、いや魔女全体に言えることだが、その性質から月齢に大きく影響を受けるのだ。私のベストコンディションは下弦の半月で、上弦の半月時が最も悪くなる。つまり、満月を超えた今は減衰期と思ってくれていい。力が弱まった時に無理に力を使えば魔人化が一気に進んでしまうのでな、今から新月を超えるまでは出来るだけ力を使いたくないのだ。その条件を踏まえた上で、探索計画を一緒に考えて貰いたい」



 なるほど、月齢によってコンディションが変わるから、護衛となる人材を吟味したんだな。


 よし、期限が三か月な理由を聞いたときはどん底な気分だったが、制限付きでもいいニュースを聞いてやる気が復活してきた。上官殿の出世の為にも頑張ろうじゃないか。


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