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エレメンタルキャリバー  作者: 山本
第一章 クロモリ
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12話 探索理由


黒木刀を的にした魔法射撃訓練?の翌日――



「今日は予定を変更して探索目的と計画の概要説明、そして探索計画の詳細を練る時間としよう! せっかくの活動期なのだから実戦訓練を行いたいところなのだがな、全ては大人の事情だ。黙って従え!」



 いや、どう考えても昨日の件で怒られたからでしょう。実質、謹慎ですよね、コレ。


 そんな突っ込みを入れたくなったが、また我らのボスに癇癪を起されるのは勘弁だ。この部屋まで燃やされたら、いくら魔女が政治的に強大な力を持っていようが防衛局に居場所がなくなる。


 しかし、都合のよい言葉で強引に誤魔化そうとするのは如何なものか……段々とこのヒトの性格が分かってきたぞぅ。



 あの後――流石にこの地を管理する防衛局には大爆発を起こした理由を説明しない訳にもいかず、魔女殿は局長室へ連行されていった。応接室で待機していた俺達の下に帰ってきたときには結構やつれた感じだったので、かなり絞られたらしい。


 正直、クロモリの裾部分を吹き飛ばしてくれたのはありがたい。命を賭けて木々の伐採を行っている伐採隊や彼らの護衛が主任務である護衛隊からは賛辞の声が止まらないと聞く。しかし、連続爆発によって砦の外壁がかなり破損したらしいし、外壁を補修していた整備隊やパトロールを行っていた防衛隊には爆風による人的被害があったようで、此方からは恐怖と共に非難の声が上がっている。


 やるにしたって事前に連絡していれば何のお咎めもなっただろうに。俺の黒木刀破壊に熱中するあまり、他の事に気が回らなくなるとか指揮官としてどうなんだろう。


 ふとマルローネ殿の見やると菩薩の表情になっている……どうやらよくある事らしい。上官殿、転職はよく吟味した方がいいですよ。


 まぁ、そもそもなぜ虹色の枝を必要とするか聞いていないし、探索計画を練る時間は必要だ。どうせ謹慎で外に出られないのなら、その時間を有効に使おうという魔女殿の方針に異を唱える理由はない。



「ところでルート君。これが終わったら君のソレを貸してほしい。今度は別属性の魔法攻撃をだな、」

「ダメです、局長に言いつけますよ。明日も外に出られなくなりますが、いいんですか?」

「うぐっ!」



 ちょっとは反省してほしい。なんでそんなにコレの破壊にこだわるんだか。



「クラウディア様が言い負かされるなんて初めて見ました」

「アイツ、妙にコチラの弱みを突いてくるのが上手いンだわ。マリーも気を付けねェと、いいように使われるぞ」

「……心に留めておくわ。コウも苦労していたのね」



 当たり前のことを言ったのに酷い言われようだ。それにしても貴方達やっぱり距離が近くないですかね?




---




「さて、お主らも気になっていただろう本作戦の目標である虹色に輝く枝の確保について、その必要性を話そうと思う。質問があれば後でまとめてするように」



 改めて魔女殿から本作戦の目的について説明を受ける。


 まず、虹色の枝であるが、クロモリの深部にあるのは間違いないとのこと。どうやらクロモリ以外にもこの世界には魔獣が生息する地域があって、いずれも大きな森を形成しているらしい。そしてある程度の規模で、森の形成から経過時間が百年を超える場所には必ず虹色の枝があるらしく、クロモリは条件を満たしているとのこと。他の条件を満たす場所については、他の魔女が確保に動いているそうだ。


 生まれてこの方、クロモリ防衛局という狭い世界で生きてきた俺には衝撃の事実だ。


 こんな過酷な体験をしているのが自分たちだけでないことに謎の安心感……いや、まだ見ぬ誰かにシンパシーを覚えた。そして、その反面、こんなにも人が多く死ぬ場所が他にもあるとか、国の継続に支障をきたすんじゃないかと不安を覚える。


 それほどまでに、虹色の枝とは重要なモノなのか? なぜ、魔女の火力で森自体を焼き払わないのか? ……疑問は多い。



「そうか。此処で得られる禁断の果実がどれほど貴重なものか、君たちは知らなかったのだな。アレを手にしたことでヒトという種は病から、ケガによる死から解放されたのだよ。なにせマイクログラムの単位から効果があるのだからな。あれ一つで国家予算並みの価値がある。多大な犠牲を払ってもアレを求める者が後を絶たない理由がわかったか? そして、ここで回収される魔獣にも多くの使い道がある。それは素材世界の救世主と呼ばれているくらい特異なものでね、用途は多すぎるから此処で語るのは止すが。そんな宝の山を焼き払うなんてこと、この国の政府は……いや何処の国の権力者だって考えもしないだろうさ」

「そンな……オレ達の人生は、死ンでいったアイツらは、わけわかんねぇ誰かの利益に使われたってのかよっ!?」

「そうだ。ヒトの命は時に高く、そして安くなる。その有用さで変動するものなのさ。防衛局で生きてきたお主たちは人命もまたコストだとよくわかっている筈だ。だからこそコウは出世を望むのではないか?」



 堪らず立ち上がって吼えた上官殿が、続く魔女殿の言葉に力を失って項垂れた。


 自らが無意味な番号じゃないことを示すために出世を望むのは、このシステムを受け入れたのと同じとでも言いたいのだろう。その意識が全く無かったとは言えないだろうが……。



「上官殿は自分の為だけに出世を望む男ではありません。より、仲間を助けるために上に行こうとしている。それは、ずっと一緒だった自分がよく知っています。独り善がりなだけの人間なら、こんなに胃を痛めることはない」

「…………なるほどな、やはりお主は面白い」


 

 応接室の誰もが俺を注視する中、魔女殿がクスリと微笑んだことで緊張が解けた。


 上官殿、お願いですから、誰だコイツみたいな視線を向けるのはやめて頂きたい。短い付き合いですが、貴方が自分の利益だけの為に出世したいと思うような人間ではない事は、先の防衛戦で分かったつもりだ。


 自分の頬が熱くなるのを我慢して魔女殿に続きを促す。



「さて、話がずれてしまったが、虹色に輝く枝を求める理由を話そう。それには、まず、我ら魔女のことを話さなければならない。此処で聞いたことは絶対に外部に漏らしてはならないぞ、間違いなく消されるからな」



 緩んでいた空気が引き締まる。


 いくら任務を共にするとは言え、漏らしたら消されるほどの情報を下士官にも満たない俺達が聞いていいものなのか……思いがけず、上官殿と同じタイミングで胃を押さえてしまった。



「魔女は超常的な力を扱えるが、それは無制限ということではない。この世界は質量保存の法則で雁字搦めにされているからな、その法則に則らなければ相応の代償を払わなければならない。ところで、なぜ魔法を使えるのが魔女――女しかいないか、考えたことはあるか?」



 男にあって、女にはないものはすぐに思いつくけど、その逆? 保健の講義で他に習ったことってあったっけか。男が出来なくて、女が出来ることっていえば、子供を産むことだけど……って、まさか!?



「魔女とは、その器官が変質し、生んだ物質をエネルギーに変えられる者をいう。そして魔女とはよく言ったものでな、魔法を使い続ければ変質は進み、いずれは全身が魔に蝕まれ……魔人と化す。魔人と化した魔女はまさに災厄よ。正気を失い、見境なく破壊と死をもたらす存在となる。だから我らは魔人化を治す虹色の枝を求めるのだ。その変質が手遅れにならぬうちに」



 そういって自らの下腹を撫でる魔女殿は、凄絶な笑みを浮かべた。ヒトによっては畏怖を覚えるだろうその笑みは――俺にはとても美しいモノに感じられた。


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それなのに木刀にブチ切れて無駄打ち……
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