プロローグ
栄華を極めたセイレキという文明が地軸逆回転によって徹底的に破壊されてから千年の月日が流れた。
――未だ人類は元の繁栄を取り戻せていない。
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弓状列島の中部に位置する半島にクロモリという魔獣が生息する巨大な森がある。
森に植生する植物が普通よりも深い緑色であること。そして、立ち入った多くのヒトの血を吸ったことが黒森という名前の所以になっている。
なぜヒトはクロモリに立ち入るのか?
森の中でまれに見つかる『銀色の草花』は煎じて飲めば万病を癒し、『黄金の果実』を食せば欠損した肉体すら再生させる効能が確認されている。中でも森の深部で得られる『虹色の枝』は、所持しているだけで前述した効能に加えて不老をもたらすという、全てのヒトが望むであろう禁断の果実だ。それらを求め、多くの人間がクロモリに挑み、散っていく。
そして、多くの血を吸った森は植生域を拡大する。
クロモリは他の森と比べて明らかに成長速度が速く、それはヒトの生息域の侵食に他ならない。単純に平地が減るし、生息する魔獣が餌を求めて出てくる頻度が増える。
それを防ぐために防衛局という組織をヒトは立ち上げた。定期的にクロモリの木々を伐採し、森から出てくる魔獣を処理するのが主な仕事で、禁断の果実を回収する探索者のサポートをも行う。
そんな防衛局の中でも最も危険で過酷な仕事を請け負っているのが、木々の伐採や殺した魔獣の回収をしている仲間を守る『護衛隊』だ。
護衛隊の年間生存率は10%を切る。
野生動物とは比較にならない凶暴な魔獣と常に戦闘をしなければならず、仲間の盾となり、時には囮となって死んでいく。ある意味死を前提とした部隊といえる。
次々と死んでいく者に名前は不要とばかりに護衛隊の構成員は番号で呼ばれ管理されている。例えば仲間に死神や狂戦士と呼ばれ恐れられていた「乙14142号」のように。
これは――「乙14142号」と呼ばれた男と、彼と共に『虹色の枝』を探索した仲間たちの記録である。




