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4 モブ令嬢の結婚

 そしてそれから———


 ルシンダやダニエルは不敬だなんだとのお咎めを受けることもなく、しばらく周囲からあん時のあいつ…みたいな目で見られる程度で、これまでと変わらない日々を過ごした。

 

 気になってダニエルにあなたそんな風でしたっけ?と尋ねてみたが、これまでルシンダが不満を漏らすこともなかったので、「ワガママをかなえる」こともなかったのだと言う。

 いい顔してたからね…。というかワガママじゃないから!!


 ワガママを叶えるといって、別にべた甘溺愛というわけでもなく、これまで通り。ルシンダもべらぼうなワガママを言う性質でもない。

 せいぜいあの舞台チケット取れないかしら、わかった善処してみる、といったところ。その折々に「まったくワガママだな♡」といったこいつめ感だしてくるのがくそむかつくのだが。


「善処」も結果は半々で、どうもダニエルは問題に対し、解決する方法があれば猪突猛進だが、方法がなければそれはそれで代替案を出すなり諦めるなりする性質のようだった。

 言ったらまあ普通である。猪突猛進がすごいだけで。

 あとワガママ呼ばわりがむかつくだけで。


 ちなみにならいっそと本気で無理なワガママを言ってみたところ、気の毒なものを見るような目で見られ、いいかい?とコンコンと諭されて腑にえくりかえったので、二度とやんねえ!!思ったのだった。

 

 そんなこんなで親交を深めつつ、つつがなく学園を卒業し、半年ほどで二人は結婚した。


 卒業パーティーで婚約破棄とかはなかった。


 どういうことか王子と公爵令嬢はあれから仲直り?をし、仲睦まじく……もないが、令嬢が手綱をとり王子は奇行をやめた。直に立太子の儀を行い、婚姻するそうである。


 男爵令嬢は舞台女優になった。もとより劇団で育ち、男爵家に引き取られてからも、貴族の嫁を狙うと言うよりいずれ劇団に戻るべくパトロン探しをしていたらしい。

 思いの外大物がつりあがってどないしょだったと、後日ルシンダたち三人にこっそり教えてくれた。


 彼女が劇団に戻っての初主演舞台には、三人揃ってみに行って、よかったわねーなかなかのもんね、でもあれがここがいまいちねーときゃっきゃした。

 密かにお忍びで高貴な二人も来ていたとか来ていないとか。


 そんなこんなで結婚式、結婚式といえば準備期間含めて問題ごとのかたまりだが、ダニエルは有能だった。


 ルシンダがテーブルクロスをどれにするか迷っていれば、それぞれの利点と不具合をあげ解決を促し、希望のドレスが予算よりグレードが高いとなれば、飾りの花のランクを少し下げるか、あるいは他の何かを、と対応案をだす。

 君が望むなら金などいくらだって払うよ!とはならないのである。それは問題の解決にはならないので。ないもんはない。


 有能である。つどつどまったくワガママさんめ☆をやってくるのがむかつくだけで。


 一度それやめてくれないかと言ったことがある。

 ワガママと言われるようなこと言ってないでしょうと。


 ダニエルはキョトンとして、なぜ?あれもこれもそれもかれも君の願いを叶えるために考え努力したのだが?では結婚式は式場お任せでいいか?それが一番手っ取り早いのだが?云々かんぬん。


 んぎーーーーー!!!!となったのだった。


 いやだって二人のことじゃん!とは思うが、そもそもそうした差配は女主人の仕事でもあり、ルシンダの役割だ。

 しかしダニエルはこちらの意を汲んでいいふうにしてくれるのである。楽だった。

 んぎー!と楽を秤にかけて楽が勝つ程度にルシンダは怠惰であり、とはいえだって愛する妻のためだものなんでもしてくれて当然よ!と思わない程度にプライドもあった。面倒な人間なのだ。



 ちなみに心配していた義母は、悪い人ではなかった。


 その昔、ダニエルの幼い頃一家団欒の席で、何がきっかけか「あのねダニー、大きくなったらお嫁さんには優しくしてあげるのよ。どんなワガママだって叶えてあげる、それが男の甲斐性というものよ」

 と夫もいる席でコンコン諭したらしく、なんかすごく怖かったらしい。当時何かがあったのだ。くわばら。


 まあそんなわけで、ワガママ扱いに「んぎい」とはなるが、概ね不満はなく、下を見ればキリがないのでまあ当たりの方だろうと、ルシンダはひとまず満足していた。


 そして挙式である。

 お祝いにきてくれた友人二人にも言われた。あんた当たりよ、と。


 キャサリンははるか年上の、孫までいる男にすでに嫁ぎ、もう一人の友人メイジーは、婚約者が五つも年下で、結婚はずっと先。

 どーせ破談で行き遅れよ〜〜〜と、修道院調べに余念がない。


 とはいえ、キャサリンはそれこそ溺愛に溺愛され、つやつやピカピカ金かかってまっせー!という肌になりギンギラ飾り立てているし、メイジーは弟分にしか見えない大人しい婚約者にカエル投げつけて泣かしてやったなどと笑っているので、まあなんかそう悪くはないんじゃいかと思っている。

 何事も完璧なんてあるわけないし、ダニエルはそう悪い夫ではない。

 ちら、と別の集まりと談笑するダニエルをうかがうと…

「いやまったく、妻のワガママにも困ったもので!」

 解せぬ!!!!


 

 結婚してからは、そのまま王都に居を構え、二人は大過なくすごした。


 ダニエルは長男だが、年の離れた次男が後を継ぎ領地を守ることになっており、ダニエルはルシンダの家と両家で行っていた共同事業をまとめて引き継いだ形となる。

 大きな災害もなく、今ではあの王子と元公爵令嬢が玉座について安定した政治を行っている。


 それでもまあ、細々とした問題は起こるわけで。


「ちょっと!!私妊娠してつわりがひどいのよ!目につくとこで美味しいもの食べないでちょうだい!食べたくても食べられないのよ羨ましくて殺すわよ!」

「やれやれ奥様のワガママにも困ったもんだ。小分けにして少しずつ食べてみるといいそうだ」


「どうして双子なのよー!!乳母がいてもたんないのよーー!!のんびり座ってないで手伝って頂戴!!家庭は戦場なのよーーー!!!」

「やれやれ奥様のワガママにも困ったもんだ。常に中腰で反射で動けるようにしよう」


「年子なのよーーー!!!年子で双子なのよーーーー!!!どうなってんの!!!お腹の肉がもどらないのよプロポーションだけはそこそこだったのにどうしてくれんのよーーーーー!!!」

「やれやれ奥様のワガママにも困ったもんだ。どうするもこうするも元から君の容姿に惹かれたことは一度もないから安心してくれ!むしろ幸せを授けてくれた感謝の腹肉ではないか?ありがとう」

「殺すわよ!!!」


「卵が高いのよーーー!!物価高よーーー!!!子供の胃袋無限大よーーー!!!!」

「やれやれ奥様のワガママにも困ったもんだ。お湯で薄めればちょっとのスープで無限大だとも。ダイエットにも丁度いい」

「気にしてんじゃないのよやっば!!!」


「あんーーーのくそメイジー!!!!!最新流行のドレスこれみよがしに自慢されちゃったわよ!!!あらルシンダ、ずいぶん物持ちのいいことねってあんんんんの野郎ーーーーー!!!!!!」

「やれやれ奥様のワガママにも困ったもんだ。枕に藁をかぶせたこの人形をプレゼントしよう。夫人のかわりと思って殴ってくれ。僕も三体持っている」

「怖いのよ!!!!」


 そんなこんなで苦労も多いが賑やかな日々だった。ワガママ呼ばわりをやめろとは再三言ったが、ふっやれやれで毎度かわされムカつくので言わなくなった。


「でたぞー!母上のワガママだーーー!!!」

「やかましいわよ!とっとと手を洗っておいで!でないとおやつ抜きよ、1、2、3…」

 

「どうして顔に刺青を入れてはいけないの!!この冒険書では勇者のしるしとされているのよ!」

「部族のね!どっかの部族の勇者のね!だめったらだめ!!私のワガママよ!聞きなさい!」


「お母様、ぼくらにお爺様やお婆様はいないのですか?」

「いるにはいるけどね、いないと同じことなのよ。ごめんなさいね、お母様のワガママよ」


 いつしか家庭内で妻(母)のワガママは聞くもの、という法律ができたため、便利に使うルシンダであった。


 そうして五人の子供が(あれからまた一人できたのだ!!)すくすく育ち、巣立っていった。

 老齢に差し掛かり、事業を譲ることも考えたが、子供たちはそれぞれの道を歩んでおり、事業はいささか時代遅れともなっていたので、徐々に縮小し、畳むことにした。


 そうして、二人の婚姻理由であった事業も、雲のように消え失せたのである。


 街も変わった、人も変わった。土埃の立っていた街道は今や石畳に整備され、機械の車が走るようになっていた。



 とはいえ体に不調はあっても寿命はまだまだ。家の寿命の方が先に来そうで、修繕するにもこっちがどんだけ生きるかわかんないのに大金払うのも損よねえなどとぶつくさ言っていた頃…


 戦争が起こった。


 

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