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3 モブ令嬢の言い逃れ

  こっちふんなーーーーーー!!!!

 

 いきなりのことにルシンダは慌てた。もうわけがわからない。

 なんだワガママ娘って!違う!


 気絶しそうなルシンダだったが、殿下にダニエルにギャラリーにガン見されている。逃げ場はない。スッ……とルシンダは息を吸った。


「恐れながら…さきほどダニエルが申しました通り、我らの婚約に関しましては、さきの条件で不満がありません。穏やかに過ごしていければと思っております」

 ぱっと顔を輝かせるダニエル。渋面の殿下。


「殿下方の婚姻に関しましては…勿論、わたくしが何か申し上げるようなことではないのですが、日々殿下と男爵令嬢の蒸気機関のようなシュッシュポッポのくそいちゃつき…いえ、愛し合いようを見せつけられまして、これは、公爵令嬢様はもはや殿下の婚約者には相応しくないのではと思うに至ったものなのです」


「ふっ…そうであろう!我が心を手に入れられぬ無様な女など…」


「いいえちがいます」


 ちがうんかーーーい!今度はルシンダとダニエル以外の皆が思った。


「公爵令嬢様はお美しく、賢明で、かねてより完璧なお方と評判でした。

 そうした公爵令嬢様ですら、殿下に、殿方に愛されないという一点で評判を下げている。二心を持ったのは殿下にも関わらずです。

 我々女性は、殿方に愛されてこそ価値があると言うような、娼婦ちゃうねんぞという扱いを受けることがままあります。

 公爵令嬢様すらもそうした不合理に打ち勝てず、されるがままになってしまうのかと口惜しく、なればいっそ婚約を解消して頂ければ、以後不当に貶められることもなく、こちらとしても心穏やかにいられるのにという思いがあったのです」

 いいふうに言ってみた。本音もぽろっとまじったが。

 評判を下げたというが、その評判作りにはルシンダたちも一役かっている。完璧女ざまあだったのである。


「ですので、先ほど公爵令嬢様に婚約者に相応しくないなどと、不遜な事を申しましたのも、貴方様とて逃れられぬ、貴方様ならなんとかしてくれると思っていた女性の不合理な苦境というものに歯嚙みする思いが止められず、いわば八つ当たりのようなものでした。

 お許し頂けるとは思いませんが、どうか謝罪をお受け取り頂きたく存じます」

 申し訳ありませんでした、と出来る限りのカーテシーで陳謝する。

 申し訳ありませんでした、と友人二人も後に続く。

 大事になったんで後が怖いんや〜〜〜!!

 さりげなく責任を世間の風潮になすりつけたった。全部世間がわるいんや〜〜〜〜!!!!


「そうでしたの……。いえ、謝罪は受け取ります。こちらこそ期待に応えられず申し訳ありませんでした……!」


 なんか公爵令嬢様が俯くのをやめて目に光が入っている。おっおっ。覚醒か??


「な、なにをっ……!!貴様、真実の愛が不要だとでも言うのか!?」


 男爵令嬢を抱え込みながら殿下がなじる。


「いりませんねえ…」

「なっ!」

「それはまあ、真実の愛だかなんだか、燃えるような恋をしてみたいと思うことはありますけども、周りに迷惑かけて平気でいられるほど酔える性質でもないですし、正直そんな強い感情ストレスでしかないんで持て余すと思うんです。

 物語のような冒険など望みません。

 私は平穏で穏やかにまったりのんびり過ごせるのが一番ですね」


 そうなのだ。友人二人と恋愛物語を読んでは、素敵よねーイケメン金があるしねーこの女のどこがいいのかしらねー顔よ顔ーとときめききゃっきゃしていたが、自分がっていったら面倒だ。

 向いてないのだ。婚約者がちょっと訳のわからないことを言うだけで泡くっているのである。ドラマチックとか無理だ。勘弁してつかあさい。


「なので、私には真実の愛は不要です」

「なあっ……!!」

 驚く王子。対してダニエルは破顔して、


「それはよかった!!君が真実の愛を望むと言うのであれば、殿下の如く公衆の面前で体を弄り合い恥も知らずにちちくりあい、脳の溶けたが如き文言を垂れ流さねばならぬのかと思っていた!

 君のワガママとはいえ非常に困難で、しかしどうにか善処せねばなるまいと考えていた!」

「いりません!!!!!」


 やばかった〜〜〜!!!善処していらんです!!


「うむ、よかった。大体殿下がこれ以上公爵令嬢様を蔑ろにするのならお父上の公爵閣下より苦情がでようし、物語のように冤罪なすりつけて婚約破棄ともなれば廃嫡待ったなし、というか解消であっても男爵令嬢を妃にするわけにもいかず隣国との兼ね合いからも第二王子殿下を王太子とし公爵令嬢様を新たに婚約者とされたでしょう。

 燃えるような恋とはまさに燃え尽きて後には灰ものこらない、そのような恋に全てを捧ぐとは、いやとても真似のできるものではありません!

 殿下の御覚悟、実に見事でございます!!」


 やめーーーーーや!!!!!


 衆目の心が一つになる中、ダニエルは朗らかに殿下に笑いかけた。


「な、なにをっ…!!恥知らずなどとっ…は、廃嫡…!?そ、そんな…」

 周りを見渡すも、しらーとした群衆の目に息を呑む王子。


 そう、みんな薄々思ってた…。殿下は真実の愛に生きる自分たちに憧れの目が向けられていると思っていたが、大体みんななんやこのあほと思っていた…。


「くっ…!い、いくぞエミリー!!」

 去っていく王子。そこへ公爵令嬢が、

「殿下、後程お話しがあります」

 と、先ほどまでの項垂れ具合が嘘のような完璧令嬢スタイルで言った。殿下はわたわたしながら逃げてった。


 そして公爵令嬢も謎にダニエルに礼を言ってから去り、あとにはルシンダたちモブとダニエル、そしてギャラリーが残された。

 なんだったんだ……全員がどっと疲れを感じる中、ダニエルは朗らかに言った。


「いやあ今日は君のワガママを叶えられてよかった!まったく困ったお嬢さんだ!」


 こいつめ〜!というかんじで額をつつかれ、ルシンダは憤死した。


 

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