14. SMILE SKULL RING MAN 〜微笑む髑髏の焼き印押し
高笑いのウォルチタウアー。
ふと、猛烈に吹き荒ぶ風が通りを駆け巡った。
それはタンブルウィードがけたたましく走り去る、一瞬のこと。
ウォルチタウアーの真横に立つ〝黒い影〟がそのショットガンを奪い、放り捨てた。
固まったウォルチタウアーからクリシアを引き剥がす彼、黒い影は次にウォルチタウアーの右の頬を殴りつけた。
まるで赤い光弾に撃ち抜かれるように数メートル吹っ飛び、路上に転がってやつはすぐさま気絶した。
黒い影――全身黒いレザーのライダースーツ、どこか髑髏に見えるフルフェイスヘルメットを被った、長身の男。
指抜きの手袋に、着けている指輪が赤く煌めいた。
だ、誰なんだ。いったい……俺たちを、助けてくれた――?。
今度はバーニンが飛びかかる。唸り声を上げ黒レザーを頭上から襲う。
その間クリシアは立ち上がり、険しい目つきでナイフを取り、俺を縛るロープを断ち切ってくれた。
勇気を奮って俺のために。俺は彼女を抱きしめ、無事を確かめた。
黒レザー男、対バーニンはやはりバーニンの剛力が圧していた。
両者キックボクサーの如く動きが速いが、馬力と破壊力はバーニンに分がある。
ついにはバーニンが黒レザー男の首を掴み吊り上げた。
「ガーッハッハ! キサマ何者だ、ああ? 顔見せろ」
苦しみ悶えながらもバーニンの腿を蹴る黒レザー。
次に瞬いた時、そのバーニンの背後に一人の巨体が近付いていた。
「ライセンス!」
血まみれズタボロのライセンスが渾身の力でバーニンを羽交い締めにする。さすがに混乱するバーニン。
吠えたてるそのうちに、バーニンの力は急激に弱まっていった。
ライセンスは言った。
「……ふっ。どうやら血清も不完全のようだなバーニン。貴様はもう動けない」
「ぐっ……うぐ!」
「やってくれ黒いレザーの男よ。バーニンもウォルチタウアーと同じように!」
解放された黒レザーはライセンスの言葉にうなずき、左の拳でしぶとく暴れるバーニンの頬を殴り、眠らせた。
* * *
気絶した二人、ウォルタウアーとトミー・〝バーニン〟・フェラーリを縄で縛る黒レザー男。
両手のひらをぽんぽんと、事を終えた。
彼はヘルメットを脱ぐが、黒いバンダナに口元も黒マスクで覆い、素顔は晒さない。
「ダグラス・ステイヤーだ」
籠った声で彼は短く挨拶し、辺りを見回した。
「そろそろ警察が来る」
そわそわと立ち去ろうとする彼に俺は近づき、挨拶した。
「ブリウスです。電話したんです」
「出られなくてすまなかった。事情はすべて把握してるつもりだ。我がソサエティはやつらを取り巻く情報を追っていた。とにかく俺はこの二人を取り押さえるために来た」
「助けてくださって、ありがとうございます」
「いや……俺も今、ライセンスさんに助けられたさ。……このトミー・フェラーリはウォルチタウアーの相棒。こいつは俺を追い続け、俺の根城からトランクケースを奪い返した。しかしそれはこいつらの居場所を突き止めるため、俺が仕組んだこと」
「というと……」
「トランクケースの持ち手に発信機を埋め込んでな。……あと、一つ詫びなきゃいけない。『ジャックが奪った金』とされているが元をたどれば俺がやらかしたことなんだ。だからこんな結果になって、きみたちには申し訳なく思っている……」
複雑な経緯があると言ってダグラスさんはその時ジャックが巻き込まれた様子をあれこれ説明してくれたが、裏社会の話は正直うんざりだった。
ダグラスさんが助けてくれたという事実だけでいい。
「金は確かに六年前、ジャックに活動資金として渡した。カードキーは俺が焼却したよ」
強化されたトミー・フェラーリのこともダグラスさんは説明した。ライセンスの言った通りだった。
「おそらくウォルチタウアーが実験的にトミー・フェラーリに試したのだろう。トミーはやつの駒だからな。ナピスの血清を射たれ、こいつは怪物と化した。麻薬と同じ……いやそれを超える悪魔の力だ。そいつを根絶やしにせねばならん」
そう言った後ダグラスさんは南の方角を指す。
「……ブリウス君。もしやデスプリンスに帰ろうと?」
「……そうです」
「うむ。その方がいい。罪はこいつらにある。きみは正当に務めを果たした方がいい。やり直すには、その方が早道だ」
「……はい」
「そしていつか、表通りを堂々と歩くんだ」
耳に響いてくるパトカーのサイレン。
ダグラスさんはそっと手を上げ別れを告げた。
「ダグラスさん。この恩は、忘れません」
「おぅ。じゃあ、達者でな」
まだ路上に伸びているウォルチタウアーとトミー・フェラーリの頬には焼き印が。
『スマイル・スカル・ブランディング』
とでも言おうか……微笑む髑髏の焼き印押し。
指輪に電熱線でも仕込んであったのか。
殴られた跡が惨めな頬に痛々しく残っていた。




