最終廻:とっても幸せですわ!
「これはこれは皇后殿下! 神聖なお靴が汚れてらっしゃいます! わたくしめが新品同様に磨き上げてご覧に入れますので、どうぞこちらへ!」
「あら、いつもご苦労様」
わたくしの元お父様が用意した足置きの上に、今日も足を乗せるわたくし。
そんなわたくしの靴を、元お父様は血眼になって、熱心に磨き始めます。
「アハハ、相変わらずの見事な腕前だね」
「ええ、それはもう皇帝陛下! これがわたくしめの仕事ですからな!」
元お父様の仕事ぶりに、手を叩いて賞賛を贈るギル。
ふふ、元お父様ったら。
昔はあんなに横柄だったのに、人は変われば変わるものなのですね。
――あれから10年。
いろんなことがありました。
中でも一番のトピックは、王位を継いだレックス殿下――いや、レックス陛下が、何を血迷ったかファルベスタ帝国に宣戦布告してきたことです。
優に10倍以上の戦力差があったというのに、何故勝てると思ったのでしょうか?
同じく帝位を継いで皇帝となっていたギルの指揮の元戦端が開かれましたが、僅か3日でファルベスタ帝国が完全勝利。
レックス陛下とドロシー王妃殿下は斬首刑に処され、我が祖国は地図からその名を消しました。
それに伴い、我が祖国の貴族たちも次々に失脚。
筆頭公爵だったわたくしの元お父様もすっかり没落し、今ではわたくしとギルの靴磨き係として、日々汗を流しているというわけです。
「母上ー! そろそろ僕に、【女神の聖衣】を教えてください!」
「わたくしは父上に、上級魔法を教わりたいですわ!」
7歳になる息子のビリーと、6歳になる娘のホリーが、わたくしとギルにそれぞれ抱きついてきます。
うふふ、今日もわたくしとギルの子どもたちは、世界一可愛いですわ。
「よろしいですわ。しっかりと【女神の聖衣】を磨いて、お兄ちゃんとしてホリーを守るのですわよ、ビリー」
「はい!」
「ホリーはまずは初級魔法から覚えようね。ホリーは僕と違って、どんな魔法でも使えるのだから」
「えー、わたくしは父上みたいに、最上級魔法をブッ放すような、カッコイイ冒険者になりたいのです!」
「うぅ~ん、困ったなぁ」
うふふ、まったく、誰に似たのでしょうね。
窓から降り注ぐ麗らかな陽射しが、わたくしたち家族を優しく包み込みます。
嗚呼、わたくし今、とっても幸せですわ――。
「どうですか皇后殿下ッ! 新品同様に磨き上げましたぞおおおおおおッッ!!!」