第五廻:ジャイアントキリングですわ!
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「ク、クソオッ!! 何なんだコイツは!?」
「「――!!」」
少し進むと、開けたフロアに出ました。
そこでは何とレックス殿下のパーティーが、小高い丘ほどもある、全身が赤黒い鱗で覆われた、四足歩行のドラゴンと戦っていたのでした。
「あ、あれは……、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴン!」
「知っているのかい、セレナ!?」
「……わたくしも自分の目で見るのは初めてです。文献で読んだことがあるだけですわ。……その口から吐かれる灼熱の炎は、ありとあらゆる物体を焼き払う、とか」
「そ、そんな」
「クッ、一斉に掛かれッ!」
「ハ、ハイッ!」
レックス殿下の号令で、四人が同時に攻撃の姿勢を取ります。
――が。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「があっ!!?」
「「「――!!!」」」
アブソリュートヘルフレイムドラゴンの丸太ほどもある、太く鋭い前脚の爪が、槍使いのジャックの身体をズタズタに斬り裂きました。
「ジャックッ!!」
「……」
ジャックはピクリとも動かず、色を失った瞳が虚空を見つめています。
嗚呼、ジャック……。
「よ、よくもジャックをッ!!」
ジャックとは親友同士だった弓使いのテッドが、憤怒に染まった顔で矢を放ちます。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「う、うあああああああ!!!」
「「「――!!!」」」
ですが、アブソリュートヘルフレイムドラゴンの吐いた灼熱の炎が矢を消滅させ、そのままテッドの全身も炎に包まれてしまいました。
テッド――!!
「が……あ……」
人の形をしただけの消し炭になってしまったテッドは、その場に脆くも崩れ去りました……。
嗚呼、何てことでしょう……。
「光より速い恋の音
骨まで痺れる愛の毒
――雷光魔法【魔女の一撃】」
が、その隙に魔法使いのドロシーさんが放った、雷系中級魔法である【魔女の一撃】が、アブソリュートヘルフレイムドラゴンに直撃しました。
こ、これは、やりましたか……!?
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「そ、そんな……!?」
嗚呼、流石伝説の魔獣……。
中級魔法程度では、その強靭な皮膚には、傷一つ付けられなかったようです……。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
「ひ、ひええええええ!!!!」
「いやあああああああ!!!!」
アブソリュートヘルフレイムドラゴンの灼熱の炎が、レックス殿下とドロシーさんを襲います。
――くっ!
「【女神の聖衣】」
「「――!?!?」」
咄嗟に【女神の聖衣】を発動させたわたくしは、お二人の前に大の字で立ち、炎を防ぎました。
ふぅ、間一髪でしたわね。
「セ、セレナ……、何故ここに……。アチチチチチ!?!?」
「「「っ!?」」」
あ。
どうやら幼児体型のわたくしでは上部までは守れなかったらしく、殿下の頭頂部を炎が掠ってしまいました。
その結果、殿下の頭頂部だけは、文字通りの不毛地帯となってしまったのです……。
お労しや殿下……。
「あわわわわわ……」
対するドロシーさんは、尻餅をついていたため炎からは身を守れたようですが、腰の辺りにじんわりと水溜まりが出来てしまっています。
あらあらまあまあ。
乙女の情けです。
見なかったことにして差し上げましょう。
「レックス殿下、ドロシーさん、ここはわたくしが引き受けます。今のうちにお逃げください」
「……クッ! い、行くぞ、ドロシー!」
「は、はいいいい……!」
這う這うの体でフロアから出て行くお二人。
よし、これで足手纏い(おっと失礼)は消えましたね。
「……セレナ、今のが君の、元婚約者かい?」
ギルさんが眉間に皺を寄せながら、逃げ去る殿下の背中を見つめます。
あら?
ギルさんがそんなお顔をするのは珍しいですわね。
「……あくまで『元』ですわ。今のわたくしとあのお方は、赤の他人です」
そう、婚約破棄されパーティーからも追放されたあの日から、わたくしとレックス殿下の関係は完全に終わったのですから……。
「そうか。じゃあ、君の今のパートナーとして、僕も男を見せないとね」
ギルさんがいつになく凛々しい表情で、杖を構えます。
まあ!
何故ギルさんがそんなに殿下に対抗意識をお持ちなのかは不明ですが、真剣なお顔のギルさんも素敵ですわ!
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」
地を揺るがすほどの咆哮で、わたくしたちを威嚇するアブソリュートヘルフレイムドラゴン。
さあ、ジャイアントキリングですわ!