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第三廻:最強パーティーの誕生ですわ!

「ブモオオオ!!!」

「ク、クソッ!」

「あら?」


 更に進むと、開けたフロアに出ました。

 そのフロアでは、ローブを纏って杖を持った、魔法使い風の男性が一人で、大型のオークと戦っていました。

 魔法使いはどうしても呪文の詠唱中に隙が出来てしまうので、前衛と組んで戦うのが基本。

 それなのに、あんなに強そうなオークと一人で戦っているなんて、珍しい光景ですわね。


「ブモオオオ!!!」

「う、うわっ!?」


 案の定男性は、オークの振り回す棍棒を避けるので精一杯です。

 これは加勢するべきでしょうか?

 ただ、下手に加勢して、後で獲物を横取りされたとトラブルになるのも厄介ですし、どういたしましょう……。


「クッ、これでも喰らえ!」


 オークから距離を取った男性が、杖を構えて魔力を込めます。


「冥府に響く亡者の讃歌

 七つの月が影を消す」


 あ、あの呪文は――!


「ブモオオオ!!!」

「ぐはっ!?」


 が、やはり詠唱の隙を突かれ棍棒を喰らってしまった男性は、後方に吹き飛ばされてしまいました。

 クッ、これはもう、見てられませんわ!


「大丈夫ですか!?」


 思わずわたくしは男性に駆け寄ります。


「え!? 君は……? バ、バケモノッ!?」

「ほ?」


 バケモノ??


「グァァ!」

「グアア!」

「グアァ!」

「グァ!」

「グアアァ!」


 ああ、そういえばわたくし今、五匹のグールに嚙みつかれてるんでした。

 これは確かに、傍からはバケモノに見えますわね。


「ご安心ください。わたくしは怪しい者ではございませんわ。わたくしはあなたを――」

「――! う、後ろッ!」

「ほ?」


 後ろ?

 くるりと振り返ると、そこには――。


「ブモオオオ!!!」


 オークが棍棒を、今まさにわたくしにフルスイングするところでした。


「ああ、ご心配は無用ですわ」

「グァァ!?!?」

「グアア!?!?」

「グアァ!?!?」

「グァ!?!?」

「グアアァ!?!?」

「なっ!?!?」


 棍棒がわたくしの貧相な身体に直撃しました。

 が、当然わたくしはビクともしません。

 代わりにわたくしに嚙みついていたグール五兄弟が吹き飛ばされました。

 ふぅ、やっと離れましたわね。


「ブ、ブモオオオ!!!!」


 激高したオークは、何度も何度もわたくしに棍棒を振り下ろします。

 ですが、それは木の枝で巨岩を叩き斬ろうとするようなもの。

 現にわたくしは、痛くも痒くもございません。


「き、君は……いったい……」


 戸惑いを隠せない様子の男性。

 まあ、無理もございませんわ。


「詳しい話は後です。わたくしが攻撃を引き付けているうちに、わたくしごとさっきの魔法でこのオークを焼き尽くしてくださいませ!」

「――! そ、それは流石に……」

「ああ、服のことでしたらご心配なく。わたくしの【女神の聖衣(アイギス)】は服も込みで強化しておりますから、服が焼けてラッスケ展開になることはございませんから」

「ラッスケって……。僕が言いたいのはそういうことじゃないんだけど……。――本当に僕の魔法を喰らっても、無事でいられる自信があるんだね?」

「……!」


 フードからチラリと覗く男性のエメラルドの瞳に、闘志の炎が宿るのが見えました。

 嗚呼、この方もわたくし同様、ご自分の磨き上げてきたものに、絶対の自負をお持ちなのだわ。

 ふふふ、面白いじゃございませんか。


「ええ、ここはダンジョン。弱肉強食が絶対のルールですわ。たとえわたくしが焼き尽くされても、一切の文句はございません。さあ、わたくしにあなた様の本気を見せてくださいませ!」

「フッ――わかったよ!」


 先ほど同様距離を取った男性が、杖を構えて魔力を込めます。


「冥府に響く亡者の讃歌

 七つの月が影を消す

 無音の闇夜に涙の雫

 紅い徒花 蒼い寂静

 八つの咎に身を焼かれ

 それでも亡者は天を仰ぐ

 ――獄炎魔法【獄炎の豪雨(インフェルノランス)】」


 男性の上空に星の数ほどの槍の形をした炎が出現し、それが豪雨の如くわたくしとオークに降り注ぎました。


「ブモオオオ!!!!」

「グァァ!!!!」

「グアア!!!!」

「グアァ!!!!」

「グァ!!!!」

「グアアァ!!!!」


 あら、ついでにグール五兄弟も巻き込まれてしまいましたわね。

 獄炎の豪雨が収まると、オークもグールも跡形もなくなっており、そこには紅く輝く魔石だけが残されていたのでした。

 もちろんわたくしはかすり傷一つ負っていません。


「……凄いな。僕の【獄炎の豪雨(インフェルノランス)】をまともに喰らって、平然としているなんて。ちょっと自信なくしちゃいそうだよ」

「……!」


 フードを取って現れた男性の素顔は、女性かと見紛うほどの、それはそれはお美しいものでした。

 天の川を彷彿とさせる銀髪に、極上の魔石も斯くやというエメラルドの瞳。

 とても野良の冒険者とは思えないほどの高貴さを、全身から醸し出していました。


「ふふ、いえいえ、わたくしの【女神の聖衣(アイギス)】は例外中の例外でございますから、どうか気を落とさずに。――それよりも、まさかそのお歳で炎系最上級魔法である【獄炎の豪雨(インフェルノランス)】を習得なさっているとは、わたくし感服いたしました」


 通常最上級魔法の習得には、早くとも数十年は掛かると言われています。

 見たところ男性はわたくし同様、十代後半くらいだと思われますが、少なくとも十代で最上級魔法を習得している方には、わたくしは今まで会ったことはございません。


「……うん、別に、こんなの、大したことないよ」

「?」


 が、男性は不貞腐れるように俯いてしまいました。

 あら?

 わたくし何かマズいことを言ってしまったのでしょうか?

 これは話題を変えたほうがよろしいかもしれませんわね。


「と、ところで、そんなに凄い腕をお持ちなのに、どうしてソロでダンジョンに潜られていたのです? あなた様ほどの腕なら、どのパーティーにも引く手あまたでしょうに」


 攻撃の花形である魔法使いは、まさにパーティーのエース。

 レックス殿下がタンク役(わたくし)よりも魔法使い(ドロシーさん)を選んだように、魔法使いなら、パーティーメンバーの確保には困らないと思うのですが……。


「……うん、実は僕は生まれつき、『高濃度魔力症』を患っているんだ」

「高濃度魔力症?」


 とは?

 あまり聞いたことのない病名ですわね。


「体内で生成される魔力が、一般人と比べてあまりにも濃すぎるんだよ。そのため、普通に魔法を使おうとすると、大抵暴発してしまうんだ。コップに風呂の水を全部注ぐようなものだからね」

「そ、そんな……!」


 そのような病気が存在していたとは、寡聞にして存じませんでしたわ。

 あれ、でも……?


「さっきは【獄炎の豪雨(インフェルノランス)】を問題なく使えていたではありませんか」

「うん、最上級魔法であれば、ギリギリ僕の高濃度の魔力でも暴発せず使えるからね。……逆に言えば、僕は最上級魔法以外の魔法は、一切使えないんだよ」

「……!」


 そういうことですか。


「でも、さっき見た通り、最上級魔法は詠唱の隙が大きすぎて、あまり実戦向きじゃないんだ。今は隙の少ない中級魔法で、素早く魔獣を倒すのが最適解な時代だからね……」

「……」


 確かにドロシーさんも最上級魔法は使えませんでしたが、その代わり中級魔法による手数の多さで敵を圧倒するタイプの魔法使いでしたわね……。

 そうか、このお方もわたくし同様、時代から弾き出されてしまったのですね……。


「だからなかなか誰も僕とはパーティーを組んでくれなくてさ。それでしょうがなく、ソロでダンジョン(ここ)に潜ってみたんだけど、やっぱり僕一人じゃ荷が重かったみたいだね。君が助けてくれて、本当に命拾いしたよ。君は命の恩人だ。僕にできることなら何でもするから、どうかお礼をさせてほしい」

「お、お礼、ですか……!?」


 男性のわたくしを見つめる真摯なエメラルドの瞳に、思わず胸がトクンと一つ跳ねます。

 あわわわわ……!


「いや、そんな、お礼なんて、別に……」

「でもそれじゃ僕の気が済まない! 何でもいいから、何か希望を聞かせてくれないか!」


 う、うーん、そう言われましても……。

 ――あ。


「ではこういうのはいかがですか。――どうかわたくしと、パーティーを組んではいただけないでしょうか?」

「き、君と!?」


 途端、男性のお顔がオモチャをプレゼントされた子どもみたいに、パッと華やぎました。

 うふふ、可愛いですわ。


「わたくしは攻撃能力は皆無ですが、その代わりタンク役としては絶対の自負を持っております。――わたくしが攻撃を引きつけ、その隙にあなた様が最上級魔法で敵を屠る。わたくしたちが手を組めば、絶対無敵の最強パーティーになるとは思われませんか?」

「で、でも、本当に僕なんかでいいのかい?」

「ええ、むしろあなた様でなければダメなのです。――わたくしの名前はセレナと申します。どうぞこれからよろしくお願いいたします」


 わたくしは男性に右手を差し出し、握手を求めます。

 わたくしはもう公爵家を勘当された身ですから、家名は名乗る必要はないでしょう。


「ぼ、僕の名前は、ギ――」

「?」


 ギ?


「……ギル。僕のことは、ギルと呼んでほしい。こちらこそよろしくね、セレナ」


 ギルさんは天使のような笑みを浮かべながら、わたくしの手を握り返してくださいました。


「ええ、ギルさん」


 こうしてこの日この場所で、最強パーティーが誕生したのでした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] グールが離れて美少女降臨!ってどんな展開!?笑 でもそれがいい( *´艸`) こっちの攻撃は全て弾かれ、向こうは最上級魔法をぶっぱなしてくるとか、もう魔王やん笑
[良い点] >わたくしは怪しい者ではございませんわ グール5体も引きずっておいて、それを信じろとw 詠唱カッケー!
[一言] 最強の盾と最強の矛の組み合わせが誕生しましたね。
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