第二廻:心機一転、頑張りますわ!
「ハァ? タンク役? いやいや、攻撃能力がないんじゃねぇ。悪いけど、他を当たってくれよ」
「さ、左様ですか……」
沈む気持ちを何とか奮い立たせダンジョンの入り口に戻って来たわたくしは、新たなパーティーメンバー探しに奔走したのですが、いくら声を掛けても、わたくしがタンク役と聞くや否や、ことごとく断られてしまいました。
やはりタンク役は時代遅れなのでしょうか……。
安全にダンジョンを探索するためには、タンク役も必要だとは思うのですが。
「ふぅ、こうなったら、致し方ありませんわね」
誰もパーティーを組んでくれないのなら、ソロで挑むしかございませんわ!
幸いわたくしは、生き残ることにかけては、誰にも負けない自負がございます。
魔獣を倒して魔石を得ることはできずとも、宝箱から自分の食い扶持分くらいは稼げるはず。
「よし、心機一転、頑張りますわ!」
ふんすと一つ鼻息を吐いてから、わたくしは慣れ親しんだダンジョンへと潜りました。
「な、何だか一人だと新鮮ですわね」
見慣れた風景も、一人で歩くといつもと見え方が変わります。
ここの壁の意匠、こんなに凝ってましたのね。
昨日までは他のパーティーメンバーを守ることに集中してましたから、ゆっくり景色を眺める余裕はなかったですからね……。
「おっと、しんみりしてる場合ではございませんわ」
さっさと宝箱を見付けませんと。
「グアアァ……」
「――!」
その時でした。
一匹のグールが、鋭い牙と爪を光らせながら、わたくしの前に現れました。
ふむ、いつもならパーティーメンバーたちとの位置取り等に気を遣うところですが、一人だとその点は気楽ですね。
「グアアァッ!」
グールが大口を開けて、わたくしに跳び掛かってきました。
さて、と。
「【女神の聖衣】」
「グアッ!?」
わたくしは初級身体強化魔法である、【女神の聖衣】を発動させました。
するとわたくしの頭部に嚙みついたグールが、露骨に狼狽えます。
さもありなん。
わたくしのようなか弱い婦女子に、強靭なグールの牙で傷一つ付けられなかったのですから。
「グアッ! グアアアッ!!」
なおもグールはガジガジと私の頭を必死に齧ろうとしていますが、焼け石に水。
いくらやっても無駄ですわよ。
わたくしが【女神の聖衣】を発動させている間は、たとえ魔王であろうとわたくしにはかすり傷すら負わせることは叶いません。
――わたくしは幼少の頃から他の一切は捨て、ただひたすら【女神の聖衣】を磨くことだけに人生の全てを懸けてきました。
その結果、本来ならほんの少し身体の耐久力が上がるだけの初級魔法である【女神の聖衣】が、ありとあらゆる攻撃から身を守る、絶対防御の域にまで達したのです。
それもこれも、レックス殿下を脅威からお守りするため――。
……ですが、そのわたくしの想いも、どうやら殿下には通じなかったようですわね。
「グアアッ!! グアアアアッ!!!」
さて、それはそれとして、まずはこのグールを何とかしませんとね。
わたくしは懐から普段は滅多に使うことはないナイフを取り出し、それをグールの喉元に突き刺しました。
――が、堅いグールの皮膚には、わたくしの非力な腕では傷一つ付けられません。
ううむ、これは千日手ですわね。
「まあ、いいですわ。別に支障はありませんし、このまま進みましょう」
「グアッ!? グアアアッ!?」
わたくしはグールに嚙みつかれたまま、ダンジョンを探索することにいたしました。
「グアア……」
「グアァ……」
「グァ……」
「グアアァ……」
「あら?」
しばらく道なりに進むと、今度は一気に四匹もグールが現れました。
今日はグール日和ですわね。
「グアア!」
「グアァ!」
「グァ!」
「グアアァ!」
四匹のグールが一斉に、わたくしの右腕、左腕、右足、左足に、それぞれ嚙みついてきました。
「グアア!?」
「グアァ!?」
「グァ!?」
「グアアァ!?」
まあ、無駄ですけど。
ハァ、重くてウザったいですが、このまま進むことにいたしましょうか。
「グアア!!」
「グアァ!!」
「グァ!!」
「グアアァ!!」
「グァ……」
手足に嚙みついている四匹のグールが、頭に嚙みついている先輩グールに対して「どうなってんだよコイツ!?」とでも言いたげな表情をしています。
それに対して先輩グールは、「オレも何が何だか……」みたいなリアクションをしたのでした。
あらあら、仲良くしてくださいね。