……7月2日(土) 15:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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コンプレキシティが濃い? 私が? それって、つまり、どういうこと?
見えもしないから実感もできないし、急にそんなこと言われても感想も持てない。
「つまり、安積さんも天宮さんも不自然なんだ。僕は自分から見えているこれがなんなのかを知りたい。だから教えてほしいんだ。安積さん、君にはなにか特別なことはないかい?」
「いや、私はかなり平凡な人間で、特別なところなんてなにも思い当たらないけど……」
友達からは「変だ」みたいな扱いをたびたび受けるけど、ここで話してるのはそういうことじゃないだろう。さっきの発言によれば、世紀の大天才とかそういう特別さだ。私なんてとてもとても、明らかに平凡だ。一回では足りないぐらい、言い換えると平々凡々だ。なにしろ能力者ということでもなければ、宇宙から来たということもない。
言ってみれば普通なのでこれまでは特段意識したこともなかったんだけど、ここ一週間ぐらいは自分は普通だなぁということをひときわ強く感じている。身の回りに異常というか、特別なところのある人が多すぎる。
というか、人でもない場合も多い。
ハルカちゃんとか幹侍郎ちゃんとか。
目の前の叡一くんだってイルカだもんなぁ……。
「天宮さんはどうだい?」
「私? 私になにか普通じゃないところある?」
あるんだよなぁ……、としか思えないしらばっくれ方だけど、外見的には作り物のような美少女であるところを除けば普通だし、立ち居振る舞いも基本的に普通だ。おそらくは時に変だと言われてしまう私より、普通らしい立ち居振る舞いだと思う。
そういえば私に最初話したときも、こんなことを言ってた。いや、あのときは、女の子に見えないところがあるか? だったかな。こうしてみると、答えにくい質問に答えないやり方なんだろうな。
「見た目に、ちせ……。うーんなんと言えば良いのか、僕にとってコンプレキシティが見えないということは、コンプレキシティの元になる作用がないように見えるということだから、それだけで普通じゃないよね。例えるなら、色彩の豊かな映像の中に全てモノトーンの人物が紛れ込んでるみたいな違和感と言えば良いのかな。僕から見たら、だけどね」
「そのコンプレキシティには興味あるわね。つまりどんな感じなの? あなたはそれがよく見えるって言ってたけど、目で見るものなの?」
ハルカちゃんが叡一くんの話に食いついていく。
私も興味がある。私が口を挟むと話が散らばるから、ひとまずはただ耳を向けて聞いておこう。
「見える、というのは便宜的な表現だけど、そのとおり、知覚できるよ。目で見ているか、実はよく分からないけど目を閉じたら見えない。そしてその知覚は視覚と紐付いてるんだ。だから、見えると呼んでいるのさ」
知覚、というのは感覚してわかる、ということか。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、というのが人間の五感だ。
「見える」つまり「視覚」だ。視覚とはいかなることか軽く整理すると、光を人間の目が感じ取ったうえで映像の形にしてそれを人間が分かる事だろう。感じ取るだけだったら動画のカメラだってやってることで、知覚というのには映像をみて『理解る』ところまで含んでいると思う。
それで、叡一くんの言う視覚ではないけど視覚と紐付いているというのは、目で見た視角の映像に別の感覚が乗っている感じだろうか?
例えるなら、お天気予報で気温の色分け地図を見たとき、赤いところを見て暑苦しいと感じるとかああいう感じかな? 他には例えば、ゲームで自機がマグマ溜まりに近づいたときに「あつっ」ッと言ってしまう危険だから近づきづらいと感じる、そういう類の見た目の雰囲気から感じる追加情報に対する感覚に近いとか? こういうのは自分でも確かに経験がある。
こういう例えが正しいかどうかはわかんないけど、そもそもわかんない話だから合ってるかどうか確かめようもないし、こういう想定で話の続きを聞こうと思う。
「なるほど。で、そのコンプレキシティっていうのはなんなの? 深山さんの話だと、TOXの到来しやすさみたいな話だったけど、なんでそれをイルカは知っているの?」
ハルカちゃんが重ねて聞く。もっともな疑問だ。
私にとっては宇宙に住んでるイルカなんて宇宙人の亜種みたいなもんだから、イルカに不思議能力があっても驚かない感じだ。でも、さすがハルカちゃんは地球の常識にとらわれない。




