7月2日(土) 15:00〜15:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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思ってたのと違う感じの人というのはよく居るといえばよく居る。
かくいう私もよく言われる。もっと柔和で繊弱な感じの人柄に見えるそうだ。
いや、私は穏健だし繊細な機微のわかる人間だが? という反論をしたこともあるけど、その場での返答によるとそういうことではないらしい。なんじゃそりゃ。
「……佐々也ちゃん? なんか今日はフリーズしやすいね?」
「ああごめん。思考が迷走してた。えーと、その制服を気に入ってる、と。同じような服を作れたらいいんだけどね、ちょっと私は手作業が苦手で服を作ったりとかは……。せめて写真でも撮っておこうか? ほんとは元の業者から取り寄せたりできればいいんだけど……。ん? ハルカちゃんは元の学校があるわけじゃないから制服を取り寄せられないってのは自然に受け入れてたけど、よく考えたら元の学校がないってことはその制服の形ってどこから持ってきたものなの? 自分でデザインした?」
「ふふふん。これはね……」
ものすごく嬉しそうにハルカちゃんが制服の由来を話し始めた。
どうも余計なことを聞いてしまったらしい、非常にイヤな予感がする。
それによると、この制服は彼女のお気に入りの古代アニメに出典があるのだとか。
デザインはそちら基準なので改めて記録する必要はないということにはなったのだけど、お気に入りの服を着ているところを写真に残してほしいという希望があったので、本人の希望に従って写真を残すことにした。一部の写真には私も一緒に写らされる。
そしてこの後、しばらく彼女のお気に入りだという制服の元ネタにあたる古典アニメの話を聞かされることになった。いやまぁ、実際に見れば面白いのかもしれないけど、五〇〇〇年前のアニメが配信されているわけも入手先があるわけでもなく、いくら聞かされても現物に当たれない。
……しかしこうなんというか、歴史の中に消えていったフィクション作品の面白さについて伝聞でただ聞かされるだけってのは虚無感がすごかった。
せめて歴史上に本当に存在したできごとについての話ならここまでの不毛感は無いんじゃないかという気がする。『そういうフィクションが存在した』という歴史的事実はもちろん存在するんだけど、こうも実態がないとなかなか面白がりにくい。
この面白さを感じ取ることの難しさ、人気がなくてサービス終了して遊べなくなったオンラインゲームについての攻略法の話と大差ないんじゃなかろうか。
まぁ、そういう話をしたら悪いってことはないんだけど、どうしても不毛感はあるよね。
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7月2日(土)
15:30
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十五分ぐらいの間、太陽系時代後期のアニメに出てくる制服の話を聞かされていた。
どうやら日本のアニメらしい。そういえば、最初に会った日にもアニメの学校に通いたいみたいな話をしていたよな。友達が熱心に首位の話をしているのを聞くのは、対象に興味のあるなしに関わらずちょっと楽しいみたいなところはあるんだけど、意味がわからないから、気分だけ楽しくても飽きてくる。
食いついてわからないところを補足しようとすると、無限に長い話になりそうだし、今はどっちかといえば一緒に町に行く話をしたほうが良い気もする。迂川郷から徐々に慣らして麓まで出るべきか、いきなりショッピングモールに行ってしまうかとか、そういう相談。
さて、どう口を挟むかなと思ってタイミングを測っていると、視界にちょっと目につくものが入ってきた。驚くというより、唖然とする感じだろうか。
ぼんやりとそちらに視線を泳がせながら、ハルカちゃんの一方的な喋りにタイミングなんて測らないまま口を挟むことになった。
「……ねえ、ハルカちゃん。ハルカちゃんて、空、飛べる?」
「え? 空? やろうと思えばできるはずだけど、数日かかると思う。けど、なんで?」
やろうと思えばできるのか……。しかも、着替えと違ってこっちは数日か。
ちょっと興味あるな。つまり難しさとかに違いがあるわけだわな。そりゃあるだろうという気がするから、それはひとまず置く。
「うん、あのね。あの人みたいなこと、ハルカちゃんもできるのかなーって思ったから」




