……7月2日(土) 15:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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「用事で行くと他のことができなくなるから、先に町に行って確認しときたいのよ。なにしろ、今の私はなにを見ても楽しいみたいなところあるから」
「あー、そうね。そりゃそうだ。じゃあいまから行こうか! いや待て!」
どうせどこかに行こうとは思っていたし、いい機会だから迂川郷に行くかと思って私は立ち上がりかけた。そこではっと気がついて、ハルカちゃんの服を見る。
制服だ。
「待てって? なに?」
「ハルカちゃん、服着替えられる?」
「着替えるというか転換する感じだけど、ご希望とあればできるよ。半日ぐらいかかるけど」
半日で転換……。
制服は体表面だって言ってたけど、半日で……、転換ってなにをするんだ?
転換中にこの部屋を覗いてはならぬ、とかになるのか……。
「佐々也ちゃん? どうしたの? フリーズした?」
「ああごめん。くだらないこと考えてた。それより、ハルカちゃんも服を着るようにしよう。体の表面は人間の裸と同じようにすることはできる?」
「やろうと思えばできるけど、今度は制服が無くなっちゃうよ」
「別に制服着なくてもいい学校だから、無しでもいいよ」
「そんな……。学校生活といえば制服でしょ? 私は制服着たいのに……」
「へ? そうなの?」
学校生活といえば制服という感覚がわかりません……。
とはいえ制服は存在するし、着回しを考えないでいいし頑丈だという利点も大きいから、私も便利に着させてもらっている。けどリモプレの時には着ないし、暑かったり寒かったりする時は着ないし、そんなにいつでも着てるようなものでもない。
ハルカちゃんが学校生活に憧れてたのは歴史上の古典芸術が理由だって話だから、要するにそれのイメージなんだろう。古典芸能だから現代とイメージが違うのは仕方ないんだろうとは思うけど、なんというかハルカちゃんってかなり趣味人というか、ミーハーというかなんというか……。
前にも思ったんだけど、こんな性格で本当に一人で宇宙探検に出されても大丈夫だったんだろうか。
「まぁ、着たいなら着てもいいよ。制服なんだから誂えればいい。いまはなんかどこかの制服だけど、指定の制服なら作れるし」
「この制服、気に入ってるんだけどなぁ」
制服を気に入るとかあるのか……。
私は窮屈なのが特に苦手だから制服は苦手だ。
幸い背が小さいからダボッとした物を選んで着ているけど、そういう物理的な窮屈も苦手だけど理念的な窮屈も苦手だ。だから制服は総じて苦手で気に入らない。
というか、旧太陽系の別素材の新人類なのにそんなに普通の人間みたいな気分が存在するんだなというか、話してる感じは全体的に単なる日本人なんだよな。言葉も通じるし、ケーキも美味しいとかそういう普通っぽすぎることも言ってたし。
私にしてみれば、ハルカちゃんは他所の星で生まれてるし炭素系生命でもないし、人間と感覚が違うこともまぁまぁあるだろうからそういう事があったときに嫌な感じの対応になってしまわないように探り探りハルカちゃんの人間っぽさを目測している感じなんだけど、こうして接しているとハルカちゃんはあまりにも普通だ。『新種の生物』と言われて「さもあろう」という感じの異質さが無い。
なんというか、こう、ハルカちゃんには外宇宙を一人で探査する知性体らしい凄みというか超越性に欠けてる感じがするんだよな……。
日本語が通じないタイプの外国人だとしたって、もっと異質さを感じるんじゃないかと思う。あ、いや、天宮ハルカっていう名前の雰囲気からすると文化的には元々日本人で、そのせいで文化的な異質さを感じなくなっている可能性もあるのか。
でもそれは人間と変わらないってことだよなぁ。
もうハルカちゃんが人間であるという事には疑いを持つのは止めて、人類種ではないにせよこういう人なんだから、そこに文句をつけても仕方ないと思うのがいいんだろう、という気がしてきてはいる。
思ってたのと違う感じの人というのはよく居るといえばよく居る。
かくいう私もよく言われる。もっと柔和で繊弱な感じの人柄に見えるそうだ。
いや、私は穏健だし繊細な機微のわかる人間だが? という反論をしたこともあるけど、その場での返答によるとそういうことではないらしい。なんじゃそりゃ。
「……佐々也ちゃん? なんか今日はフリーズしやすいね?」