7月2日(土) 15:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第五章 秘密とは隠して知らせる情報
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7月2日(土)
15:00
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草の海。眼の前の光景を一言で言うならこんな感じだろう。
土曜日、学校もない。朝から幹侍郎ちゃんと少し遊んで、午後になってゴジと交代。
お昼ごはんを食べ終えて、なにも用事はない。午前中はずっと地下にいたから午後は家を出ることをしようとそれだけを決めて玄関から出て、この次になにをしようか、どこに行こうかはまだ決めてない。それで目の前を見たら手入れをしてない庭が目に入ってきた。
言うなれば草の海。
雑草の茂みだとしてもまあまあの丈があるので、ここからは草の壁しか見えないけど、壁の向こうの何処かには、この前ゴジの家に来たルークが押しのけて通った跡がついている。あのTOXは地面に足をつけているわけでなくてわずかに浮いてたらしい。だから草木を踏みつけたわけではないんだけど、サイズは自体はそこそこ大きかったので、通るときにはかなり盛大に押しのける形になっていて、そのまま押しのけられた形が残って獣道みたいになっている。
ゴジの家の勝手口から出ると獣道の出口を見ることができるし、二階のベランダから見下ろすと、獣道を確認することができる。TOXはこの庭の中に落ちてきたわけではないので、坂の下の藪からこの庭の草の海に分け入って、裏口まで通ったその軌跡だ。
私は忘れ物は良くするわりに忘れっぽいということはないんだけど、なんとなく現実感が薄いようなところがある。ゴジの家にTOXが来たのって本当にあったことだっけ、というぼんやりした気分になることがときどきあるんだけど、そういう斎にこのTOXのつけた跡を見て本当に来てたんだなぁということを改めて確認したりしていた。
TOXといえば、お昼ごはんの時にサイマルストリームでTOXの予報をしていた。
次のTOXは明日、ルクセンブルク三〇〇キロ圏内らしい。地図で見ると、西ヨーロッパの真ん中やや北寄りのあたりだ。
あー、ルクセンブルクね、知ってる知ってる。ヨーロッパの国だ。
ルクセンブルクがどのへんにあるのかは予報の地図でわかるんだけど、ヨーロッパの統合体と国の違いがよく分からない。TOXは政治体制じゃなくて地理的な場所に落ちてくるから、ヨーロッパ統合体のルクセンブルグという一帯だと思えば良いから、国がどうこうというのはあまり重要なことではない。
ヨーロッパの国はアメリカ合衆国の州とあんまり変わらないみたいな説明を聞いたことがあるけど、これも私はよくわからない。今の世の中は世界政府みたいなものまであるのに、地域ごと国ごとに地域の分類さえ違うんだからめんどうな話ではあると思う。でも、それなりの歴史的な経緯もある話なので無意味ではないんだろう。でも、日常生活では役にはたたずに地図を見るときに思い出してはわけがわかならいという気分になることだけに役立っている。
それはいいや。
TOXだ。
TOXはのべつ色々なところに落ちている。
全世界で毎年平均五〇〜六〇回。平均すると週に一回ぐらいのペース。
とはいえ『地球全体のどこかに落ちたら一回』という大雑把なカウント方法なので、個々人が直接脅威を感じる機会はすごく少ない。
なんなら地震だってもっと頻繁に起きている。
全世界の一年平均だと震度一以上の有感地震なら一万回以上なので二〇〇倍以上起きてるし、マグニチュード六以上の大きめの地震に限ったとしても全世界では年間一五〇回ぐらい。つまり比較的な大きな地震はTOX落下の三倍ぐらいの頻度で起きているし、日本――というか東京――は、TOX事象の五回に一回ぐらいという、世界中でも異例の頻度だ。