……7月1日(金) 19:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「あんただってダイソン球の外から来た新人類の話してたでしょ!」
冷静になってみたら、詐欺の手口じゃないかという気がしてきた。
詐欺に遇ったことなんてないけど。
うーん、と思って横目でハルカちゃんたちの反応を確認してみると、ハルカちゃんはなんだか楽しそうだがなんでだ。疑われてるのはあんただよ。
窓ちゃんはなんだか落ち着かなさそうにしている。ゴジは無反応。
「まぁ、ユカちゃんが言うことももっともだ。じゃあ、そのコンプレキシティってやつのこと、もうちょっと詳しく聞かせてもらえる?」
「だいたい、佐々也。あんたは話を否定しないんじゃなかったっけ?」
「……さっき言ったのは、実際に出来事が起きたなら否定はできないって事であって、私の行動方針みたいなことではないんだけど……。でも確かに、聞かないで嘘だって決めつけるのは良くないと思ったから、こうして聞かせてもらおうとしてるんだよ」
「私の方も話を早くしようとして省略しすぎたかもしれない。そこは悪かったよ。そもそもは、イルカにしかわからないらしい『TOXの落ちやすさ』の指標があるらしいよ、って話。私だってそんなに詳しいわけじゃないんだけど……」
そう言いながら、ユカちゃんはイルカの地図とコンプレキシティについて教えてくれた。
そしてこの集落が、イルカの地図の上で要注意になり始めた時期と、幹侍郎ちゃんの誕生の時期が重なっていること。
この二つのことから、この前のTOX襲撃は幹侍郎ちゃんが原因だったかもしれないこと。
イルカの地図と言われると、その話はたしかに知っていることを思い出した。以前にマンガのオカルト話で見たことがある。宇宙に出たイルカは進化して、脳も人間の脳と構造が違うのでもともと立体機動する三次元的知覚力から一歩進んだ四次元を知覚する能力を身に着けることとなり、時間軸側に対する感受性が発達したため近い将来の予知が可能となり、TOX落下についてもある程度の予知ができるのだ、みたいな話だった気がする。
ユカちゃんがしてくれたのは同じイルカの地図の話だとしても、マンガと同じタイプの未来予知の話ではなかった。TOX落下予測に関する秘匿情報との類似があるとのことで、それを確かめた人がいるって事だったけど、結局は噂なのでやっぱり怪しい話ではある。
確認できない情報だという意味ではハルカちゃんの故郷の話とそう変わらない。でもまぁ、そっちを信じる態度なら、こっちを拒否する理由もないかもしれない。
ユカちゃんにはハルカちゃんの話を信用するように説得した手前もあるので、あまりツッコミを入れるのはやめておこう。それが公平ってもんだ。
いや、公平ってそういうものか? まぁいいや、公平の定義の整理は、いまここでやるとコストが重すぎる。公平でなくとも私とユカちゃんの信頼関係を維持するための必要な行動だし、コンプレキシティとかいうのを信じているふりをするのは容認できる範囲の妥協だ。
とかまぁいくらか横道にそれながらユカちゃんの話を聞く。
話が終わる頃にはそろそろ帰ろうかという時間になっていた。
「あんたが本当にダイソン球の外から来たなら、いつまでも黙ってるのは人類に対する裏切りだし、窓にも佐々也にも護治郎にも負担をかけることになるんだから、ちゃんと考えなよ」
なんて、最後にはハルカちゃんに捨て台詞を残して、ユカちゃんは去っていった。
もちろん窓ちゃんも一緒に帰った。
* * *
「コンプレキシティ……、複雑さ……。『複雑さ』かぁ」
ハルカちゃんはユカちゃんの捨て台詞にはさほど感銘を受けた様子もなく、ユカちゃんが言っていたイルカの地図に興味を引かれたようだった。しかし言われてみると英語だし、翻訳すると『複雑さ』になるの? 英語だから調べないとわからない。
忘れてなければいつか調べてもいいけど、疑問に思ったことが多くてこれは忘れるかも。
「いわれてみれば奇妙な名前だね。予言とはあんまり関係なさそうだ」
「もう少し単語のニュアンスを汲み上げると、英単語コンプレキシティって『複雑さの度合い』みたいな意味だから、予想の難しさには関係あるかもしれないけどねぇ」
複雑さに度合いとかあるのか?
あるかもしれない。糸がこんがらがってダマダマになってるやつでも、引っ張ったらほろっと解けちゃうのもあるし、なんとかっていう王様が剣を持ってきて真っ二つにするようなやつもあるもんな。なんだっけ? ゴルディアスの結び目だったか。
その有名な結び目は複雑な結び目があるよってことしか関係がないけど、結び目の複雑さはたしかに遠目で見てもある程度は分かる。とは言っても、結び目の複雑さが見た目と違うこともよくあるだろうという気もするけど。でも、イルカが見てるコンプレキシティというのは実際に糸なわけじゃないんだろうから、そこは常に見た目通りなのかもしれない。比喩での理解の限界を感じる。
でも複雑って、なにが複雑なんだろうね?
そうだ。
イルカといえばもうひとりの転校生、叡一くんだなぁ。聞いてみるか。
いやしかし、できごとが色々起きすぎて、ちょっともうわかんないな。
この前は物語の登場人物みたいだってワクワクしたけど、どんな物語なのかわからないとなると、これはなかなか煩わしいと言うか、けっこう困るものだ。ジャンルは最初はホラーだった。途中からSFに変わってきたと思ってたんだけど、ここに来てオカルト予言謎解きものも追加だ。
当事者になってみると設定過重だとちょっと困るね。
第四章、了
次回更新は一月の休みをおいて8月1日の予定です。
すいません、作成ペースが崩壊してしまい、7月1日の更新には間に合わなくなってしまいました。具体的に言うと、1日の章の投稿開始の日には準備が終わっている状態を作業の目安にしているのですが、今月は18日ごろまで作業をしていました。
活動報告に、もう少し詳しく言い訳を記載しています。




