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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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……7月1日(金) 19:00

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 これぐらいまで話したとき、ハルカちゃんが私の名前を呼びながら階段を上がってきた。

 部屋に入ってくるハルカちゃんを見るユカちゃんの目が非常に厳しい。

 まぁ、あの反応を見る限りそうだろうなぁ。



 その後、食堂――いや、会議室だった――でゴジとハルカちゃんを交えてちょっとした打ち合わせ。

 ユカちゃんは今後は携端の電源を切りたくもないし、秘密にすることをたくさん知りたくもない。だから、これ以降はこの家に来るのは控えるそうだ。幹侍郎ちゃんに会いに来る友達が減るのは残念だけど、それは仕方ない感じがする。

 それから、ユカちゃんが条件を指定した上でハルカちゃんにもう一回指を切り落として見せてもらうことにした。じゃんけんをしてハルカちゃんがチョキで出した中指をユカちゃんが掴んで、そのまま切り落としてもらう。それで、見ながらものすごく嫌な顔をしていたりする。

 どうやって生やしてるのかまでは知らないけど、ハルカちゃんの指も直後に生えてくるわけじゃないから、さっきのと合わせて指が二本無いことになって、なかなか迫力がある。

 迫力というか、忌避感というのだろうか、こういう感情は。冷静に考えれば怖いわけではないけどやっぱり嫌だと思ってしまう独特の圧迫感というか。

 指を切り落とすのを見るのは我慢したとしても、お腹を刺すのはさすがに見たくなかったらしいので、ユカちゃんはそこまでは要求しなかった。


「そうだ護治郎!」

「なに?」

「佐々也から聞いたけど、幹侍郎くんは半年前の生まれだって?」

「うーん、まぁ、それぐらいかな……」

「なんではっきりしないのよ」

「一日で作っ……生まれたわけじゃないからさぁ。でも、完成……幹侍郎がはじめて動いたのはその頃だよ」

 途中どうだったのか気になると言えば気になる。

 でも、ゴジの心がけている言葉遣いのとおり、幹侍郎ちゃんはあんまりロボットという感じがしないので、もしかしたら生まれている途中の様子って例えるなら出産かもしれないし、そうだとしたら本人たちが恥ずかしいと感じることもあるんじゃないかという気がしている。

 それは別に恥ずかしいなんて事ないだろうとも、聞いたら普通に教えてくれるような気もするとも思うんだけど、恥ずかしいことかどうか決めるのは私じゃなくてゴジだろうし、なんとなく躊躇があってまだ詳しく聞けていない。

 それに、清純派の窓ちゃんの前じゃ聞きにくいよな。なんとなく。

 私もまあまあ清純派の方だけど、学術的な興味みたいな口実もあるからね。いや、本当にエロくない意味での興味はあるんですよ。実際には学術的っていうほどまとまった考えなわけじゃないけど。

「……なるほどね。それで、半年前からこの集落では異常が発生しているんだけど、それは知ってる?」

「え? どんなこと?」

「コンプレキシティが高くなってるの。コンプレキシティ……って、わかる?」

「知らない」

 と、ゴジは首を横に振っている。

 私も知らない。どこかで聞いたことがあるような気はするんだけど、その程度だ。

「ピンときてないみたいだからわかりやすく言うと、イルカたちがこの集落にTOXが落ちやすくなるかもしれないって予言してるの」

 …………。

 ユカちゃんがビシッと言いきった後、私もゴジも黙ってしまった。

 こういうの知ってる。天使が通ったっていうやつだ。

 ハルカちゃんも黙ってるけど、私達とユカちゃんの顔を交互に見比べてる。

 そうしたら、ビックリするくらい残念な感じの声が、自分の口から出てくるのが聞こえてきた。

「え〜! イルカの予言ん〜?」

 つい口をついて出たってやつ。

 なにしろ、イルカの予言といえばスピリチュアル系の定番。うさんくさい話の代表だ。

 次点で地球の声、その次がダイソン球支配者の教え。

「違う! そういうんじゃないから! 非公式だけど、コンプレキシティっていうちゃんとしたやつだから!」

「ちゃんとって言われても、イルカの予言なんでしょ?」

「あんただってダイソン球の外から来た新人類の話してたでしょ!」

 ……してたなぁ。

 改めてそう言われるとあまりにも胡散臭いけど、呆れた声を出した以上、いちおう役割としては抗弁が必要だ。

「あれは、ハルカちゃんが言ってたことそのままだし、指切り落としたりとかの証拠も見せられたからさぁ」

「コンプレキシティだって一時的な話じゃなくて、有名じゃないだけで前々から予測を色で表現した地図があるんだよ! そもそも、指切り落としたってダイソン球の外から来た説明にはなってないでしょ!」

 それは私としても覚束(おぼつか)なく思っているところだ。複数の胡散臭い話を聞かされて、そのうちのひとつについてまあまあの証拠を見せられたから、証拠の確認をしようがない方もついでに信じることにしているに過ぎない。

 冷静になってみたら、詐欺の手口じゃないかという気がしてきた。

 詐欺に()ったことなんてないけど。


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